何がいけなかったのか
誰かが叫んでいる。
「今までの報いを受けろ」、と。
我が家が燃えている、年若い庭師が全霊を込めていた薔薇園も埃一さじなく綺麗にされていた本宅もつい半年前に建て替えた使用人寮も何もかもが。
暴徒に捕らえられた私たちはその様を呆然として見守っているしかない。
一体何がいけなかったのでしょう?
私たちの貴族然とした立ち振る舞いでしょうか?
それとも旧態依然とした体制であり続けたからでしょうか?
あるいは理由なんて特になかったのでしょうか?
たまたま貴族街と庶民街の境目に位置していて襲いやすかったからでしょうか?
隣国から到来した民主化なるものが入ってきてからこの国の民は変わりました。
啓蒙家の演説を拝聴した限りこの国での民主化はまだ早いように思います。
彼らのいう自由とは勝手気儘に振る舞うことではありません。
他からの強制・拘束・支配などを受けないで自らの意志や本性に従うことです。
そのことを暴徒となった民に説いてもアヒルの背中からはじかれる水で理解してくれません。
襲撃を受けて三日、私たちは暴徒達が用意したギロチンにかけられることとなりました。
そうなるまでの間、男は彼らに都合のよい証言を吐かせるために拷問にかけられ、女は鬱憤のはけ口として陵辱されました。
ギロチンは貴族や王族が目にしやすいように広場に設置されその周囲を武装した暴徒が警戒していました。
私刑台に送られる私たちを目にした群衆は悲痛な面持ちをしています。
きっと今の私たちが以前の面影なぞまるで見受けられぬ容姿をしているからでしょうね。
何人かの勇気ある人が私たちを救出しようと暴徒の下へ向かおうとしますが、その度に周りの人々に止められています。
「離せ、離せよ!」
「なりませんストレイフ様。何卒御身を大切に」
「うるさい!ディーが俺の婚約者が晒し者にされようとしているのだぞ」
「あの者共は自爆魔法を使うのですぞ。騎士団が対応に出ております、落ち着いてくだされ」
従者に止められていましたが無謀な突撃を行おうとしている中に私の婚約者であるスト様もいらっしゃるみたいです。
嗚呼、スト様今の私の心持ちはあなた様にこんなにも思われていることに対する歓喜と驚き、そして醜いこの姿を見られたくない気持ちがごちゃ混ぜになっています。
「これより、我ら国民を苦しめる巨悪その一端を担うホイルス家の処刑を執行する」
「彼の貴族は飢饉の最中であろうと税を軽減することなく私腹を肥やし、裕福な暮らしを行い続けた」
「剰え後ろ暗い組織と提携して王国法で禁止されている奴隷の生産・売買にも加担していることが判明している」
「よって我ら民主戦線はこの者らを処罰してこの国の民主化の礎とすることを民議にて決定した」
「同胞よ。諸君らの御難の根源は我々が我々が取り除こう」
「そして共に民が主体となる国家を築こうぞ」
暴徒達が私たちの罪咎を朗朗と語りかけます。
税を軽減しなかった?
裕福な暮らしをしていた?
奴隷を売買していた?
そんなの出鱈目だ。
事実の一箇所だけを切り出してさもそれだけが起きたかのように言っているだけじゃない!!
暴徒達の言い分にそう反論したいが私の口からは耳障りな息を吐く音が漏れるだけ。
どうやら真っ先に断頭されるのは私のようだ。
父や母の泣き叫ぶ声が聞こえる中、私の命を支えていた縄は切り落とされそこで私の命は終わりを迎えた。