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時空間管理人~異世界転移のその裏で~  作者:


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始まり

 機材やモニターに囲まれた薄暗い部屋。さほど大きくなく、防音壁に囲まれた頑丈な造りをしている。そんな部屋の中央に人が寝れるぐらいの大きさのカプセルがあった。


 その前に少年と少女がいた。二人とも十代中頃だが着ている服が対照的だった。少年は簡素な作りの半袖とズボンに対して、少女は上等な白衣を羽織っている。


 少年が神妙な顔で少女に訊ねた。


「本当にいいのかい? これをすると君が危険なことになる。僕は今のままでもいい……」


 少女が人差し指を少年の唇に当てる。


「大丈夫。ちゃんと成功するから。だから、なにも気にしないで」


 少女の大きな碧い瞳からは今にも涙が零れそうになっていたが、顔は笑顔でいようと必死に表情を作っている。これから降りかかる処罰を恐れているのではない。純粋に少年との別れを悲しんでいるのだ。


 そんな少女の姿に少年は言葉を飲み込んで頷いた。


「わかった。全部任せるよ」


「じゃあ、服を脱いでその中に寝て」


 少年は少女に言われた通り服を脱ぐとカプセルの中に入って仰向けに体を倒した。


 カプセルの上半分を覆う強化ガラスの蓋が音もなく閉まる。


 少女は一度カプセルから離れると周囲の機材の操作を始めた。モニターに写し出されるグラフを確認しながら微調整をする。


 そして全ての作業を終えると軽く一息吐いてカプセルに近づいた。ショートヘアの金髪が歩くごとに揺れる。

 少女は泣くことも笑うことも出来ない表情のままガラスに手をつけた。


「また会えるよ。だから、さよならは言わない」


 カプセルの中にいる少年が微笑んだまま頷く。


 君がそう言うのであれば、そうなのだろう。だけど君は知らない。次に会った時、君は僕のことを……


 少しずつカプセルの中を液体が満たしていく。


「あっという間だよ。眠っている間に全部終わってるから。……おやすみ」


 少年が口を動かす。


『ありがとう。おやすみ』


 強化ガラスによって少年の声は少女に届かなかったが口の動きで内容は分かった。


 どうにか微笑んだ少女の前で少年の全身が液体で包まれていく。ゆっくりと瞼を閉じた少年が眠りにつくと同時に少女の頬に涙が落ちた。





 真っ暗な部屋で機材の起動音が響き、非常灯が薄っすらと室内を照らした。その真下にあるカプセルの強化ガラスからは透明な液体の中で眠る青年へと成長した元少年の姿が見えた。


 少しずつ液体が排出され蓋が開く。青年は眠そうに目を開けながら、ゆっくりと上半身を起こした。


「体が重いなぁ」


 気怠そうに動きながら何かを探すように見回す。


「やっぱりいないよね」


 青年はどこか残念そうに言うと立ち上がって歩き出した。ベッタリとまとわりついてくる焦げ茶色の髪を一つにまとめながら壁の前で立ち止まると、壁の一部が消えて中から箱が出てきた。中にはタオルと着替えが入っている。


「予定通りだね」


 青年がタオルで体を拭いて服を着ていると、箱の底に残っている二つのモノに気が付いた。一つは度が入っていない黒縁眼鏡。フレームには古代文字で時の神の名が刻まれている。


「これで変装しろってことかな? 彼女らしい発想だな」


 青年が苦笑いを漏らしながら垂れ目を隠すように黒縁眼鏡をかけると、もう一つのモノに手を伸ばした。


「人を傷つけることを嫌った君がこんなものを用意するなんて……」


 静寂を突き破るように警報音が鳴り響く。


「さて、これからどうしようかな」


 ふと青年の脳裏に少女の笑顔が浮かんだ。


 太陽のように輝く金髪と、大きな紺碧の瞳。血色が良い白い肌に桃の花の香りがしそうな唇。可愛らしいとしか表現しようがない顔はいつも笑顔だった。


 だが最後に見た顔は今にも涙がこぼれそうだが笑顔を作ろうと必死になっていて、見ている方が辛かった。


 青年が視線を床に落とす。


「今の君は僕の知らない君だけど……会ったら、いつもの笑顔を見せてくれるかな?」


 慌ただしく警備兵が走ってくる音を聞きながら青年が微笑む。


「もう誰も僕を縛ることはできないよ」


 警備兵が警報の鳴り響く部屋に入ると、そこに人影はなく床にシミだけが残っていた。



※※※※※※※※



 少年は戸惑っていた。眩しい光に囲まれたと思ったら、次の瞬間見たことがない場所にいたのだ。高い天井に大理石で造られた床。神殿のような厳かな雰囲気と目の前には極上の金髪美人と白髭の老人。


 とりあえず、ここが日本ではないことを少年は瞬時に理解した。それと同時に淡い期待が少年の中に渦巻く。


 小説か漫画のような展開に少年の胸が高鳴っていると、ゆったりとした布で体を覆った金髪美人が声をかけてきた。


「突然のことで驚いていると思いますが、どうか私たちの話を聞いて頂けませんでしょうか?」


「は、はい!」


 思わず声がうわずってしまい少年は顔を赤くした。


 これって、異世界転移だよな!? チート展開か!? ハーレムものか!? とにかく! オレが主人公で間違いないよな!


