第五話
「ん……ここ、どこだ…?」
目が覚めたのは医務室、だろうか。
治癒の魔法が掛けられており、体中の痛みは和らぎ、木の細剣で突かれた箇所は生まれたての様に綺麗になっている。
とは言っても、体は怠いし関節などはまだ痛む。
一番新しい記憶。
俺が相手の技をくらい、倒れ伏せるという場面。
右手を開いたり握ったりする。
俺は負けた。
その事実が頭に焼け付いて離れない。
師匠に十年鍛えてもらって、バンには毎日美味い飯を作ってもらって…
だけど俺は負けた。
あの金髪の少女に。
俺は何故自分が負けたのかを分析する。
一つ、自信過剰になっていた。
確かに俺は師匠に鍛えてもらって『自分は強い』と思い上がっていた。
一つ、相手の使った技。
多分これが原因だ。俺は努力してきたし、訓練や鍛錬を怠ったことなど一度とてなかった。
ならばこの技とは何なのか。
問題はそこだ。
確か相手が何か言葉を発してから俺は地に伏した。
テンピーシン。確かに相手はテントラストと言った。
いくら教養のない俺でも意味は分かる。
テンは十。ピーシンは……分からない。
だが大凡の想像はつく。相手が使っていた武器種は細剣、レイピアだ。
細剣とは突く武器。
ならば必然的にピーシンとは突くとか射抜くとかそんな意味合いだろう。
だが、技とは普通、騎士でも上位に位置する人間が使えるものだ。と師匠に聞いたことがある。
だが俺と良い勝負をしていたと考えると、その理屈は通じない。
ならば後一つ、考えられるとすれば……
「貴族、か……」
部屋に俺の声が残る。
しかも貴族でも技が使えるのは限られた者のみ。
技が使えて可憐で、まるで物語の主人公の様だ。
羨ましい、俺にも技が使えたら。
妬ましい、何で俺じゃないんだ。
醜い思想が頭の中を埋め尽くしていく。
「気分はどうだ」
途端、声が聞こえた。
声の方を向くと、ドアにもたれ掛かった黒い鎧を身に纏った女性がいた。
「っ!」
驚いた俺は咄嗟に身を起こそうとして、
「いっ!」
激痛が奔った。
「何、怪しい者じゃない。安心したまえ、私が君の命を狙う者だったら今頃君は生きていない…そうだろう?」
黒鎧の女性の言葉は最もだと思った俺は再びベッドに身を委ねた。
「…貴女は一体何者なんですか…」
俺は和らいでいく痛みを堪え、問う。
黒鎧の女性はゆっくりと口を開いた。
「私は暗黒騎士団の長をしている、シャーロットと言う者だ」
はて、暗黒騎士とは?
「さっぱり分からないという顔をしているね…。まあそれが普通の反応なのは分かり切っていることなんだけど……」
最後の方に行くに連れて声が縮んでいく自称暗黒騎士団長。
「……暗黒騎士について知りたいならば、歴史の成り立ちから知らないといけないが、君は歴史、分かる?」
首を横に振る。
「ならば歴史から話そうか…時はーー」
時は未だ、人界と魔界が同じ地にあった頃。人間と魔人は対立していた。
彼らは些細なことで争っていた。
航海費が高い、物価が高い、領土を寄越せ。彼らは相手を屈服させ、配下にしたかったのだろうとも言われている。
ある日、人間の領域で魔人の死体が見つかった。
魔人は怒り、人間は自分たちは何もしていないと抗議した。結果は乏しく、両者は戦争の道を選んだ。
魔界からは魔装兵士。
そして人界からは、
暗黒騎士を。
闘いの末、勝ったのは人間だった。
敗北した魔人たちは儀式を行い、魔神を復活させ、『人間のいない世界へ』と祈り、別の世界へ行った。
「まあ、簡単な話。この時の暗黒騎士というのが私の七代前の団長さ」
言い終えた暗黒騎士団長は俺の顔を見る。
「分かって貰えたかな」
「ええ…」
理解はしたが、何故そんなことを俺に話すのだろう。
「あー、君。きっと今、何でそんなことを俺に話すのか?って思っただろう。その理由は至って簡単ーーー
ーーー君、暗黒騎士団に入団することになったから」
へ?