その8
見た目はあちらとあまり変わらない茶色の馬に御者が一人、後ろには荷台がある。
馬車は道の右側に寄ってはいるが一応念の為ぶつからない様少し左側に移動する。
「おぅ!こんにちは!1人かい?」
わざわざ横に止まって挨拶をしてくれたのは、少し顔が厳つい30代ぐらいの男性だった。
まさか、もう人に会うことになるとは…
「はい、こんにちは!えぇ、1人で気ままに旅をしています」
「おぉ、そうかい。冒険者、いや旅人かい?この先は俺の村なんだが乗っていくかい?」
「それは助かりますが…」
「何、金はとらねぇよ!家の宿に泊まってくれればいいなと思っただけだ。」
「宿?宿を経営されてるんですか?」
「スーファ村で宿は家だけだよ。どうだい、お客さん?」
どうやら客になってくれると思って声をかけてくれたみたいだ。
村まで乗せてくれるのは正直助かる。それに…
「宿には泊まりたいのですが…あのぅ宿代はいかほどになりますか?」
「ん?あぁ、金の心配してたのか?心配しなくてもボッタクリじゃねぇよ?一泊銀貨8枚。食事が一食銀貨3枚だな。家は食堂のついででしているからな!安いだろ?」
よしっ!
ぐっ、とこぶしを少し握りたくなるのを我慢しながら笑顔で考えを回らす。
思ったより簡単に金額を知る事ができて良かった。
このまま乗らずに行くのは親切を断るのだから印象が悪くなるか変に思われるだろう。
反対方向にある別の場所を目指す、というのはこっちを向いていた時点で不自然。
通りすぎるのならスピードもでていない馬車に道幅も十分にあって距離もあるのに態々止まって待つ必要はないだろうし。
そして宿が一軒だけというのならば断る理由がなく、スムーズに村の中に自然に入る事ができるだろうし、休む場所の確保にもその方がいい。
口ぶりからも相場よりも安いのだろう事がわかるし、会話に困るかもしれないが何とかなるだろう。
疲れたと言って早く部屋に入って本は宿で改めて読もう。
元々村か街に今日中に着きたかったし。
「はい!それではお願いしてもいいですか?」
「おぉ、じゃあ後ろの荷台に乗んな。…宿はどうする?」
笑いながら聞かれたのでニッコリ笑いながら
「とりあえず、一泊したいのでお世話になります」
と言った。