第八話
「フッ」
俺は木剣を相手に向かい振るうも、相手の肌を掠めることなく木剣で防がれてしまう。
「甘いぜ!」
力負けし体勢が崩れる。
その一瞬を狙って放たれたカウンターは的確に俺が木剣を握っている手を打つ。
「いっ」
手放した木剣を拾おうと伸ばした手が払われ、首に木剣が寸止めで当てられる。
俺は両手を挙げて降参の意を示す。
「参りました…降参です」
「おう、お疲れさん」
俺はそのまま地面に座りこむ。
ジョーが俺の落とした木剣を手渡してくれる。
「やっぱお前の剣はさ、何つーか普通なんだよ。いや、悪いことじゃないんだぜ、唯何て言うか、捻りがないっつーか…」
ジョーは彼なりの評価を俺にする。
「うーん…そうだ!型通りなんだよ、お前の剣。だから先読みされちまうんだ」
「捻りがない、型通り…」
こんなんじゃこの先出会うであろう強敵と合間見えた時、為す術もなくやられてしまう。
ここで俺でもジョーでもない声が聞こえた。
「そんなのじゃカイに伝わらないよ、ジョー」
声の方を見ると、そこにはロウがいた。
「少しだけ見させてもらったけど、カイは一々姿勢を直して剣を振る癖があるんだと思うよ」
「姿勢を…気付かなかった…」
多分、と付けたしロウは更に評価をする。
「姿勢を直してしまうのは、その姿勢が一番剣を振るいやすくて、強いと分かっているからだと思うよ。そこを治せたら今よりかは善戦出来るんじゃない?」
「その癖ってどうやって治したら…」
俺は訊ねる。
「うーん個人で変わるから一概には言えないけど、例えば…どんな姿勢からでも最善の一撃を与えられるようになる、とかかな」
「どんな姿勢からでも…分かりました」
ロウの説明は分かりやすい、どこかの誰かさんと違って。
ロウは俺の肩を叩いて、団家へと帰って行った。
「さーてと、昼メシだな!先行ってるぜ!」
はい、とだけ返し俺は木剣を握り直した。
木剣を振り始めて数分が経った頃合い、
団家の方から呼び声が聞こえた。
「お昼だよー、カイー」
この声はサーヤだろう。
「分かりましたー、今行きますー!」
木剣を腰に携え、団家へ駆けて向かうと、サーヤが出迎えてくれた。
「訓練お疲れ〜、毎日頑張ってるね〜」
「はい、何かあった時に皆さんの足を引っ張ることだけはしたくないですから」
サーヤはほうと感心した様に頷く。
「まあもっと頑張って追いついて来なよ、見習い君〜」
「はい!」
それはさておき、
「今日のお昼は何ですか?」
「今日は団長が作ったオムライスだよ〜」
団長って料理出来たんだ…掃除出来ないのに…
∞
昼食を食べ、少し腹を休めてから俺は木剣を持って個人練習をしている。
ちなみに団長のオムライスは普通に美味しかった。
個人練習とは言っても、ロウに貰ったアドバイスを実行するだけだ。
と、思っていた。
簡単だろうと侮っていた。
唯剣を振るだけならば出来るか。だが、剣筋をブレさせずに振るというのは未だに意識していないと出来ない。
更にそこへどんな姿勢からでもという条件を追加すると、一気に出来なくなる。
「むず、かし、すぎ、だろ!」
木剣を地面に置き、草原に寝転がる。
少しだけ風が吹き、草木が揺れる。
空、青いなぁ
と当たり前のことを考えていると、急に眠気が襲って来て、俺は瞼を閉じた。