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時空間管理人~異世界転移のその裏で~  作者:


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セレナの正体

 セレナの手をとった美丈夫が男前の笑顔になると堂々と宣言した。


「何を言う、セレナ! 君と私の愛に時間というものは関係ないのだよ!」


「その声はラディル大佐!? 助けてくれ! いきなりこいつらが……」


「はいはい、お話は軍事裁判でお聞きしましょう。連れて行け」


 美丈夫の一声で周りにいた軍兵がノルア准将や武装軍団を連行していく。


 部屋には美丈夫とセレナ、そしていまだに頭に激痛の走る暗夜だけになった。だが、美丈夫はこの部屋にセレナと二人きりでいるかのように甘い雰囲気でセレナを見つめる。


「これで邪魔者は消えた。任務とはいえ、このようなところに一人でさぞ心細かったであろう。これからは私が一緒にいるぞ」


 そう言いながら美丈夫がセレナの手を強く握る。セレナは笑顔のまま握られた手を軽く動かした。

 するとセレナより大きな体をした美丈夫がぬいぐるみのように軽く宙を一回転して床に倒れた。だが、それだけの衝撃を受けても美丈夫の手はセレナの手をしっかりと握っている。


 暗夜は美丈夫のしつこさに素直に感心した。


「スッポンみたいですね。で、何者ですか?」


 セレナは笑いながら床に倒れている美丈夫に視線を向けた。


「確かにスッポンみたいだね。この人は時空間軍、第一部隊所属のラディル大佐。大佐、時空間管理人でパートナーの暗夜です」


「何? パートナーだと!?」


 ラディル大佐は慌てて立ち上がると暗夜を上から下まで舐めるように見た。値踏みされているような行為に暗夜の表情が曇るがラディル大佐はお構いなしだ。


 少ししてラディル大佐は満足そうに頷きながら精力的に笑った。彫りの深い顔、引き締まった筋肉を身につけた体からは男の色気が漂っている。


「ルックスはまずまずだが、無愛想なのが減点だ。どちらにせよ、私の足元にもおよばないな。セレナ、任務も終わったことだし、ともに帰ろうではないか」


 そう言いながらセレナの肩を抱いて部屋を出て行こうとするラディル大佐を暗夜が止める。


「ちょっと待って下さい。どういうことか説明してもらいましょうか」


「なんと!? 見てわからないのか? 私とセレナは恋仲……」


 と言ったところで、またしてもラディル大佐の体が宙を一回転した。


 セレナはラディル大佐を床に転がすと、笑顔なのだがどこか悲しそうな表情を暗夜に向けた。


「最近、時空間管理人が殺害される事件が何件かあったでしょ? 実は、犯人は軍の人間だということはわかっていたんだけど、なかなか証拠がなくて。私が囮として時空間管理人になって、犯人が欲しがってる世界の情報を手にいれて、接触してきた犯人を捕まえることになったの。で、犯人はノルア准将でした。めでたし、めでたし」


 そこでセレナは思い出したように足元を見た。


「あと、ラディル大佐は私が診てきた大勢いる患者の中の一人ってだけ」


 立ち上がったラディル大佐に痛恨の一撃。そこへ暗夜が無意識に追い討ちをかけた。


「ただの患者ですか」


「うん」


 セレナの迷いのない返事にラディル大佐が再び床に沈む。


「あなたは何者です?」


「……私はただの軍医だよ。大佐、私はまだ仕事かありますから一人で帰って下さい」


 セレナに拒絶されながらもラディル大佐はどうにか床から立ち上がり、セレナの金髪に触れた。


 セレナの長い髪がラディル大佐の手の中で宝石のように光り輝く。


「初めて出会った頃はとても短かった髪がこんなに綺麗に伸びて……まるで、私達が出会ってからの二人の時間の長さを現しているようではないか。会えなかった空白の時をこれから語り合おう」


 その言葉にセレナの表情が一瞬崩れたが、すぐに笑顔となった。


「あの人が、伸ばせば似合うって言ってくれましたからね」


 微かにある記憶の中の彼が言った、唯一の言葉。


 ラディル大佐はノルア准将の前でも見せなかった神妙な面持ちでセレナを見た。


「まだ彼を探しているのかね?」


「私が生きる理由には十分ですよ」


 いつもの笑顔なのだが、その表情はとても儚く今にも消えそうに見える。まるでセレナ自身が幻であるかのように。


 ラディル大佐は茶色の瞳を伏せて静かにセレナの髪から手を離した。


「ならば、今回のところは彼に免じて引こう。セレナ、早く後処理を済まして戻ってきなさい」


 ラディル大佐は軍人らしく機敏な動作でその場から離れていった。


「それにしても、軍の人間とは考えもしませんでした」


 時空間軍に所属していれば他時空間に移動するため、時空間管理局にはない情報を知っていても不思議ではない。また、軍医であれば最先端の医療知識はもちろん、戦場で必要となる今では失われた技術と呼ばれている手術技術を身につけているのは当たり前だ。アヤメの手術をすることが出来たことも納得できる。


 そして事件が解決した以上、軍の人間であるセレナがここにいる理由はない。


 やっと、パートナーが変わる。


 それは長く待ち望んでいたこと……


「巻き込んじゃって、ごめんね。頭、大丈夫?」


 心配そうに覗き込んでくる紺碧の瞳。医学の分野でセレナに隠し事はできないようだ。


「平気です。精神と記憶に障害はありません」


「でも一応検査したほうがいいよ。医療棟から検査機器を借りてくるね」


 セレナが走って部屋から出て行くが、暗夜がいつものように注意することはなく、深いため息だけが部屋に消えていった。





「以上、これが今回の任務報告だ」


 暗夜は目の前にいる上司に簡単に説明をした。上司が眉間にシワをよせながら自分の端末に送られてきた暗夜からの報告書を読んでいく。


「あのなぁ……今回の裏の仕事は、犯人が接触してきたら合図して捕まえろってことだったよな? 捕まえるのは難しかったにしても、なんで合図しなかったんだ? おかげで犯人は軍に連れて行かれちまって事件の情報は曖昧にしか入ってこないし、犯人と繋がっていた内部の人間は特定できないままだ。まぁ、軍のやつらに貸しを作ったから、そこは良しとするけどさ」


 上司が不揃いなプラチナブロンドを掻きながら愚痴る。暗夜は無表情のまま上司以上に不機嫌な声で言葉を吐いた。


「白雅、私も言いたいことは沢山あるぞ。何故、セレナ氏が軍人だと黙っていた? 知っていて、わざとパートナーにしただろう? 私に裏の仕事をさせといて騙すとは、どういうことだ? 返答しだいでは、これからのことについて考えさせてもらう」


 暗夜に詰め寄られながらも、白雅と呼ばれた上司はダークブルーの瞳を細めると今までの不機嫌な表情が嘘のように楽しそうな笑みを浮かべた。


「怒るなよ。敵を騙すには、まず味方からって言うだろ? 今回は面倒な裏の仕事をさせたからな。ちゃーんと、ご褒美があるぞ。そこの箱を開けてみろ」


 白雅が指差した先には綺麗にラッピングされ、いかにもプレゼントです。と、主張している馬鹿でかい箱があった。


「ほれ、開けてみろ。文句は開けた後で聞いてやるから」


 暗夜は他にも言いたいことはあったが、とりあえず促されるまま箱のラッピングを破って慎重に箱を開けた。そして、固まった。


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