 心の中でガッツポーズをする少年に金髪美人が一歩進み出る。


「この世界は今……」


「木村暁くん?」


 粛々と説明をしようとしていた金髪美人の声を可愛らしい声が容赦なく遮った。


「はい?」


 少年が反射的に返事をしながら振り返ると、声のイメージ通りの可愛らしい少女がいた。


「すぐに見つかって良かった」


 腰にまでかかる長い豊かな金髪、海のような紺碧の大きな瞳。色白の肌に小さな顔が素直な笑顔で喜んでいる。服装は肩から足首まで隠す白いマントで隠れている。


 金髪美人が大人の色気満点の女神なら、少女は穢れを知らない純真無垢な天使である。


 その姿に少年が見惚れていると、少女が笑顔のまま目の前に立った。


「えっとね、私は時空間管理人のセレナっていうの! よろしくね」


 少女が胸の内ポケットから名刺を取り出して渡そうとする。


「はぁ……」


 少年が差し出された名刺を受け取ろうとした瞬間、目の前から名刺が消えた。


「名刺なんか渡さないで下さい。そもそも、なんで名刺を持っているのですか?」


 少年が驚いて横を向くと、そこには黒縁眼鏡をかけた黒髪の青年が立っていた。この青年も少女と同じように肩から足首まで白いマントで体を覆っている。


 青年が取り上げた名刺を容赦なくクシャリと握りつぶす。一見、怒っているかのような動作だが、青年の顔は無表情ながらも、どこか諦めたような雰囲気が漂っている。


 黒縁眼鏡の下にある切れ長の鋭い黒い瞳に静かに問われ、セレナと名乗った少女は少し小さくなった。


「だって、自分の名刺を持ってるって、なんかカッコイイよね? それをサッと出すキャリアウーマンって、もっとカッコイイよね? 鏡の前でずっと練習してたんだよ。うまく出来てたよね? ね?」


 セレナは顔を傾けて、おねだりをするような表情をする。


「かわいい……」


 少年は両手で慌てて口を押さえた。思わず出た本音なのだが、この場で言う言葉ではないことぐらいは分かる。


 青年は大きくため息を吐いた。


「何度も言っていますが、少しは年上らしくして下さい」


「年上?」


 少年は口を押さえていた手を青年に向けたあとセレナに向けた。


 セレナはどう見ても十代半ばぐらいにしか見えない。一方の青年は二十代前半の外見だ。何をどうしたら少女が青年より年上になるのか。


「もう! 暗夜あんやが老け顔だから、また私が年下に見られたじゃない」


 腕組みをして怒ったセレナに対して暗夜と呼ばれた青年は無表情のまま軽くあしらう。


「あなたが童顔なだけです。行きますよ」


「はーい」


 セレナががっしりと少年の腕を掴む。


「え? 何?」


 少年が顔を真っ赤にして戸惑っていると、呆然と成り行きを眺めていた金髪美女が慌てて入ってきた。


「お待ちなさい! あなた方は何者ですか!? 供物を放しなさい!」


 暗夜が金髪美女に顔を向ける。


「時空間管理法、第二条『異世界からの人、動物、物の転移は禁止する』違反者には罰則が科せられますが、この世界は時空間管理連盟に未加入であること、また加入条件を満たしていないことから、それは免除されます。ただし、今後は異世界からの転移が出来ないように処置をします。あと、今ここであったことの記憶は全て消去します。では失礼しました」


 淡々と説明をした暗夜が少年の首を掴む。


「どういうこ……」


 金髪美女の目に赤い光が突き刺さる。次に目を開けた時、そこには誰もいなかった。


 靄がかかったような、はっきりとしない頭をさすりながら金髪美女が老人に問う。


「供物の召喚は失敗しましたの?」


「はて? 今から召喚の儀を行うのではなかったかの?」


「では急いで始めましょう」


 それから金髪美女は何度も異世界転移の魔法を実施したが、成功することはなかった。





 夕日が沈みかけた空。いつも通りの学校からの帰り道の途中で少年は立っていた。


「……あれ?」


 少年がなんとなく周囲を見渡すが、変わったことは何もない。微妙な違和感がするのだが、それがなんなのか分からない。


「うーん、なんだろうなぁ……」


 首を傾げながら歩き出した少年をビルの屋上から眺めている二つの影があった。


 とぼとぼと歩き出した少年の姿にセレナが笑顔になる。


「これで任務完了だね」


「あとは報告するだけです」


「じゃあ、早く帰ろう!」


 セレナが勢いよく暗夜の腕を組むと、そのまま二人の姿が消えた。


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