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時空間管理人~異世界転移のその裏で~  作者:


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戦い

 機甲兵は全長六メートル、総重量一トン弱。足が太く寸胴な格好だが、二足歩行での実戦を可能にした史上初の戦闘ロボットだった。両手にはレーザーライフルと五十ミリ機関砲を持っている。


 二機は指示通り銃弾の降り注ぐ道を中央棟に向かって走り出した。後方からの味方の援護のおかげか、攻撃の勢いが衰えている。

 二機が医療棟の死角に着き、中央棟までの道順を確認していると、空から白雅が操縦するヘリが近づいてきた。


 機甲兵達がレーザーライフルを構えてヘリの操縦席に照準を合わせる。もう少しで射程距離に入る、というところでヘリは急旋回をして上空に逃げた。


「なんなんだ?」


 機甲兵達が首を傾げていると、いきなり一機がバランスを崩して地面に膝をついた。機甲兵の足に大型バイクがぶつかって大破している。

 これぐらいで壊れるような機体ではないが、ここまでバイクの接近に気付かなかったことに嫌な予感がする。


 機甲兵が司令部に連絡を取ろうとしたところで、非常ハッチが外から開けられた。


「こんにちは」


 可愛らしい声で少女が挨拶をしてきた。紺碧の瞳をした少女の髪は夕日に照らされて赤く燃えるように輝いている。


 ぽかんとした顔で少女を見ていた兵士は思い出したように声を上げる。


「貴様は……!」


 だが全てを言い終わる前に兵士の体は機体の外に放り投げられた。


「ちょっと借りるね~」


 地面に転げ落ちながらも何やら喚いている兵士を無視して機体に乗り込もうとしたセレナの体が止まる。


 機甲兵には何度も乗ったことはあったし、試験段階だったが実戦も経験している。だが、この機甲兵はなにかが違った。得体の知れない違和感がねっとりと体を包む。


 もう一機が動きの止まったセレナに向かって、ごつい手を伸ばしてきた。セレナは慌てて機体の中に体を滑り込ますと、躊躇いなく至近距離で五十ミリ機関砲を撃った。


 大抵の銃器には耐えられる外装だが、さすがに至近距離での五十ミリ機関砲は辛かったようだ。足を中心に外装が粉々に砕け、内部の機械は銃弾で穴だらけになり、機体はバランスを崩して倒れた。


 セレナはバイザーをつけて機甲兵との同調率を上げる。これにより、機甲兵の外部の様子を瞬時に把握し、思考だけで機甲兵を動かすことが出来る。もちろん、バイザーをつけずに手動で動かすことも出来るが、それではどうしても反応が遅くなるのだ。


『ちょっとぉ。なんてことしてくれるのよ!』


 怒った中にも女性の魅力を含んだ声が耳につけている通信機から入ってきた。


『その機甲兵、狙ってたのに! それじゃあ動かせないじゃないの!』


「ごめん、ごめん」


 セレナは言葉で謝りながらシルヴィアのいると思われる方向に両手を合わせて頭を下げる。

 セレナがすれば可愛らしい姿なのだが、実際は寸胴のゴツゴツした巨体が出来る限り体を小さくして、両手を合わせて頭を下げているのだ。この姿にはシルヴィアも思わず笑った。


『いいわ。貸しにしといてあげる』


『セレナ。行くぞ!』


 割り込んできた通信にセレナが上空を見上げると、白雅の操縦するヘリが一直線にこちらに向かってきていた。

 ヘリは機甲兵にぶつかる寸前で上昇した。しかし、その後ヘリは思うように上昇出来ず、地上十メートル程の位置を低空飛行している。


「重いな」


『しょうがないよ。一トンあるんだよ、この機体。飛んでるほうが奇跡だと思う』


 セレナの声に白雅は足元を見た。セレナが乗った機甲兵がヘリにぶら下がるように掴まっている。そのまま白雅は進路を西へと移した。


 機甲兵を乗っ取られるという第四の予想外の事態に、医療棟を攻撃していた軍の列が乱れ始める。


 しかも、ヘリにぶら下がった機甲兵が五十ミリ機関砲を構えて、こちらに向かってきているのだ。機甲兵はそのまま五十ミリ機関砲を撃って戦車や他の機甲兵を戦闘不能にしていく。


 そのあまりの迫力に厳重武装をした兵士達がヘリの通り道を作るように散っていく。だが兵士達が逃げ出した一番の理由は重さ一トン弱の巨体がヘリとともに今にも降ってきそうだったからだ。


