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女は裸が当たり前の世界

「どうして!? なんで!?」


「そう言われましても……、おしめが取れてからはずっと裸ですから……、それが当たり前というか……」


「どうして裸なのかなんて、考えたこともありませんでしたわ」


紫の髪の美女ガブリエラと金髪の美女コルネリアが、顔を見合わせて答える。

銀の髪のシャルロッテ、赤毛のロザリンデもその言葉にうなずいていた。つまり、本当にこの世界では女は服を着ないのが当たり前ということらしい。


「でもいつも裸だなんて、寒いときにはどうするんだ」


「もちろん、炎の魔法で部屋を暖めますわ。屋敷を快適に保つこともできないような貧しい娘は薄汚い毛布をかぶっているようですけど、私たちはそのような下賤な身分の出ではありませんもの」


シャルロッテが当たり前のような顔で答える。

でも彼女はどう見てもエルフだし、エルフって森の中に住んでいるイメージがあるんだけど。

魔法のある世界だって言うことは、そういう環境でも快適に過ごせるようにできるっていうことなんだろうか。


「ええ、ロザリンデはきっと家では毛布をかぶって震えていたでしょうけどね」


ガブリエラが馬鹿にしたように言う。

それを聞いたコルネリアもくすくすと笑った。


「はい、私の家はとても貧しかったので……、家では兄たちの服を着ていました」


ロザリンデは恥ずかしそうにうつむいている。

現代日本人である私からすると、裸のままで過ごしているほうがよほど恥ずかしいんだけど……。


「でもみんな、オシャレしたりは?」


「ああ、そうですわね、こんな格好で失礼いたしましたわ。すぐに支度してまいります。案内はロザリンデに任せても構いませんか?」


シャルロッテがうずうずとした顔で言う。


「ロザリンデは着飾るような宝石も羽根飾りも持っていませんものね、適役ね」


そしてガブリエラが言うと、ロザリンデはうなずいた。


「はい、もちろんご案内させていただきます。私はみなさまのようにアクセサリーは何ひとつ持っていませんから、そのまま参りますので」


「それじゃあ、案内はロザリンデに頼もう」


他の3人よりは素直で大人しそうだし、きっとロザリンデなら色々聞いても答えてくれるだろう。

私がそう答えると、ロザリンデはホッとしたようにうなずいた。


「それでは魔王様、また後ほどおうかがいいたしますわ」


「どうぞ楽しみになさっていてくださいね」


「魔王様の御心にかなうようにさせていただきます」


シャルロッテ、ガブリエラ、コルネリアが口々に言いながら去っていく。


「それでは魔王様、こちらへ」


ロザリンデがおずおずと歩き出す。

私も彼女について歩き出した。


「ロザリンデ、いくつか聞きたいことがあるんだ」


「は……、はい、なんでしょう?」


私の言葉に、ロザリンデはびくりと身体をふるわせる。

そんなに怯えなくたって何もしないんだけど……。

でも魔王様なんて呼ばれているくらいだし、もしかしたら私は怖い魔王だったのかもしれない。


「さっきも言った通り、私は今、何も思い出せないんだ。ここはどこで、私は誰なのかロザリンデの言葉で構わないから説明してくれないか?」


「私の言葉で……、でございますか」


ロザリンデは小さくうなって、首をかしげて、それからやっとうなずいた。


「ここは魔王様の後宮です。魔王様にお仕えするために女たちが大勢集められています」


「つまり、全員が私の妾妃?」


「妾妃だなんてとんでもない! 私たちは魔王様の欲望を満たすための、ただの性奴隷です」


「そ……そうなんだ? 性奴隷って、普段はそんなに酷いことをされてるの……?」


「わ、私の口からはとても……」


ロザリンデは恥じらって、口を抑えて黙り込んでしまう。


どうやら魔王というのは、とんでもない男だったらしい。女の子たちをたくさん集めて、裸のままで性奴隷にしておくなんて。

どういう経緯で私が魔王の中に入り込んでしまったのか全然わからないけど、もしかして、これっていいことだったんじゃないだろうか。

少なくとも私は女の子の身体には興味がないし、待遇だってもっとずっとよくしてあげられるはずだ。


「ごめん、おかしなことを聞いて。それじゃあ次は私のことを教えてくれる?」


「私はまだ後宮にあがってから日も浅いですし、詳しいというほどではないのですが……。魔王様は魔王様です、この世のすべての闇と魔法をすべる王であらせられます。人間たちとの長き戦いに勝利し、彼らを異世界に追放なさいました。それからこの世界は長い平和の中にあります」


「……そうなんだ」


そこは、思っていたより悪くない。

だって魔王ってことは勇者と戦わないといけないんじゃないかとか、思ったし。そういうことがないほうが私も助かる。魔王になったって言ったって、何か特別なことができるようになったわけでもないだろうし。


「はい。ですから私たちは魔王様のものとして誠心誠意お仕えするつもりで後宮にいるのです。魔王様のせめてもの慰めになれば幸いです、先ほども私の失敗を優しく許して下さって……」


ロザリンデが涙ぐみはじめる。

そんな、すごいいいことをしたつもりはないんだけど。

ロザリンデは私をまるでいい魔王だったみたいに言ってるけど、本当にいい魔王だったのか不安になってくる……。


「ああ、魔王様、こちらの部屋がよろしいかと思います。日も入りますしとても眺めも良いので」


そう言って、ロザリンデが立ち止まってドアを開ける。

確かにロザリンドの言う通り、眺めのいい部屋だった。

大きな窓がいくつもあり、部屋の真ん中には円卓もあって、話し合いにはちょうどよさそうだ。そして部屋の奥には大きな扉がある。


「ロザリンデ、あの扉は?」


「バルコニーに続く扉です。庭園が一望できるのです」


「へえ。見てみたいな」


「それではいってらっしゃいませ」


「え、ロザリンデは? 行かないの?」


「私はこの肌ですから大陽はあまり……」


ロザリンデが悲しそうな顔をする。

そういえばずいぶんと色白だし、裸のまま外に出たら日焼けしてしまうから気にしているのかもしれない。


「でも、一人で見に行くのもつまらないから、ロザリンデも一緒に行こう。大陽が気になるなら、マントを貸すよ」


肩にかけていたマントを脱いで、ロザリンデに着せかけてやった。


「本当によろしいのですか?」


ロザリンデはそう言いながら、マントを頭までかぶる。

そして首のところで布をあわせて、ほとんど全身隠して顔だけ出すような姿になった。


「マントの一枚くらい、なくても別に構わないよ」


特に寒いわけでもなかったし、ロザリンデに一枚羽織らせるくらいまったく問題ない。


「ありがとうございます、魔王様」


なぜだかロザリンデは私の言葉に涙ぐんでいた。

感動させるようなことを言った覚えはないんだけど……?


「私のような、醜い白い女にまで優しくして下さるなんて、何て懐の広いお方なんでしょう」


「ロザリンデは可愛いと思うけど……?」


私がそう言うと、ロザリンデは首をゆるゆると振って、マントで顔を覆うようにしてしまった。

何か地雷を踏んだのかもしれない。

そっとしておいたほうがいいだろうと思いながら、私はバルコニーのほうに向かう。少し遅れてロザリンドもついてきた。

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