空白の40分①
自分達のいる世界とは、違う世界に教室ごと転移した1年3組の生徒と教師の前に本来の姿を現した死神ソーマ。
彼の目的は?!
「じゃ、今から歓迎会やるから、机で丸を作れ」
小林先生が、そう言うとみんなら笑いながら、教室の中心部を丸く開け、僕はその中へ···
〘何を?〙
「何がいい?相撲?プロレス?ボクシング?」
大川が、ニヤニヤ笑いながら近付いてきた。
〘え、やだよ。歓迎会なんだろ?〙
大川が、キョトンとした顔をし、笑った。周りにいる生徒も先生もニヤニヤしている。
〘じゃ、もっと楽しいコトしようよ?〙
僕は、小さく笑いながら、ある言葉を呟いた。
「ん?なんか急に···」
明るかった教室内が、一瞬で暗くなり紫がかったオレンジに染まる。
「えっ···」
「なんだ?アレ」
一人が外を指だし、ゾロゾロと窓に近づき息を飲む。
ギャーッ···グェッギョ···グェッギョ···
「教室にいたよね?!」
「うん。なんで?」
女数名は、気を失い、腰を抜かす者、慌てて外に出ようとするも、
「先生!ま、窓!!開かない!」
小林先生は、腰を抜かし顔中汗だらけに···
コツン···コツン···
─本領発揮!
パンッ!!
軽く手を叩き、皆が俺を見る。
「成瀬?」
「えっ?嘘···」
〘さて!Ladies&Gentleman!It's show time.〙
「成瀬。おい、助けてくれ」
這いながら俺の所にくる小林先生···
「お前···」
〘ふふふっ。逃げたい?いいよ?逃げても?〙
パチンッと指を鳴らすと教室の四辺が消え···
「「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
ほぼ全員が、慌てふためき中央へと集まり、震え始める。
「な、成瀬。ここ、どこーーーっ?」
〘ここ?ここは、んぅ···俺が住んでる世界、かな?〙
「じ、地獄?」
「あたし、なんも悪いことしてなーーーいっ!」
泣きながら、叫ぶ女や虚勢を張る男に···
ドシンッ···ドシンッ···ドシンッ···と低く重い音が、近付いてきた。
「恐竜?」
「お、お化け?!」
〘これは、ドギル。お前らの世界にもいるだろ?うるさくじゃれてくる奴。ワンだかキャンだか鳴く〙
「ひっ!!しっ!しっ!い、犬なんだから、こないでよ!しっ!」
〘ドギル!良かったな!この子が、お前と遊びたいって!〙
「えっ?嘘!やだ!言ってない!やだ!助けて!お願い!!」
〘助ける?なんで?お前ら、俺に何をした?あ"?〙
周りが一気に静まり返り、
「いやぁぁぁぁっ!!」
這いつくばり、机を必死に掴むも、女の身体は見えない手で引きずりこまれ···
ギャフッ···
ドギルに鷲掴みに戯れた女は、グチャ···ボギッと残酷な音を立て、飲み込まれていった。
〘んぅ?まだ、遊び足りない?〙
ンギッ···
ドギルが、可愛く鳴き大きな手を教室の中に踏み込ませた。
「ひぃっ」
「に、逃げるぞ!!」
「ま、待って!大川ーーーーっ!!」
一目散に駆け出したのは、大川。啓吾の話だと陸上部で長距離をやってるとかなんとか。
〘いいよぉ!逃げても。あれ?みんな逃げないの?いいの?あの子みたいになっても?〙
ドギルは、遊びたそうに口からまだ赤みが残るよだれを流し、ジッと固まってる人間を見る。
「や、やだ!か、帰る!行こっ!!」
背の高い女は、傍にいたぽっちゃりした女を立たせ、走り出す。
〘あーあ。逃げても食われるだけなのに。バカだねぇ。人間って。なぁ?〙
ドギルは、ハァハァ言いながら、女は二人が逃げ出した方向を見て、ガウッと鳴いた。
「きゃぁぁぁぁぁ···」
甲高い悲鳴を聞き、逃げる男も居れば固まる男もいた。
「せ、先生!!」
「は、離せ!俺は、逃げる!どけ!」
─確か、相川って言ったな。
先生に抱きついていた相川は、突き飛ばされ尻もちを付いた。
「嘘つき!俺に離れるなって言ったくせに!言ってやる!言ってやるんだから!!!」
「そうだ!携帯!」
誰かが言い、ハッとしたように携帯を耳に当てるが、
「だめぇ!圏外になってるぅ」
例え繋がったとしても、ここまでこれねーだろ!
