第四話
「正々堂々たる戦いを」
俺たちを呼びに来た騎士とは違う法衣を纏った男が言う。
「両者、木剣を構えて…」
腰に差していた木剣を抜き、体の前で構える。相手を見ると半身を引き、胸の前で細剣型の木剣を構えていた。
細剣の構えは分からないが、きっとあの構えは一撃で相手を沈める構えだ、と思う。
「……始め!」
火蓋は落とされた。
相手は動かない。俺は好機と思い駆ける。
木剣を下から上へと振り上げる…ところで相手の腕と細剣がブレ、俺の木剣は弾かれる。
まずいと思った俺は咄嗟に剣を持っていない方の腕を前に出す。
瞬間、その腕に強烈な痛みが奔る。
「っ!?」
剣の腹で叩かれたことは多々あったが剣先で刺されたのは初めてだった。
叩かれた時は痺れる様な痛みだったが、刺された痛みは、肉を抉られる様な痛みだ。
俺は大きく後ろに下がる。
相手はその場で止まっている。
俺はチラリと傷を確認し、動作に支障がないかを即座に試す。
痛みが奔った。左手は使えなさそうだ。
「驚きましたね、まさか私の反撃が防がれるとは…。次は本気で行かせて貰います」
手加減していたのか、という驚きと手加減されていたという怒りが俺の中に芽生える。
手加減をやめる。ならばこちらも本気で臨む迄のこと、俺は右手で力強く木剣を握る。
切って下がるを数回繰り返していくうちに集中力が散っていく。
今度は腹に攻撃をくらう。
お返しと言わんばかりに俺も相手の足に剣を当てる。
両者共に後ろに飛び退き、体制を立て直す。
深呼吸をしていると、不意に声が掛けられる。
「次に私は諸刃の剣である技を使います。避けられるものならば避けて御覧なさい」
そう言い細剣とともに半身を引く相手。
俺は嫌な予感がして後ろに飛び退こうとして
「十連刺突!!」
相手の腕と細剣が停止したかの様に見え…
俺は地面に横たわっていた。
何が起こったんだ?という疑問が頭の中を渦巻く。
技を放つ直前に発したテンピーシンという言葉。あれは神言と言い、神に祈ることによって祝福という形での返し。
身体中で痛みが爆発する。
手に、足に、胴に力が入らない。
負けるのか、俺は。ジンに、師匠にあれだけ言い張った癖に、こんなところで負けるのか…
混沌とした意識の中、初めて師匠に出会った時の言葉が頭に木霊した。
『苦しいかボウズ、自分も一緒に死んだ方がマシだと思うか?』
『ならな…』
『笑え』
『苦しいなら、死にたいなら、笑うんだ』
笑え。
その言葉が耳に残る。
力を込めた右手を口に当てる。
俺は笑っている。苦しいから、死んだ方がマシな位の痛覚を味わっているから。
笑うんだ。
『どうだ、思ったんじゃないか?
まだやれるって。ならお前がすることは唯一つだ』
『咆哮えろ』
「ぅ、うおおおおおおおお!!」
体を起こし、膝を地に着く。
近くに転がっていた木剣を杖代わりにして立ち上がる。
体がフラフラと揺れるも眼だけはしっかりと相手を見据えている。
「なっ!」
驚いただろう。
体が地面に着いたから、
勝ったと思っただろう?
「…はまだ……俺はまだ、立っていられる。剣を振るえる……戦えるぞ!!」
俺は地を蹴り駆ける。
相手は諸刃の剣と言った。ならば相手には何かしらの不利益があると仮定していい。
「うおおお!!」
雄叫びを上げ、剣を振るう。
その時、
急に全身から力が抜けた。
立つことすら儘ならなくなった俺は、糸の切れた操り人形の様に地面に倒れ、今度は意識をも手放した。