死ぬ!死ぬな!
ソーマから今日の事を聞かされた啓吾は、死ぬと騒ぎ出すも、ことごとくソーマの魔法で失敗し······
「嘘だ!ねっ!嘘だろ!」
啓吾は、真っ赤な顔をし俺を睨む。
〘いや、ホントだ。俺は、嘘はつかねー〙
啓吾が、目覚めてから俺は今日あった事を全て話した。
ある1つを覗いて、だ。
〘これで、お前も···〙
「う、うるさいっ!!」
啓吾は、ペンケースからカッターナイフを突き出し、刃を向けてきた。
〘······。〙
「···んでない!僕、みんなを殺してなんて頼んでないっ!!」
〘うん。でも···死にたいとは思ってただろ?だから、俺が見えた〙
俺達、死神も悪魔、天使も普通の気持ちじゃ見えない···
「······。」
─その言葉に嘘はない筈だ。
「返して!ちゃんと、みんなを返して!!」
〘······。〙
─あんな酷い苛めを受けたのに?
〘お前は、それでもあいつらが好きか?あんなことをされ続けても?〙
啓吾は、真っ直ぐ俺を見て溜息をついた。
「でも、友達だから···」
これは、明らかに嘘だ。
〘嘘だな。だったら、何故俺の顔を見ない?〙
「······。返して!み、みんなを元の世界に返してよ!!でないと、僕···死ぬよ?」
〘······。〙
─いくら死神でも、流石にこれは、な。と言って、全てをぶちまける訳にもいかんし。
〘どうぞ?死ねるなら〙
「え?」
啓吾が、キョトンとした顔で、手にしていたカッターナイフを見ると、それはペランと曲がった。
「そうだ!ハサミ!」
〘ソリーダ·ニール〙
ハサミは、カラフルな紙で折られた物に変わる。
「これだ!」
〘ソリーダ·ニール〙
「こっち!」
〘ソリーダ·ニール〙
「今度こそ!」
〘ソリーダ·ニール〙
啓吾が、手にした物は、全て紙製になり···
「······。飛び降りる!!」
〘どーぞー!!ふふっ〙
取り降りた瞬間、
〘ソリーダ·ニール〙
「おわっ!!」巨大なトランポリンへと早変わり。
「く、車だ!」
〘ソリーダ·ニール〙
「か、川···」
〘ソリーダ·ニール〙
「そうだ!お婆ちゃんの農薬!」
〘ソリーダ·ニール〙
農薬は、甘いジュースに化け、啓吾の乾いた喉を潤していった。
「どうしたら、いいんだよぉ!これじゃ、死ねないじゃんっ!!」
〘死ななきゃいいのよ。死んでも、後悔だけが残る。それに、皆が悲しむわ〙
ヘトヘトに疲れたのか、啓吾はベッドへともたれかかった。
〘ミ·ラーユ〙
唱え指を鳴らすと、ボヤッとした光が徐々に大きくなっていく。
「あ、お母さんだ。お婆ちゃんも···」
〘それは、あくまでも啓吾が死んだ時の映像。学校の子は···ひとり?〙
「あっ!う、うん···」
─同じ制服か。
〘泣いてる、な。母上も婆様も···この子も〙
見知った顔なんだろう。ジッと見ていた。
〘この後も見るか?〙
啓吾は、首を横に振った。
「いいよ···」
啓吾は、小さく言ってベッドの上で丸くなった。
〘······。〙
「学校···どうなるの?僕、退学?僕のせい?」
ポンッ···
〘······。〙
【相当、病んでんな···】
血の匂いをプンプンさせたリュークが、現れた。
〘ま、ね。やりすぎちゃったかな?〙
【どうせ、お前のことだ。後で全て戻すんだろ?また、怒られるぞ?】
〘ふふっ···。任務外のことだからね。できた?〙
【あぁ。言われた時間通りに、流れるように細工は粒々だ!じゃな】
ポンッと軽い音を立て、リュークは消えた。
「はっ!寝ちゃった!」
〘······。〙
─さっきまで、死ぬ死ぬ騒いでた啓吾はどこ?
