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ぼっちのぼっち  作者: 暁庵
8/9

別れは、突然に

出会いもあれば、別れもある。


眠っている時に、帰ってしまうのは、やはり顔を見るとつらくなるから···



「え?なんで?聞いてない」


〘当たり前でしょう?だって、あたしそういう役目じゃないし〙


 ベッドの上で、何故かエクササイズをしているソーマ。その傍らにいる···


[俺らは、死の宣告をするのが役目]


「じゃ、僕死ぬの?」




 苛めの事が公になってから、恐る恐るお互いに近付いて行き、夏休み直前になった。




〘いや、啓吾じゃない。けど、それは言えないの〙


「死ぬの?死神でも」


〘死なないけど、もっと苦しい闇にいくわ〙


[これ、なんだ?]


 リュークが、テーブルに置いてあるお婆ちゃんのお土産を手にとった。


「おまんじゅう。向こうにはないの?」




 突然のこともあり、小林先生の代わりで急遽来てくれる先生はいなくて、3年の池谷先生が臨時で来てくれることになった。




[まんじゅう?ねーな。そもそも、あっちに食い物はない]


「······。」


 リュークは、それを1つ手に取りいきなり口に入れて、むせた。


〘ばっかねぇ。あんた咀嚼って習わなかったの?〙


[······。]


 バツが悪いのか、リュークはそっぽを向く。


「ゆっくり食べれば?まだ、こんなにあるんだし」


 ソーマとリュークは、同じ階級らしいけど、年齢はわからない。


〘それに!あたし達は、死國へ連れてく方じゃないから、帰るの。もちろん、それまでの記憶を消してね〙


「僕のも?」


[そうだ。一度、死のうと思った奴は、他の死神に狙われやすいから、術だけは掛けていくのが掟だ]


「じゃ、いつ?」


─もっと長いと思ってた。ずっとこっちにいるのかと···。でも···


〘今夜···0時に···〙


 別れは、突然に···


「いこっ!!」


〘えっ?なぁに?〙


[どこに?]


「人間の姿で、その時間までいられるんでしょ!?」


 これからは、ひとりで頑張らなくちゃいけない。だから、だから!


「この街を案内してあげる!!ほら、きて!!」


 お母さんは、今日はお仕事だから、お婆ちゃんに出掛けるとだけ言った。


「みんなも、気をつけるんじゃよ?のんびりな」




 家を出て、駅へと向かう。


〘暑いわねぇ。この世界。それに、眩しいわ〙


[お前、バケの···ぐふっ]


〘なぁに?リューク〙


 大きな日傘の下で笑うソーマとお腹を抑えるリューク。


 僕は、術を掛けて貰ってるから、あまり汗が出ない。


〘すごぉーい!ね、なぁにここ!!〙


「松下屋。デパートだよ!!服も食べ物も化粧品も売ってるの!」


 外は、うだるほどの暑さみたいだけど、松下屋の中はかなり冷房が聞いていて、ソーマが指を鳴らし、服装チェンジ。


[凄い匂いだ]


〘ねっ!これ、リップ?アッチより色が多いわぁ!〙


 化粧品や服は、アッチの世界にもあるらしい。


「ねぇ、アッチは食べ物とかお水とかないのの?」


 そう聞くとふたり同時に〔ない〕と答えた。


〘これが、主な栄養源かなー?〙


 ソーマが、小さなポーチから飴みたいな大きさの玉を見せてくれた。


「なにこれ?飴?」


[魂玉(こんぎょく)だ]


 初めて聞く言葉だった。丸くて、ツヤツヤしていた。不思議がる僕に、ソーマは続けて、


〘死んだ人の魂···〙と言って、僕が固まる。


[お前、死んだら何も残らないと思ってるだろ?]


「うん」ソーマは、アチコチ化粧品売り場を眺めては、試していた。


「······。」


[すげー]


 ほんのちょっと目を離した隙に、ソーマの両腕には化粧品ブランドのショッピング袋が幾つも掛けられていた。


「アッチでもお金ってあるんだ」


〘まぁね!就職に困ったら、いつでも歓迎···しないからね!ちゃんと生きるの!〙


「う、うん···」


 1階2階と案内する毎に増える荷物は、リュークが持っていった。


 全ての買い物が終わったのが、午後の3時。


〘テレッサ·ロンリネス〙


 テーブルの上に置いた紙袋が、一瞬で消えた。


「いまのどこいったの?家?」


〘向こうの世界。今のは瞬間的に移動したの〙


 死んだ人の魂も、そういう封に転移とかするらしい。


 屋上のフードペースで、街を眺めながらふわふわドームというドーム型のムースを食べた。


「アッチには、何があるの?」


〘んー?何がって何だろ?〙


[映像でこいつに見せられたのは、地上!だけど、地下には学校と裁判所しかない]


 冷たかったコーラが、段々とぬるくなる。


〘服とかは、露商が売りにくるし。学校って言っても、この世界より厳しいかな。魔法だけを習うから〙


─ラノベでよくある異世界なんちゃらだろうか?


 時間だけが、足早に流れ空がオレンジ色に染まる。


〘そうだ。ちょっと、お散歩しましょうか?楽しく!リューク?〙


[はいーはいっ!折れも見たいのに!ジャッカル·イザブ·モロンハーンッ!!]


 天を仰いでいたリュークの姿が、みるみる大きな鳥になっていった。


〘安心して。誰にも見られないから。乗りましょ!〙


 こわごわとリュークの背中に乗ると、意外と座り心地が良かった。


「ケリー·ボッターみたいだ」


〘さぁ、行くわよぉ!リューク!〙


 鳥になったリュークは、大きな翼をバタつかせ空へと舞い上がる。


「小さくなってく!凄い!」


 車も電車も全てが小さく見えた。


〘あれかしら?啓吾のおうち〙


 ソーマが指を指した大きな一本杉のその側に、壁をアイボリーに染めた小さな家が建っていた。


「うん。昔は、お父さんがいたんだけどね···」


 僕のお父さんは、僕が小学校に入って直ぐに事故にあって、星になった。


[きっと、こんな感じに見えるんだろーな。死んだら···]


「お父さんとおじいちゃんね···」


 なんとなく暑い感じはするのに、一瞬冷気に包まれた。リュークの上で、お父さんとおじいちゃんが、どれだけ仲が良くて、お母さんとお婆ちゃんも仲が良くて、とにかく家族の話を沢山喋った。


 おかげか······




「ほうか。眠っちまったか···」


〘はい。1度だけ嘘を付きましたこと、お詫び申し上げます致します〙


[では、期日になりましたらば···]


─これでいい。でないと別れが辛くなる···


〘啓吾?俺達の術は、お前が強くなったらきれる。これから先、いっぱい辛い事も悲しいことも···あると思うが、踏ん張って前を向いて生きろ!後ろだけは、絶対に振り向くな!〙


 ベッドの上で、爆睡してる啓吾に強く言った。


[じゃぁな!しっかり強くなって、みんなを守ってやれよ?啓吾]


〘ありがとうございました〙


[お世話になりました]


「ほんにの。帰るのは寂しいが···。これ、渡してくれんかの?」


〘平次さんに?〙


「うんだ。啓吾の写真だ。貫太にも見せてやってくれ」


〘はい。確かに···〙


[リバース·モーゲージ]


 ポンッ···ポンッ···


「さて、今夜は久し振りにお煮しめでも作るかの?早く平次さんに会いどぉなったわ」


 パタンッ···


 静かにドアが閉まり、啓吾の安心仕切った寝息が部屋を流れる···

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