第二話
「それじゃあ行ってくる。ジン、こいつが入団するまでの間面倒を見てやってくれ、頼んだ」
いつもとは違い、鎧を身に纏った師匠がそう言う。
「承った。絶対に無事で帰って来いよ、バン」
真剣そのものの顔でジンが言った。
「ああ、勿論。まあ遠征なんぞで怪我をする程柔な鍛え方はしてないさ」
「だと良いがな…」
「おう。カイも心配そうな顔すんな、絶対に帰って来る」
師匠はニッと笑い俺の頭に手を乗せた。
「お前は人の心配よりも自分の心配をした方が良いんじゃないか?」
「だ、大丈夫です!師匠に教わった剣で俺は最強になって見せますから!」
師匠はハッと笑うと俺の頭の上に乗せた手で俺の銀色の髪の毛をくしゃくしゃとした。
「…絶対に帰って来ないとな……」
師匠が何か言った様に聞こえたけれど、いつものような声ではなくそれは弱々しい一声だった。
「じゃあなカイ、ジン。帰って来た時はたらふく飯を食おう」
「当たり前だ…」
「はい…」
師匠の姿が見えなくなるまで俺とジンは手を振り続けた。
「行っちまったな…」
ジンが寂しそうに言う。
「でもこれで大食漢が一人減ったと思ったら、気が楽になるな!」
空元気に言うその横顔には、キラリと光るものがあった。
∞
朝の宿にて怒鳴り声が聞こえる。
師匠が出発して二週間が経った日。今日騎士団集決が行われる。
「寝癖ない、飯食った、よし!準備オッケーだな!」
結局俺は師匠の言った騎士団集決に行くことにした。
緊張はしているが変な感じだ。身体中がふわふわする。俺って戦闘狂だったのか!?
変なことを考えている俺にジンが声を掛ける。
「良いかカイ、今日来るのは平民だけじゃなく貴族もだ。最近は貴族の質は良くはなってきているがそれでもまだ、馬鹿な奴らはいるだろう。そんな奴らと当たっちまったらボコボコにしてやれ」
俺は「分かってるよ」とだけ返し自分の手を見た。
癖みたいなものだ、気付けば見るようになっていた。
掌にはマメが出来ている。
毎日欠かさず剣を握っている証拠だ。
(強くなれてるのかな、俺…)
ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
俺は頭を振りそんな弱音じみた疑問を振り払う。
(いや、絶対に強くなっている!)
先ほどの疑問に答えるように考える。
魔物だってオークを狩れる位になった。
もう十年前とは違う。
剣の振り方を学んだ、簡単な魔法だって使えるようになった、生きる術を学んだ。
(何だ、緊張する必要なんてないじゃないか。リラックスして行こう)
深呼吸をしている俺を見てジンが笑った。
「どうしたんだ?」
「いや何、十年前とは全然違う顔付きになったなと思っただけだ。騎士団集決、頑張れよ」
俺は師匠の様にニッと笑い
「当たり前だ」
と答えた。
リラックスはしたが、油断はしちゃいけない。師匠に教わったことだ。
俺はパンッと頬を叩き、宿を発った。
この世界でのオークの立ち位置は中級入門レベルなので、ソロで狩れると中々の腕前です。