ココンッ···
ドアが開き、啓吾の母上が顔をだした。
「啓吾?起きてる?」
「死んでるーーー」
気怠そうな声で、母上に返事を返す啓吾。
「なんか、学校から電話あってね···」
「見つかったの?!みんな!」
ベッドから飛び起き、母上に掴みかかる。
「は?やーね。寝惚けてるの?明日、あんたのクラスの保護者会が急に決まったのよ」
「な、なに?!」
「ちょっと、どうしたのぉ?」
何も知らない母上は、困ったような笑みを浮かべた。
「だから、明日は一緒に学校行こうね」
母上は、それだけ言うと部屋を出ていった。
「ソーマ?やっぱり僕···」
〘あ?〙
「死にたい···」
〘バラッド·ビー〙
「んがっ!!!」
啓吾を眠らせ、俺はある場所へ向かった。
「どんぞ···」
〘······。〙
「迎えにきたのかえ?」
〘いえ。まだ、宣告だけです〙
シーンッとした部屋の中では、先立たれた先代·成瀬平次殿が生前好きだった香が焚かれていた。
「ほいで、いつかの?わしが爺さんとこ逝くのは···」
腕に嵌めたセンサーを見る。
〘あと30日後です〙
─そう俺達死神にもいろいろとランクがある。俺が、所属してるのは、Cランク。人を狩るのではなく、死を宣告をする。
「ほうか。それで···啓吾は?」
〘明日になれば、全てが終わります〙
「ほうか。ありがとうね。ソーマさん」
〘いえ。その時になったら迎えがきますから〙
「お願いしてもよろしいか?」
〘はい。なんなりと〙
キヨさんは、ゆっくりとお茶に口をつけた。
「逝く時はな、平次さんに迎えに来てもらいたいわ」
〘はい···〙
キヨさんの部屋を出て、啓吾の部屋へ···
啓吾が眠りに付いてから、全ての物に魔法をかけておいた。少しでも浮いたら、紙に変わる魔法。
〘マギー·ビー〙
解除し、啓吾の中へ潜り込む···
翌朝···
「ほら、啓吾。起きなさいって!遅刻しちゃうわよ!」
「う、うん···」
いつものような朝でも、やはり昨日の事があるのか、啓吾はなかなか布団から出ようとはしなかった。
〘いいの?遅刻しちゃうよ?〙
「······。」
〘啓吾?〙
啓吾の身体を揺すっても、起きようとしないどころか、逆に布団に潜ってしまう。
〘強硬手段で行くか?ん?〙
窓から外を眺めると、心配そうにこの部屋を見つめる制服姿の女の子···
〘外に女の子いるわよ?髪は、お馬のしっぽみたいで、ハート柄の···あっ!!ちょっと!〙
全部伝え終わらない内に、啓吾がベッドから飛び起き、窓に張り付く。
〘昨日の子?〙
「うん···。あ···」
誘導したつもりはなく、ただ聞いただけなのに、啓吾は真っ赤な顔をした。
〘ふぅん。好きなんだ!〙
「······。」
〘かっわいっ!〙
「う、うるさいっ!き、着替えるからアッチいって!」
〘え────っ?あたし、男よ?触ってみる?〙
「······。」
〘バミール·スツール〙
啓吾には、見えないが薄い光が啓吾全体を覆っていく。
「い、行ってくるから!あ、ご飯!」
〘······。〙
─素直じゃないんだから!もぉっ!
鼻歌交じりに、下へ降りると啓吾は、母上や婆様を驚かすように朝食をガツガツと食べて、
「ひってひわす」
「啓吾、お行儀悪い!もぉ、せっかく一緒に行けると思ったのに!」
母上は、笑いながら怒る特技があるらしい。
「おはようございます」
キヨさんは、軽く頭を下げ、ゆっくりとお茶を飲む。
「頼むでの···。あんたは頼りになる」
〘······。〙
─死神なんだけどね。
〘さぁて、あたしも行こうかな!!〙