そうこう思ってる内に、遠くからギャァギャ···鳴き声が聞こえた。
「やだぁ。なにあれぇ」
「鳥?」
〘ミドゲラ!!遅いって!!〙
大きな声で、ミドゲラを呼び、降ろさせる。
ドゴォンッ···
「きゃっ!」
「おわっ!」
体長25メートルもあるミドゲラは、ギロッとした目で、固まってる人間を見た。
〘今から、空中見物させてあげるね!〙
傍へ傍へと集まる男女···
「いやっ。まだ死にたくない」
「そうよ。ねっ!成瀬、もう苛めないから許して?」
「成瀬!頼む!なんでもするから!!なっ!」
〘成瀬?誰?俺の名は、ソーマ!〙
指を鳴らし、本来の姿に戻る。ドサッと意識のない啓吾が倒れた。
「え?」
「誰?」
「死神?」
身長198cm、真っ黒な腰まである髪の頭部からは、クルンとした二本の角が顔を出し、黒装束を身に纏い、大ガマを持った男·ソーマは、一通り周りを見、
〘大竹、紅月、葵、高橋···。前に出ろ〙
「や···やだ。まだ死にたくない」
泣きそうな顔で俺を見る葵。
「お、お前だろ!紅月って!」
「は?」
指定されたのは、自分なのに、他人になすりつける紅月。
〘あとは?お前とお前か。なぁに、ちょっとした遊びだ。お前ら4人にこの世界を上から見物させてあ、げ、る!〙
「「「「······。」」」」
〘お前らは、逃げてもいいぞ?〙
大ガマで4人の尻をつつき、ミドゲラの背に乗せる。
「柔らかい···」
グェェッ···
大きな声で鳴くと、ミドゲラは嬉しそうに羽をばたつかせ空へと上り始めた。
「おい、逃げるぞ」
「今のうちだ!」
まとまり逃げる衆···
〘おーい!そこの人ー!〙
上から声を掛けると、立ち止まり上を見上げる男女。
〘大川ー?〙
固まった4人の中で、大きな頭を掴むとヒョイッと下へと落とす。
グチョッ···
「ふぎゃぁっ!!」
鈍い音と甲高い悲鳴···
〘たっのしぃ!!次は、誰にしようかなー?〙
「狂ってる」
「あんた、狂ってるよ!」
〘ほっ?褒め言葉?!ねー、ねー、それ褒めてるの?じゃ、高橋にしよっ!〙
「······。」
〘狂ってるのは、お前ら···だろ?な?〙
高橋の首根っこを掴み、大空へと投げる。後ろを飛んでいたもう一匹のミドゲラの口の中へ···
「た、高橋ーーーーーっ!!」
女の切り裂く悲鳴は、高橋の耳には届かなかった。
「酷い!」
〘酷い?なにそれ?褒めてるの?けどな、お前らの方がもっと酷い事を啓吾にしてたよな?〙
「契約したのか?い、いくらだ?金なら父さんに言って···」
〘契約?なーにそれ?美味しいのぉーーーーっ!!〙
首根っこを掴み、紅月を投げ飛ばす。
「あ"あ"あ"────────」
嬉しそうに口を開け待機していたミドゲラに飲まれる高橋。
〘さーて、おじょうちゃん!〙
「······。」
一歩近づくと一歩下がるを繰り返し、
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
悲鳴と共に暗闇の湖へと落下し、大きな水しぶきが上がった。
〘あら、ざーんねん!ダイクに食われちゃったかも!ふふっ。さ、ミドゲラ。今から、エサを探しに行くわよ〙
ミドゲラの頭を撫ぜ、方向転換する···
─20分で全てを終わらす。
ソーマは、ニヤッと笑いながら、上唇を舐めた。