ハジマリ
暗い室内。
木製の机に木製の椅子。男はその椅子に腰掛け、ある人物を待っていた。
約束の時間にはまだ早い。しかし、彼は苛立っていた。態々こんなところに呼び出され、挙句先に着いているのは自分だというこの事実に。
時間通りに待っていた人物は来た。少しばかり早く来てくれても良いのに、と男は思う。
「待たせちまったね」
男は驚いた。たしかに呼び出した人間に間違えはない。しかし、思っていた性別がまさか逆だとは予想だにしていない。
「女だったのか」
「悪いかい?こういう取引やるのは何も男だけじゃあないさ」
相手はそう言いながら部屋の明かりをつける。と言っても、この部屋にぶら下がっているランタンに明かりを灯しただけで、部屋全体を明るくさせるには不十分であった。
しかし、これで良いのだ。今から行う取引に、強い明かりなど必要ない。手元を照らす光で十分なのだ。
「さっさと始めよう。俺には時間がない」
「せっかちな男は嫌われるよ。あっちの方も早かったら最悪だね」
「軽口を叩くな。俺を怒らせに来たのなら、帰るぞ」
男は席を立とうとする。
「待ちなよ。全く、この程度の冗談も通じないなんてね。相当"これ"はヤバいやつなんだね」
女はウンザリとした様子で目的の物を机に出す。
(おい)
「あんたも大変だね。尻拭いをするにしたって、態々自腹切るとはね。」
(おい聞いてんのか)
「…」
…ん?君喋るとこなんだけど?
(…あのさ、これ展開遅いだろ?早くしてくんない?)
…待ってって。え、ってか待って。なんで勝手に動いてんの?勘弁してよ。こちとらちゃんと物語は進めたいのに、自由に動かれると困るんだけど。
(いや、俺にだってやりたい物語の注文くらいあるって。え?ってか何?これヤバい組織絡みとかそういう暗い話?)
…いや、まあちょっとそういうアンダーグラウンドな話もいいじゃんか。ってか普通にこっち側と喋らないでくれるかい?
(文句言いたいのはこっちだっての。急に暗い部屋の椅子に座らされて、しかも感情は苛立ちからスタートだぜ?もうちょっと明るい始まり方ないの?)
…わかったわかった。なんかいい感じの明るいのからスタートさせてあげるから、協力してくれよ。
(ああ、頼むわ。いきなりランタンがスイッチも無しに明るくなられちゃびっくりするよ)
…嫌味ったらしいなお前。
この街の様子はいつでも変わらない。大通りに並ぶ商店街からは、いつだって明るく、客を呼び込む声が鳴り止まない。
男はその商店街を歩いていた。この日も雲一つない晴天であった。
(うおっ。びっくりした。眩しっ!)
…一々驚かんでくれ。君の感情も文に入ってくるんだ。
(あぁ、悪い悪い、なんか唐突に明るくなったからびっくりしたぜ。)
…
大通りを歩いていると、男は目的地に着いた。[レンシアの武具屋]。この一帯では少し名の通った装備店
(え待って。)
…何さ。文の途中にも割り込めんの、君。
(あぁ、いや、その、え?あんた書きたいのって、ファンタジーなの?)
…そうだけど。なんか問題ある?
(んー、え、あんたってどんぐらい、その、発想力とかあんの?)
…んーまあそれなりくらいだとは思うけど。
(あ、まじで?なら良いんだけどさ、さっきの暗い話の時と俺の状態が全然違う感じなんだけど)
…いや、君が明るい話が良いって言うから、物語がっつり変えたよ。
(そりゃ悪い事したな。まあなんだ、その、続き頼むわ)
…
男はその店の扉を開いた。数人の屈強な者達が装備品を眺めているのが目に入った。
(あんなのと絡ませないでくれよ。文書いてるあんたは分かるだろうけど、喧嘩とかさせないでくれよ。割とあいつら腕っ節強そうだぞ。男二人か?女も1人いるけど、女の方、目つきやべえぞ。あんなのと関わりたくないんだけど)
男は鼻で笑いながらカウンターへ向かう。
(やめろって。聞こえてるって。ってか聞こえるような状態にしてるだろ、あんた。やめてくれよ)
屈強な男の一人はそれが気に入らなかったようで、男の方は向かう。
「おい、なんだてめえ。なんか文句あんのか?」
「なあ、悪かったって。こういうのズルくない?もう少し大人な対応してくれよ。」
…反省してる?
「なんか物凄い状態で今世界が止まってるぞ。白黒になってらぁ。…うん、まあ反省してるよ。ただ、俺だって明るい話で主役やりたいわけよ。だからさ、俺には出来ることは限られてるけど、あんたは何でも出来るだろ?いくら変なセリフでも、俺以外はそれを喋るしかない。あんたには是非責任感持って良い物語を書いて、それに俺は参加させてもらいたいもんだね。」
…分かった。それはこっちも努力するけどさ。
「何?」
…いや、何でもない。次回ちゃんと書きたいから、次回はしっかり協力してくれよ。
「…あぁ。わかったよ」
皆様ごめんなさい。今回全く進んでないですが、今後物語の中の彼としっかり作っていくんで、次回をお楽しみに。
…ここは大丈夫ですかね?
…大丈夫そうですね。
いきなりの事で驚かれたかと思いますが、主人公たる彼が意思を持ってるようで、勝手に物語内のセリフを変えたり、或いは喋らなかったりするようです。ここをお読みの皆さん、今後なんとか物語を成立させるために、作者たる私、はなも頑張ります。彼とは対話の形式で"説得"する描写が必要なようですが、彼には彼の考えがあり、大変面倒な書き方をしなければならないようです。
前途多難な小説になるかもしれませんが、よろしくおねがいします。