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気がつけば魔王

気がついてすぐ、目に飛び込んできたのは濃淡さまざまな肌色だった。


私を囲んでいるのは全裸の女の子たち。

文字通り一糸まとわぬ姿で、今にも泣き出しそうな顔で私を見つめる彼女たちに、もしかして天国に来ちゃったのかと考える。


でも天国って、裸の女の子たちが出迎えてくれるようなとこだったっけ?

だいたい私は神様も仏様も都合のいいときしか信じない典型的な日本人。それなのになんで、天国なんかに来ちゃったわけ?


すっかり混乱している私に、女の子のうちのひとり、一番すらっとキレイな身体をした、モデルみたいな美人が抱きついてきた。

チョコレートみたいな色の肌をした耳の長い女の子で、長いストレートの銀髪がつやつやしている。年は多分私と同じか、ちょっと上くらい。宝石みたいにキラキラした青い目から、大粒の涙をぼろぼろこぼしながら、ぎゅうぎゅうと身体を押しつけてくる。


「よかった!! 目を覚まされたのですね!! 魔王様に何かがあったら、わたし……っ!」


「え、魔王様?」


確かに私は真尾由香里、高校の後輩たちからはマオ様って呼ばれてるけど……。

わけがわからない。

でも何をどう聞けばいいのかもわからない状態だった。


だって、目の前には人種も年齢も様々な裸の女の子たちがいて。

みんな目に涙を浮かべてるし。

私に抱きついてる女の子は、日本語しゃべってるけどどう見ても日本人じゃなさそうだし。


いやこのご時世に肌の色が違うからって日本人じゃないとか言うのは時代遅れなのは分かってるけど、少なくとも日本じゃ全裸ってありえないし。

髪の毛の色だってコスプレ用のウィッグでもなかったら、こんな色にはならないだろうし。


「えっと……、あの、ごめんね。変なこと聞くけど、あなた、誰? 魔王様ってどういうこと?」


でもとにかく、聞いてみないことには始まらない。

そう思って勇気を出して聞いてみると、私に抱きついていた彼女は顔を上げる。


「そんな……、魔王様、頭を強く打たれたのですか? だからシャルロッテを抱きしめて下さらないの?」


そしてそう言ったまま、私を見つめてボロボロと涙をこぼしはじめる。

――参った。どうしよう。

この子がシャルロッテって名前なんだろうということはわかったけど、それ以外は何もわからない。


「ああ! なんてこと! ロザリンデ、お前のせいよ、お前があんなところにバケツを置いたままにしておくから!」


私が黙っていると、後ろにいた女の子たちのうち、一番年上のグラマラスな美女が声を上げた。

褐色の肌に紫がかった黒髪のゴージャスな美女で、後ろに向かって叫んでいる。


「そうよ、いつもいつもドジばっかりして! 魔王様がおかしくなったのはお前のせいだわ、はいつくばって詫びなさい!」


続いて叫んだのは他のふたりよりは肌の色の淡い、でもそれなりに日焼けした感じの金髪巻き毛の、健康的なプロポーションの美女だった。


「ほら、早く!!」


困惑している間に、ふたりが別の女の子を私の前に突き出してきた。

いかにも気弱そうな感じの、小柄な赤毛の子だった。きっとこの子がロザリンデだろう。

そばかすだらけの顔はまだ幼い。もしかしたら子供かもしれない。それなのに彼女も他の女の子たちと同じように裸だった。


「申し訳ありません魔王様、どのような罰でもお受けいたします……!!」


それが私の前にひれ伏して、すっかりおびえきった声を出している。なんだか見ていて可哀想になった。


「大丈夫だよ、ロザリンデ。ただ私はちょっと頭が痛くて、何があったか思い出せないんだ。説明してもらってもいい?」


「は、はい……!!」


私の言葉に、ロザリンデはさらにさらに身を縮こまらせながら、震える声で説明を始める。


「いつものように後宮の掃除をしていたところ、ガブリエラ様に『目障りだから日のあるうちはもっと人気のないところを掃除しなさい』と言われたのです。それで私は地下を掃除しようと思って移動したのですが、そのときに、からのバケツをそのままにしてしまって……」


「それで魔王様がバケツに足を取られて転んでしまわれたんです! ちっとも起きてくださらないから、わたし、すごく心配いたしましたわ!」


「はい……、そうなのです。私は地下にいたので騒ぎに気がつくのも遅れ、こうして駆けつけるのも最後になり……、魔王様、どのような罰でもお受けいたします、ですがどうか命だけはお助けを……!」


「まあロザリンデ、お前、なんて図々しいの!? 魔王様を危険にさらしておいて、命乞いまでするなんて!!」


私が答えるより早く、金髪の美女が言う。


「それに何、その言い方は。それじゃあ、まるで私が悪いみたいじゃないの。お前が目障りなのがいけないのよ?」


続いて紫の髪の美女が言った。


「ち、違います、コルネリア様、ガブリエラ様!」


かわいそうに、ロザリンデはすっかりおびえきっている。


その様子を眺めながら、とりあえずロザリンデがバケツを置きっぱなしにしたせいで魔王様(私?)が転んだことと、金髪美女がコルネリアで紫の髪の美女がガブリエラだというのはわかったなと考える。


「魔王様、どうされますの? ロザリンデの失敗はこれで3回目ですわ、許しておいては示しがつきません」


そしてシャルロッテが私を見て言ってくる。

しめしがつかない、って言ったって。困った。


私はいつも後輩たちからさえ甘いと言われているくらいで、人に罰を与えるなんて言うのは本当に苦手な性格だ。

いつもなら同級生に任せてしまうところだけど……今、そんなことを言ったら、ロザリンデがどんな目に遭うかわからない。


「えっと……、それじゃあ、みんなで話し合いをするのは?」


少し考える時間も欲しくてそう提案した。


「話し合い……ですか?」


「ああ、だってロザリンデはいつものように掃除をしていたら、ガブリエラに言われてよそに行ったんだろう?」


「それはそうですが……、バケツを置き忘れたのは、ロザリンデが悪いんです」


「そうかもしれないけど、そこでロザリンデに罰を与えても何も変わらない。誰が悪いかはそんなに重要なことじゃないだろう? それより、安全対策についてみんなで話し合うのはどうだろう?」


「魔王様がそうおっしゃられるのなら……、わたしはかまいませんわ」


「魔王様のお言葉なら、従いますわ」


「ええ、私も」


シャルロッテもコルネリアもガブリエラも、一応はうなずいてくれた。

ロザリンデはまだ状況がわからないのか、何が起こるのかわからなくて怯えているのか、床にはいつくばったままでぶるぶると震えている。


「それじゃあシャルロッテ、みんなが集まれるような部屋に案内して欲しい。それと、身支度の時間をとろう。服を着る時間が必要だろう?」


「え……、服、ですか?」


シャルロッテがきょとんとする。


「だって、裸のままじゃよくないだろう?」


私が返すと、女の子たちはざわざわと顔を見合わせる。

私は何か変なことを言ってしまったんだろうか。

転んで気絶した私を心配して駆けつけてくれたときに、着替えの途中とかでそのまま来たんじゃないかと思ってたんだけど……。


「女が服を着るだなんて前代未聞ですわ、魔王様」


「えええええええ!?」


でもシャルロッテのまさかの返答に、私は思わず素で叫んでしまった。

だって、女が服を着るのが前代未聞って、何!? どういうこと!?

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