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時空間管理人~異世界転移のその裏で~  作者:


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箱の中身は

 見事なまでに予想通りの行動をした暗夜に白雅は笑い声を出さないよう必死に堪えながらご褒美の説明をした。


「どうだ? いいだろ? 作らせるの大変だったんだぞ。セレナちゃん等身大人形」


 白雅の最後の言葉と同時に、暗夜は実戦のとき以上の素早さで白雅の目の前にまで移動して机に足を乗せ、愛用の銃口を白雅の額に突きつけた。


「こんなことに費用と労力を使うなら、もっと他のところに使え!」


「えぇ? もっと喜べよ。セレナちゃんがいなくなるって寂しそうだったから、わざわざ作らせたのに。なかなか良い出来だろ?」


「これを! どうしろと言うんだ!?」


 怒り冷めあらぬ様子の暗夜に白雅は大げさにため息を吐いた。


「やっぱり暗夜は本物のほうがいいのか」


「そういう意味ではなく!」


「じゃあ、どういう意味?」


 箱の中から聞こえてきた可愛らしい声で全てを悟った暗夜は机に突っ伏した。


「セレナちゃん、まだ動いたらダメだろ」


「だって人形してるの疲れたんだもん。気配消して息を殺すのって結構大変なんだよ」


 セレナは文句を言いながらも嬉しそうに箱の中から出てきた。


「あぁ、それは悪かった。でも暗夜は驚いて声も出ないようだぞ」


「そうだね。ドッキリ作戦大成功!」


「と、いうわけで暗夜。セレナちゃんを正式なパートナーとしてプレゼントしよう」


 暗夜は机に突っ伏したまま白雅と喜び合うセレナを横目で見た。


「軍はどうしたんですか?」


「辞めちゃった」


 セレナの明るい声が軽く響く。軍に未練もなにもなく簡単に辞めてきましたという雰囲気だ。


 だが実際はセレナが簡単に軍を辞められないことに暗夜は気付いていた。あれだけの医学知識、手術技術を身につけている人間はそういない。

 あと普段の行動からは気付きにくいが、基礎動作、気配の消し方など、セレナは軍人としても申し分ない戦闘技術を持っている。性格に問題はあるが、軍人として超一級のセレナを軍が手放すことは考えられない。


 深く考え込んでいる暗夜に、白雅はあっさりと解答をよこした。


「正確にはオレが引き抜いたんだけどな」


 白雅の言葉に暗夜の片眉がピクリと動く。

 つまり白雅が裏で軍と交渉してセレナを時空間管理局に取り入れたことになる。ノルア准将の一件で軍に貸しはあるが、それぐらいの貸しで軍はセレナを手放さないだろう。セレナと同等の情報かなにかを軍に渡したはずだ。白雅がそうまでしてセレナを引き抜いた理由とは何か?


 暗夜は諦めたように息を吐くと、面白そうにこちらを見ているダークブルーの瞳を睨んだ。


 白雅は昔から人より十歩や二十歩、酷いときには百歩も先を考えており、暗夜は幼い頃よりそれを見てきたがゆえに白雅の考えが読めないことを熟知していた。


「何を企んでいる?」


 白雅は暗夜の問いに少し意外そうな顔をした。


「企むなんて心外だな。オレは面白くなると思ったことをしただけなのに」


「私を驚かすためだけに、セレナ氏を引き抜いたのか?」


 暗夜の言葉に白雅は今度こそ本当に意外な顔をした。暗夜にしては珍しく一回で言葉の意味を理解できなかったことに驚いたようだ。実際はそんなことのために軍と交渉した事実を理解しろという方が無理なのだが。


「当たり前だ。そうでなければ、こんな面倒なことするわけないだろ。それに、これからもっと面白くなるぞ」


 白雅が断言すると同時に勢いよくドアが開いた。


「セレナ! 軍を辞めるとは、どういうことだ?」


 息を切らしながら部屋に入ってきたラディル大佐がセレナに詰め寄る。


「ここのほうが、いろいろな時空間に行けますから軍は辞めました」


 サラっと答えたセレナにラディル大佐が我を忘れて説得を始める。


「軍でも特例でいろんな時空間に行けるようにしているだろ。それとも、こいつに何かされたのか? 脅されたのか? よくも私のセレナに!」


 見当違いの方向に暴走を始めたラディル大佐が机に突っ伏していた暗夜につかみかかる。


 ラディル大佐の思わぬ行動に暗夜がズレた黒縁眼鏡を直しながら、これ見よがしにため息を吐いた。


「私は関係ありません。セレナ氏が欲しいなら持って帰って下さい」


 これからの仕事のことを考えたら、是が非でもそうして欲しい。それが暗夜の素直な感想だ。


 だが、ラディル大佐は暗夜の投げやりな態度と言葉に


「なんだ、その言い方は! セレナは物ではないのだぞ!」


 と、ますます暗夜に吠えた。


 セレナは一方的に怒っているラディル大佐を止めることなく平然と話しを進める。


「暗夜は関係ありませんよ。ところで大佐。今週は他空間へ視察の予定ではありませんでした?」


 セレナはラディル大佐が軍にいるときに辞職願を出せば今のように五月蝿く問い詰められると考え、わざわざ軍にいないときに辞職願を出したのだが少し考えが甘かった。勘では、どんなことをしても辞める以上、こうなると分かっていたのだが。


 そんなセレナの考えを知らないラディル大佐は暗夜から手を離すとセレナの手を握った。


「視察なんかより、こちらのほうが大切だ」


「ほう? 仕事より私用が大切、ですか」


 恐ろしいほどの怒りを含んだ低い声にラディル大佐の動きが止まる。軍服に身を包み、短い黒い髪と鋭い黒い瞳をした、二十二、三歳ぐらいの女性が部屋に入ってきて敬礼をした。


「失礼します。時空間軍、第一部隊所属、ラディル大佐の部下の桔梗といいます。階級は中尉です。この度はラディル大佐が失礼致しました」


 簡潔に自己紹介を済ますと、桔梗はツカツカとラディル大佐に近づいた。


「至急、仕事にお戻り下さい」


「だが……」


 ラディル大佐が反論しようとしたところで、鈍い音と呻き声が響いた。問答無用で部下に腹を殴られ、強制的に黙らされたのだ。


 桔梗は自分より体が大きなラディル大佐を軽々と肩に担ぐと、


「失礼しました」


 と、セレナ達三人に頭を下げた。


 セレナが慣れた様子でその光景を眺めながら微笑む。


「大佐のお守りご苦労様。いつも大変だね」


 桔梗は少しだけ微笑んだ。その微笑みには、部屋に入ってきた時のような鋭さはなく、普段は他人に見せることのない、やわらかな彼女の性格が表れている。


「仕事ですから」


 桔梗は当然のように答えるとラディル大佐を担いだまま平然と部屋から出て行く。ラディル大佐は顔を苦痛に歪めながら叫んだ。


「セレナ、必ず迎えに……」


 部屋から出ると同時に鈍い音と呻き声が響いたあと、桔梗の規則正しい足音しか聞こえなくなった。


 桔梗とラディル大佐の姿は見えなかったが、二人のやりとりがリアルに想像できた白雅は楽しそうに笑った。


「あの調子だと、また来そうだな」


 セレナも笑いながら相槌をうつ。


「また来るよ」


「それは楽しみだ。今度はどんな漫才が見られるかな」


「ねー」


 二人が笑い合う隣で、これから一番被害に遭いそうな暗夜は再び習慣となりそうなため息を吐いた。


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