第七話
『騎士っていつもは何をしてるんですか?』
『ん?…ああ、騎士は基本的には自由だよ。何だい急に?』
『いや何でも…』
昨日、掃除を終え部屋を貰った俺は団長に訊ねた。
俺は団長の返答に生返事を返し、ジンの居る宿に帰って来た。
暗黒騎士になったと伝えるとジンは
「暗黒…?まあ無事入団出来たなら良かったじゃないか!」
と言っていた。
やはり認知度低いのだろうか。暗黒騎士…
そして今日から団家で暮らすことになったと言うと、なら宴だな!と言っていた。今日の晩は豪勢になることだろう。
さて、団家に帰って来た俺は入り口で止められていた。
目の前の少女に。
「……」
ずっとこの調子で俺の周りを回りながら俺を凝視する少女。
正直言って怖い…いや本当に。
「……、分かった。それじゃあ」
勝手に頷き駆けて行った少女。残された俺の頭の上には『?』マークが量産されていることだろう。
「今の人って一体?」
俺は近づいて来た団長に訊ねてみることに。
「ああ、今のは団の優秀な鍛治職人だよ」
「鍛治職人!?」
あんな子が鍛治を……鍛治というと師匠やジンと同じ位の巨漢だというイメージがあったんだけど…
「どうやら採寸と色決めをしていた様だね」
「採寸!?色決め!?」
あんな短時間で!?
あんな可愛らしい女の子なのに!?
コホン、後者は余計だったな…
鍛治職人って皆あんなに凄いものなのか……
そんな俺の考えを読んだ団長が
「彼女は鍛治の妖精に好かれているらしいね」
「妖精、ですか?」
団長は一度頷き言う、
「何でも数年に一度、妖精がこの世界にやって来て母親のお腹の中にいる新たな生命に干渉するらしい」
「へぇ…」
俺にも妖精、いるかな…
「妖精はいつでも皆を見ていて、頑張っている人間に応援を贈るらしい」
「なら…」
「まあ、これは教養の御伽噺みたいな物なんだけどね」
顔が熱くなっていくのが分かる。
「おや、もしかして本気にしちゃったかな?」
「っ〜!」
俺が羞恥に悶えていると不意に後ろ、入り口の方から声が聞こえた。
「お、団家綺麗になってる!」
「うお、本当だ!」
目を向けるとそこには団長と同じ柄の鎧を着込んだ人たちが目に入った。
「やっと戻って来たね、皆!」
「久しぶり、団長〜!」
「お久しぶりっす、団長」
皆挨拶を交わす中、俺は蚊帳の外。
「それにしてもやっと掃除したのね…」
「床が見える、だとう!?」
「しかもちゃんと水拭きされてる!」
団長、あんた仲間から酷い言われ様ですが…?
「したのは私じゃなくて、そこにいるカイよ!」
団長が俺に指を指し、一同が初めてこちらに顔を向ける。
「お、何々?新人っすか!?」
「おお、団に新人って二年振りじゃない?」
「新人じゃなくて『見習い騎士』ね、あなたたち…」
ワイワイガヤガヤ、そんな例えが合うであろうこの場。
団長が手を叩き、一同がそちらを向く。
勿論俺も。
「この子が我が団に入団したカイだ。カイ、自己紹介を簡単に」
「は、はいっ」
緊張でガタガタ震えた足で一歩踏み出す。
「気楽にいこうぜ!気楽に!」
一人が野次を飛ばし静かだった場に笑いが起こる。
少し緊張が解れた俺は口を開く。
「か、カイと言います!強くなって力を持たない人を一人でも多く救えたらと思い、入団しました!」
言い終えると疎らに拍手が起こる。
「暑苦しいけど、そうゆーの嫌いじゃないぜ!」
さっきと同じ声で野次が飛ばされる。
団長がもう一度場を沈め、各自の自己紹介が始まった。
「俺の名前はジョー、ああいうの嫌いじゃないぜ。宜しく!」
「俺の名前はロウ、ジョーと同じく嫌いじゃない。宜しく」
「次は私ね、私はサーヤ、分からないことがあったら何でも聞いてね。後輩君!」
「だから見習い騎士だと…私はヨミ、この団の副団長代理です、宜しく…」
「ボクの名前はナイヤ、気軽にナイって呼んでくれて構わないっすよ!」
覚えきれるだろうか…
「自己紹介は終わりね」
団長が外を見る、外はすっかり暗く夕食の煙が見える。
団長の提案で全員揃うのを待っていたからだ。
「さて、皆揃ったことだし、晩御飯にしましょうか!」
「あ、今日俺の住んでいた宿で宴をするらしいのですが…」
俺の一言に場が静まり、口々に「宴…?」
という声が聞こえる。
「そ、その…皆さんも一緒に」
「「「宴だ〜!」」」
「えっと、その……」
「ごめんなさいね、皆一度こうなると止まらないの、良ければ案内を頼んでいいかしら?」
たしか……ヨミさんだったか、が言う。
「分かりました、宴は人が多い方が盛り上がると言いますし…」
その晩、宿に皆で行きジンは最初こそ狼狽えていたものの、すぐにいつも通りの様子に戻り、宴の準備を始めた。
宴は深夜まで続き、翌日は皆揃って二日酔いだったとだけ言っておこう…
次回登場人物紹介を挟んでから新章に突入します。