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時空間管理人~異世界転移のその裏で~  作者:


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忍び寄る暗雲

 全員の視線が集まる中、アヤメは平然と言った。


「私、ディーと結婚するの」


「「え!?」」


 アヤメの爆弾発言に再び暗夜とディーの声が見事にそろう。暗夜が驚いている反対側で何故かディーも同じ表情をしていた。


 ディーが慌てて体を横に向けて隣に座っているアヤメを見る。


「ちょ、ちょいまて。オレ、まだプロポーズしてないぞ」


「だから今、私がプロポーズしたの。いけなかった?」


 しれっと言うアヤメに、ディーは髪と同じぐらい顔を赤くしてモゴモゴと言った。


「いや……あの、オレとしては……ちゃんとオレから言いたかったし、プロポーズの場所とか言葉とか、いろいろ考えてたんだけど……」


「じゃあ、また今度聞かせて」


 またしても、しれっと言うアヤメに


「また今度って、それじゃあ意味が……」


 と反論しかけて、ディーの言葉が止まった。


「聞かせてくれないの?」


 切れ長の黒い瞳から今にも零れ落ちそうな涙。微かに震える艶やかな赤い唇。切なく不安そうな表情。


 こんな表情を見せられて断れるわけもなく……


 ディーはがっくりとうなだれながらテーブルに突っ伏した。


「わかった、また今度な……」


「ありがとう」


 アヤメは極上の笑みを見せると、女優顔負けの名演技を終わらせて何事もなかったように暗夜の方を向いた。


「話がそれたわね。で、私としては、これが最大の理由なんだけど、納得する?」


 この一場面だけで、この夫婦の未来が垣間見えたような気がしたが、暗夜は表情を変えることなく一言だけ言った。


「しません」


 暗夜の即答にセレナが頬を膨らます。


「なんで? とってもロマンチックなのに」


「先ほどの会話のどこがロマンチックなんですか? 百歩譲ってロマンチックだとしても。ロマンチックなら法律を守らなくていいのですか? 犯罪をしてもいいのですか?」


「私が言いたいのは、そういうことじゃなくて、えっと、その……」


 セレナが手や足をバタバタと動かしながら必死に訴える。暗夜はセレナを無視して視線を再びアヤメに戻した。


「先輩、私達と還らなかった場合、次に誰が来るか知っていますよね?」


 暗夜の質問に静かに頷いたアヤメは当たり前のように答えた。


「隠密部隊でしょ? それぐらい言われなくても知ってるわよ」


「隠密部隊?」


 首を傾げるセレナに暗夜は時空間管理法基礎教科書を投げつけたい気分になったが、どうにか堪えて説明をした。


「時空間管理人が他時空間に逃げた時、時空間管理人が持っている情報が洩れないように、逃げた管理人を極秘で処理する部隊です」


「そんな部隊がいるんだぁ」


 ポカンと口をあけて感心しているセレナに、アヤメは目を丸くした。


「そんなことも知らないで、よく試験に合格したわね。ま、それは置いといて。だから二人にお願いがあるの。私をここで死んでいたことにして」


 アヤメの突然の願いにセレナは嬉しそうに胸の前で両手をパンと叩いた。


「それ、いい案だね」


 賛成するセレナに対して、暗夜は眉間にしわをよせて神妙な面持ちでアヤメに訊ねた。


「先輩。死亡証拠として持って帰らないといけない物がなにか……ご存知ですよね?」


「えぇ、知ってるわ」


 アヤメは左手で自分の頭を指差す。


「頭よ」


 セレナはアヤメの予想外の言葉に呆然と呟いた。


「どうして?」


「時空間管理人として、見たこと、聞いたこと、全てを記録に残すためよ」


「えっと……じゃあ、脳が持って還れない状況だったってことにすれば? 例えば、ミサイルで全身吹き飛ばされたとか」


 セレナが自信満々にアイデアを言うが、暗夜が不可能だと説明する。


「指令書には健康体で生存確認とあります。どうやって確認したのか、それがわからない限りどんな小細工をしても無駄です」


「そう、そこなのよ!」


 アヤメはテーブルに体を乗り出して力説を始めた。


「なんで、私が健康体で生存しているのがわかったのか。他にもこんなことがあったわ。この管理人は、かろうじて生きているから、すぐ保護して来いとか。この管理人は死んでいるが、脳は無傷だから回収して来いとか。死人の脳の回収なんて、それこそ隠密部隊にやらせろって感じよね!?」


 アヤメがセレナに詰め寄る。


「あ、う、うん。そうだね」


 セレナが困ったように曖昧に笑う。暗夜が慣れた様子でアヤメをなだめるように声をかけた。


「はい、はい、そのとおりです。ですから、話を先に進めて下さい」


「相変わらず暗夜は真面目ね。で、話しを戻すけど。これが悔しいことに指令書通りの状況なのよ。なんであんなに管理人の状態が詳しくわかるのか正直不思議だったわ。絶対、体のどこかに発信機かなにかを埋め込んでると思ったの。それで、ここの施設で体内を検査したんだけど、それらしい物は見つからなかったの」


「でしたら、その謎が解けない限り先輩を死亡したことにするのは無理です」


「だから! 時空間管理局の本部データに侵入して私を死んだことにして。この世界の技術と暗夜の腕があればできるわ!」


 アヤメの計画を暗夜は即否定した。


「できません。死亡を断定している根拠がわからない限り、時空間管理局の本部データに侵入しても動けません。地図も方位磁石もなしで、砂漠を旅するようなものです」


「なら、砂漠を旅して私を殺してきて!」


「無茶言わないで下さい。無理なものは無理です」


「そこを、どうにかしてって言ってるでしょ!」


「ですから!」


 お互い一歩も譲らず、怒鳴り合いが続く。


 セレナは隣の喧騒をよそにフワフワと視線を漂わせていた。考え事をしているようで、実は何も考えていない。そんな表情だ。


 そして、ふと思い出したようにディーを見た。


「この世界の医療技術はどこまで進んでる? クローン技術とか人工臓器は完成しているの?」


「あぁ、人工臓器は完成してるけど、クローン技術が完成してからは使われてないな。なにかあったら自分のクローン臓器を造って、それを移植するから。あと人体は遺伝子操作して不老加工してあるし、目や髪の色なんかも自由に変えれるぞ」


 アヤメが両手でディーの首を絞める。


「なんで、そういうことを先に言わないのよ。うまくすれば、私を死んだことに出来るじゃない!」


 ネコの爪のように、綺麗に鋭く整えられたアヤメの爪が少しずつディーの太い首に食い込んでいく。


「専門家がいないと、できないんだってば……痛い。苦しい! 死ぬ!! ……マジ死ぬって…………」


「専門家……」


 アヤメは呟きながら、手の力を抜いた。


 ディーはテーブルに伏せたまま、ゼーハーと肩で大きく深呼吸している。首にはクッキリと爪の後が赤く残っている。

 あれだけ鋭い爪で突き刺されて血が出なかったのは、一応アヤメが愛情を持って力を抜いたのだ。でなければ、今頃は首から血が噴出している。


「専門家はどこにいるの? 人数が少ないの?」


 セレナの質問に、ディーはテーブルに伏せたまま答える。


「専門家はオレ達側にはいない」


「オレ達側?」


 暗夜の疑問に、ディーがテーブルの中央に浮かんでいる城の映像に触れる。すると、城の映像が消えて、地上と遥か上空にある銀色の球体の映像が現れた。


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