4、ミミリー侯爵令嬢VS茜という女性VS第三騎士団団長
そこには、アッシュグレーの髪をした、これまた美丈夫が立っていた。 髪は短髪だが前髪が少し長く横に流している。キリッとした顔立ちにスラッとした高身長のせいか威圧感がすごい。
「また、あなたは。今度は何しているんだ?」
「別に。なにもしてませんよ。」
「じゃあ何故、部下が私を呼びに来た?再三言っているがこちらも忙しい、暇ではないんだ。これ以上煩わせるようならこちらにも考えがある。」
「なっ!私は、侯爵令嬢よ!!」
「それは、前の国の肩書きだろう?この国では通用しない。それにこちらからしたらあなたはただの我が儘令嬢にしか過ぎない。まったく口を開けば侯爵令嬢、侯爵令嬢。侯爵令嬢なら男を追いかけて回りに迷惑かけずに部屋にこもってくれればこちらもわずらわずにすむものを」
突然来た男は辛辣にミミリーに言葉を発する。
ミミリーは、フルフル震えながら反論できずに赤くなった顔を下に向けていた。その瞳には少し涙がたまっていた。
「あ~あ。またですね。彼女も懲りないから今日は言葉がきつめですね。彼は、第三騎士団団長ですよ。あちらの聖女さま候補の護衛担当なんです。」
そう言うワン子系騎士君含め回りにいた騎士やメイドも呆れた様子でミミリーを見ていた。
フム・・・。私は、少し上を向いて息を吐いた。
その次に、近くにあったキャリーケースの持ち手を最大まであげて、第三騎士団団長に近づいていく。
カラカラカラ。
回りに注目されながら、ミミリーが近づいてくる私に気づいた。
うん。近くで見るとやっぱり体格がいい。騎士なんだから生半可な鍛え方してないはず。うん、思いっきりいこう!
私は、限界まで伸ばしたキャリーケースの持ち手を両手でグッと持って遠心力をかけながら思いっきり第三騎士団団長の背中に
クリーンヒットさせた。
バコオォーン。カラァーン。
衝撃音とキャリーケースが床に落ちる音がした
何が起こったのか、あっけにとられるなかで以外にも第一声をあげたのは私だった。
「いったーい!手首痛い!なにこれ?どんな背中してんの?」
その言葉に固まっていたワン子系騎士君が動いた。
「大丈夫ですか?聖女候補様。」
なんで私だけがいたがってんの?
殴られた方はあっけにとられていたが、何事もなかったように茜をただ見ていた。
「なにをやってる?見せてみろ」
いつの間にか私の手を持ち上げ手首の状態を見ていた銀髪の男は
「無茶をするな。」と一言発した。
「それは、余計な仕事が増えるから?」
「なに?」
私は、すっと向き直り。第三騎士団団長の方に向いた。
「初めまして、私の名前は茜と言います。」
キッと睨むように相手を見た。・・・そう、私は、怒っていた。
静かに、それはもーう静かに・・・。この場にいた全員に!!
「あなたに、お聞きしたいことがあります。」
「なんだ。」
不満そうに私を見ながら男が言葉を発する。
「あなたは、こちらの女性のお名前をご存知ですか?」
「はっ!なにを言うかと思えば。聖女候補だろうが!」
「それは、名前ではなく呼び名です。それもこの国が勝手につけた・・・ね。」
「なに?」
「そちらの女性と騎士の方にもお聞きします。こちらの女性のお名前は?」
突然話を降られたメイドと騎士はオロオロしながら答えた。
「申し訳ありません。わかりません。」
その言葉に私は、大きなため息をついた。
「おかしいですね?この、大きな男性以外はこちらの女性自らお名前を聞いているはずなのに?先程、私は、自己紹介してもらいましたので覚えてますよ?」
メイドが一人はっと思いだしたかのように「侯爵令嬢様です!」と答えたことに私の怒りの沸点はこえました。えぇ、とっても簡単にこえたけど、私元々勝ち気な性格なのでこんなもんです。
「それは爵位でしょーが!!」
私の声にメイドがビクッと驚きましたがスルーします。
「私たちはそれぞれこちらの国の勝手な理由でこちらの国に召喚されました。右も左もわからない、なのになんの説明もない。
ただ、ただ、聖女候補様と呼ばれるだけ・・・。名前を聞かれることもなければ名乗られることもない、私たちは身一つでなんの気持ちの整理もつかないままこちらに連れてこられたのに。」
実際私は、温泉旅行に行く予定の荷物と一緒に来たから身一つではないのと、あとの二人もどうなのかわからないけどそこはスルーします。
「名前を名乗らない、突然召喚しといてなんの説明もなく名前も聞かれずそちらのいい名で呼ばれるのが礼儀なら私もこう呼ばせていただきます。」
私は、すっと右手人差し指を向け、
「あなたは、銀髪美丈夫、あなたはワン子系騎士(既に心の中では呼んでましたが声に出してないのでセーフです。)そしてあなたは・・・アッシュグレーの嫌な男!」
この場にいた、全員が息を飲んだことに、茜は気がついていなかった。そう、この国での騎士団団長という肩書きは簡単には手に入らず、生まれ持った爵位と本人の実力があって与えられる役職だ。いうならば、エリート中のエリートだ。
その上、1~3番の騎士団団長は容姿、家柄、実力ともに化け物と言われている。そのうちの二人がここにいて茜は知らずにあだ名をつけたことになる。
「呼び出されて数日しかたっていないんだから不安になるのは当たり前!その不安を解消するためにあなたではなく銀髪美丈夫をミミリー様はは選んだのかも知れないわね?」
私は、人生で一番冷たい目をしてアッシュグレーの嫌な男を見た。目を大きく見開いたまま何も言い返してこない。
重苦しい空気が部屋の中に広がる。
私の前に銀髪美丈夫が立った。右手を胸の前に当て礼をとる。
「礼をかいて申し訳ない。先程も名乗ったが、もう一度名乗らせてほしい。私は、第一騎士団団長カイルだ。どうかカイルと呼んでほしい。」
すーっとまっすぐ私を見る。
「わかりました。カイル様と呼ばせていただきます。私のことはどうぞ茜とそのままお呼びください。」
そう答えると納得したように、カイルは満面の笑みを浮かべた。
うっ。イケメン耐性がないからその笑みはやめてほしい。
と、考えながら思わずうつむいてしまった。
「はいはーい。僕の名前はー」と元気よくワン子系騎士君が名乗ろうとすると
「私の名前は、第三騎士団団長ー」
「結構です、私あなたの名前呼ぶつもりも私の名前を呼ばれるつもりもないので。どうぞ、私のことは今までどおり【聖女候補様】とお呼びください。」
そう言って私は、荷物を持ち部屋を出ようとミミリーの横を通り抜けるときに「あなたすごいのね。・・・ありがとう」と、とても小さな小さな声でお礼を言われたので笑顔で返事をしました。