その3
まだ、ご飯の時間じゃないよね?早すぎだし。
窓を見ても明るく、夕方や夜という感じではない。
何か、問題でもあったのだろうか?
動きたくない、動きたくないけど。
「はーい…?」
起き上がって返事をしながらドアを開けると12、3ぐらいの女の子が木桶を持って立っていた。
「お休みの所失礼します。こちらお湯になります。」
はい、と渡されたのでぽかんとしながらも受け取った。
手渡しされた木桶には確かにお湯が入っていた。
「もし、追加でお湯が欲しい時は銅貨で5枚ほどになりますので、ご了承下さいね」
ニッコリ笑って言われて内心しっかりしているなぁと感心した。
あんまり年変わらないけど、この頃自分はこんな言葉遣いじゃなかった事は確かだ。
笑顔完璧ですねと敬語で言いたくなったわ。
「ありがとう」と言ったら、また笑顔で失礼しますと下に降りていったので部屋に戻る。
木桶を取り敢えず窓近くにある机の上に置く。
…あれか、このお湯がお風呂代わりになるあれかな?
旅で汚れたのをこれで〜というあれか。
というか、本当に貰えるんだな〜。
なんだか感動。
「…タオルあったけ」
「は〜、濡れタオルで顔拭くと結構気持ちいいな〜。」
タオルは手持ちに無かったが、あの後ベッド横の小机の上に2枚置かれていたのでそれを使った。
…新しめだったし、変な臭いはしなかったから大丈夫だろう。うん。
顔や手足だけ拭いたけど、綺麗にはなった様な気分にはなった。
…まぁ、出来ればお風呂に入りたいなぁとは思ったけど。
これからはこれが普通になるんだろうか?
お風呂好きに入れるってのはとても贅沢だったんだなぁ。
…まぁ、それは置いといて。
「本読むかぁ」
そろそろ読まないと時間がないし。
疲れているからご飯食べたら寝そう。
明日出るかは考え中だけど、厳しいよなぁ。
お金の問題は今の所ないけど。
ずっとというわけじゃ無いから稼ぐ手段を考えないといけない。
…考えないといけない事が多いなぁ。
色々と考えながら本を取り出す。
【必見!初心者マニュアル】
やっぱり冒険者!という見た目だが中身はどうだろうか?
本を開いて読み始める。
…何て書いてあるのかなこれ?
読めない。全然読めないんだが。何だろこれ何語?
英語みたいなくねくねとした文字なんだが。
…え、そもそも何で表紙はこう読めたの。
あ…
「文字が…?」
うっすらと文字が透けながら日本語に置き換わっていく。
どうなってるのこれ。
補償に書いて無かったよね?怖いのだが。
本をもう一度読んでみる。
『初めまして。この本を手に取ってくれた事をとても嬉しく思う。
私の名前は、アルノー。
この本は、私が新しく旅をする後輩に向けて知ってて欲しいと思った事をまとめた本だ。
色々と書いたので少し図鑑の様だと試しに読んでもらった友人には言われたね。
冒険者として旅をずっとしていた。
世界は広いんだなぁと知ったよ。
自分が無知だと思う事も何度かあったね。
これは自分が旅をして成長したという気持ちを込めて書いた本だ。
これを読む君の役に立ってくれる事を祈っている。
旅人 アルノー』