「おい、もう少し大人しく撃て。これじゃあ機体がもたないぞ」


 セレナが五十ミリ機関砲を撃つたびに激しく揺れるヘリを、白雅はどうにか墜落させずに操縦する。


『これでも、めいいっぱい大人しく撃ってるんだよ。もう少しだから頑張って』


 セレナに励まされて白雅は思わず苦笑いをしていた。


「わかった。司令部のまん前に落とすぞ」


 移動司令部であるコンテナを中心に機甲兵が配置されている。


 白雅は地上の機甲兵からの攻撃を避けながら、セレナをコンテナの目の前に降ろした。

 コンテナの護衛をしている機甲兵が一斉に武器をセレナに向ける。だが、セレナはそれより早く機甲兵の急所である足を打ち抜いていく。


 モニターに映し出された映像に、移動司令部の中は凍りついていた。

 薄い壁一枚を隔てて、機甲兵同士の戦闘の振動が伝わってくる。絶対的な力で、いつ攻撃されるか分からない恐怖。


 司令官はパソコンにむかって激しくキーボードを打っている兵士に向かって叫んだ。


「まだか?! まだ、あの機体を乗っ取れんのか?!」


「あと、一分下さい!」


 悲鳴のような声を上げた兵士に、全員が縋りつくような視線を送る。


「一秒でも早くしろ!」


「はい!」


 そんな移動指令部の様子など知るはずもないセレナは、次々と目の前の機甲兵の足と武器を壊していく。


 このままセレナの快進撃で勝負がつくと思われたが、突然セレナの操縦している機甲兵の動きが止まった。セレナの後方からは時空間軍の援軍が迫っている。


「セレナ? おい、どうした?」


 白雅の問いに返事はない。白雅は舌打ちをすると、まっすぐ時空間軍の援軍の上空に向かってヘリを急降下させた。





 精神感応装置の性能が良かったのか、それとも相性が良かったのか、暗夜は予定よりかなり早く時空間軍のメインコンピューターの最深部に侵入することが出来た。


 思ったより楽だったな。


 人体実験についての情報はほとんど消されていたが、かろうじて残されていた情報をラディル大佐の指定したパソコンに転送した。同時に時空間管理局への移動経路の封鎖を解除するようにプログラムを流す。


 これで、他時空間にいる時空間管理人が帰って来ることが出来る。


 次に暗夜は時空間管理局と時空間軍の戦闘状況の情報を見た。


 時空間軍の上層部には予想外の事態が悲鳴とともに次々と報告されている。しかも救出するはずのセレナに機甲兵を乗っ取られて、最前線で攻撃をされているというのだ。


 この事態にどう反撃する?


 暗夜は時空間軍のセキュリティーシステムに入り込み、軍上層部の会議室の様子を覗いた。会議室にある防犯カメラには、白髪の多い軍人達が胸にある沢山の勲章を揺らしながら、顔を真っ赤にしてお互いに責任を押し付けあっている姿がある。


 戦場で戦っている兵士のことを完全に忘れているな。


 暗夜が怒りを通り越して呆れていると、移動司令部が占領されそうだという情報が入った。


 この馬鹿げた戦争ごっこも終わりだ。メインコンピューターを乗っ取るまでもない。


 暗夜はそう判断して、時空間軍のメインコンピューターから出ようと考えたが出られなかった。先ほどまで考えたことがすぐに実行されていたのに、精神感応装置がまったく動かない。


 どうした?


 返事があるはずがないのに、自然と精神感応装置に話しかけていた。


 精神感応装置は暗夜の声に答えるように一本の道を作る。その先には小さな光と、それを取り囲むように無数のプログラムが飛び回っている。


 あれは……


 頭で確認する前に小さな光に向かって移動していた。プログラムが暗夜に気付いて攻撃してくる。暗夜は瞬時に防御プログラムを作成、実行して小さな光に近づいていく。だが、プログラムは小さな光の中にまで侵入しており、光ごと暗夜を攻撃してきた。


 この光……人間か?


 精神を強制的に電脳空間に接続させられ、プログラムを流し込まれている。しかも、この小さな光は知っているような……


 金色の光……金色……


 セレナ……?


 浮かんだ名前に首を傾げる。何故セレナの名前が出てきたのか分からない。

 とりあえず、この小さな光の正体を知るために少しだけ手を伸ばした。小さな光も暗夜に触れるように近づいてくる。そして光に触れた時、浮かんだ言葉が確証に変わった。


 なんで、こんなところにいる? 司令部の前で戦闘中のはずだ。もし、ここで意識を乗っ取られたら……


 暗夜は小さな光の中に無理やり手を突っ込み、プログラムを掴んだ。そして、小さな光の中からプログラムを引っ張り出すと同時に、小さな光を電脳空間から追い出した。

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