その8
私のジョブは魔法使いである。
これから自分で生活費を稼ぐ事を考えれば冒険者組合に所属するのが一番良い、のではないだろうか。
どこにも所属せずに何処かに働き場所を見つけて定住する、というのは無理だろう。
この世界この時代では戸籍等が曖昧な所はあまりないらしい。
異世界から来た者の中に住民票や戸籍の仕組み等を話した人がいたらしく、速やかにそれぞれの国で一斉に調査、書面にして管理する様になったとの事。
移住でも審査がとても厳しいと本にもあったし、5年近くは年毎に面談審査があるみたいだ。
冒険者が拠点を持つ場合は組合が保証人として後ろについてくれるので審査がないらしい。
前までの経歴を捨てた無戸籍扱いになる者達は大抵冒険者になる。
冒険者という立場そのものが戸籍を捨てる様な物だからだ。
冒険者は冒険者組合にて戸籍を一斉に管理されているが、出身地やそれまでの経歴は口に出さなくて良いと暗黙の了解にもなっている。
亡命してくる者は審査の後、移住者か保護対象者になる。
その国にとって不利益になる場合は…まぁ御察しである。
濁して書いてあるが、巻き込まれたくない事情持ちの場合は速やかにその国から出されて二度と入って来れない様に厳重に入国の審査基準が暫くの間変わるか、え、そんな人何処にもいないよ?と存在を消されるみたいだ。
そんな人には絶対関わりたくないな…そんな事情持ちと関わる事なんて起きないだろうけど。
旅人は自分の出身地について話す人と話さない人もいるがあまり気にはされないらしい。
自分の国が嫌いで旅に出て移住先を探す事は少ないがあるのだ。
入国審査の場合は荷物検査と魔道具による敵意、害意の有無の確認で通されるみたいだ。
…私は勿論この世界の戸籍を持たない。
この世界での昔話も出来ないので移住者になるのは不可能だろう。
もしうまくいってもなぁ、という思いもある。
私の生活基準は日本の物である。
金持ちじゃない普通の家だったが…
食事は1日3回、お風呂は毎日入れる。
家にもよるだろうが携帯を買って貰っていたのでゲームして遊んだり、ネットサーフィンしていた。
ボードゲーム等玩具には種類がたくさんあり、娯楽には困る事は無かった。
テレビで好きな番組やドラマを見ていたし。
貰ったお小遣いでお菓子や服を買ったり。
学校に通うのは普通だとのんびりとしていて、親に世話になるのは普通だった。
……今まで何も気にせずにぬくぬくと安穏に庇護されていたのに家事から仕事まで自分一人である。
この世界では砂糖は貴重で甘い物は高い。
お風呂などは銭湯があるが滅多になく、湯に浸かる等平民は普通しない。
お金を稼ぐのは…自分だけ。
真面目にやらないと日々を過ごす事が出来ない様に…なったのだ。
ベッドに横になりながらずっと考えていたせいか眠くなりながらも思考を働かす。
冒険者になろう。
力を少しずつつけて自分の身を守りながら。
いつか日本での暮らしの様に安穏と暮らせる様に。