ソーマ
僕の目の前に現れたのは、顎髭を生やし、スカートを履いた自称·お姉さんのソーマ(年齢不詳)だった。
目が覚めると、薄っすらと白い何かが見えた。
『ここは···?』
ツンとした消毒液の匂いが鼻を付くが、保健室ではなかった。
〘あーら、お、め、ざ、め?クスッ〙
『······。』
ぼんやりとした視界の中に、その変な人は、変な笑いをして、僕の顔を覗き込んだ。
『誰?おばさん···』
〘······。きっ!誰が、おばさんよ!お姉さんとお呼び!!〙
とそのおばさん?おじさん?は、僕を睨んで、
〘あんた、いつまで寝てるのさ?起きれば?〙
(ん?あれ?なんか身体が軽い?)
僕の記憶の中では、あの時まで身体が鉛のように重かったのに、今は軽いし、
『あれ?痛くない···』
〘そりゃそぉよぉ!ほら、見てご覧なさい〙
おのおばさん兼おじさんは、少し笑って僕を指差す。
『ん?』
手を見てもなんともなかった。足は?と足を片方ずつあげても、痛みもない。
『······。』
僕は、わからなくておばさん兼おじさんを見た。
〘あ"ぁ"っ、もぉっ!鈍チンねっ!!〙
いきなり手を引っ張られ、僕は···僕を···見た。
(僕が、ベッドに?じゃ、僕は誰?)とまた、おばさん兼おじさんを見る。
〘あんたよ、あ、ん、たっ!ほら、ここに、成瀬啓吾って書いてあるじゃないのっ!メッ!〙
『······。』
(いや、うん。書いてあるけど···)
ベッドで眠っている僕は、とても苦しそうに息をしていた。ついてるのは、酸素マスク?昔、お父さんがしていたものと同じだった。
(···これは?)僕の身体とボタン身体が、一本の紐?で繋がっている。
〘それは、生命の糸。いいのよ?私が切ってあげても···。ふふっ〙
(···生命糸?ってことは···)
ゴクッ···
『僕、死んだ···の?』
泣きそうな笑いになって、おばさん兼おじさんを見上げた。
〘そうしたいんだけどねぇ···。まだ、あんたを死なせられないんだよねぇ···〙
おばさん兼おじさんは、僕が繋がっている生命の糸でクルクル弄りながら、笑った。
『あの···あなたは···悪魔?』
普通ならここで、『死神?』と言うべきなんだろうけど、どうもそのおばさん啓吾おじさんは、死神には見えなかったから。
〘···に、なりそこねた。今は···〙
静かに笑って、こう言った。
『し、に、が、み!よ!名前は、ソーマ·ドリースよっ!それに、あたしは、お姉さん!』
(─には、見えない。お姉さんは、顎髭なんか生やしてない。スカート履いてるし)
『じゃ、ソーマさん。僕···』
〘まだ、生きてるって!じゃ、なに?あんた、あんなお母さんやお婆ちゃん遺して、死にたいの?!どうなのっ!!〙
『······。』さっきまで優しかった顔が、急に怖い顔になって、僕は思わず頭を隠した。
ベッドの側で、真っ青な顔して僕の髪を擦るお母さんやしわくちゃな手で必死に僕の腕を握り、念仏を唱えてるお婆ちゃん···
〘死にたい気持ちはわかるけど!それ!あんたじゃないでしょ?〙
ソーマさんが、指さした方向に、小さなテーブルがあって、グシャグシャに破かれた白い紙···。遺書···。
『うん···。でも···』
─死にたかったのは、少しはあった···。
ソーマさんは、少し笑って僕の耳元でこう言った。
〘復讐···して、あ、げ、る!ふふふ〙
『······。』
不安げな顔で、ソーマさんを見上げるが、
〘1日だけ。その1日でおしまい···ね〙
それから、僕は自分のベッドに座り、ソーマさんは宙に浮いて、いろいろと話をした。
『···でも、本当に、そんなこと出来るんですか?』
信じられないのも無理はない。ソーマさんが、僕の身体に入ると言っているのだから···。
〘ほんとは、本人の意識がない時に潜り込むんだけどね···〙
『はぁ···』
〘じゃ、試しに···。大きく息を吸ってー!吐いてー!〙
スーーーッ···ハーーーッ···
それを何度か繰り返してる内に、身体がまたフワフワし出して···
ポンッ!!
「ううっ···」
〘ちょっと、もっと端っこいきなさいよぉ!!〙
─再び、目を開けると白い天井が見えた。
「おか···ぁ···さん?おば···ぁちゃ···ん」
僕の声に気付いてくれたのか、お母さんもお婆ちゃんも僕の顔を覗き込んだ。
「「はぁっ!!」」
お母さんとお婆ちゃんは、互いに手を取り合って···
「啓吾···あぁっ!」
「啓吾。良かった···。ほんに、良かった!!あ、佳子さん。ここにいてくんろ!!い、いま呼んでくっから!!」
でも、お婆ちゃんが、ナースセンターへ向かう前に、
「成瀬さーん···」のんびりとした声で看護師さんが···
そこからが···
〘ほんとっ!うるさかったわぁ!!〙
夜の病室の中···
ベッドに横になる僕と宙に浮かぶソーマ。
〘あんた、親には感謝しなさいよ?あんなに泣かせて···〙
「······。」
意外とソーマも涙脆い。死神なのに···。そして、僕の身体もソーマの魔法で治して貰ったんだ。お医者さんは、頭をかしげていたけど···
「上手く行くかなー」
〘安心しな。そこは、うまーくして、あ、げ、る〙
「······。」
〘だから、あんたは何も心配しないで。お、や、す、み···〙
頷き僕は、布団を被った。
僕が、入院したのは、1週間だったけど、目を覚ました日には酸素マスクが取れ、3日目にはスタスタと歩き、周囲を驚かせた。
〘ふぅん。ここが、あんたの部屋ね···〙
僕が、あの日学校に行った時のままだ···。ベッドの布団は、フカフカになっていた。
「学校···大丈夫かな」
机の上には、クラス委員がわざわざ持ってきたのか、寄せ書きが置かれていた。
〘あのねぇ!あたしが···〙
困った顔をしながら、僕の隣にきて···
〘やってやるっていってるだろぉぉぉぉぉっ!!!!〙
ピシッ···ピシッ···
窓が少し揺れ、
「······。」
左耳を抑え、床に蹲る僕と、
〘え?ちょっとやぁだ!!大丈夫?〙慌て蓋めくソーマ···
「うん。でも、あまり痛いことしないでね?あとで苛められるの僕なんだから···」
そう言うと、ソーマは〘そうね〙としか言わなかった。
〘じゃ、あたしちょっと出掛けるからぁ!あんたは、明日に備えて、おねんねするのよぉ!〙
「うん···」
ソーマは、小さく何かを呟くと消えていった。
「ふわぁっ!!今日は、疲れたな」
なんとなく不安は残る。けど、僕はソーマを信じることにした。
「寝よっ」
【···ったく、なんだよ。こんな時間に!!】
〘あたしよ、あ、た、し!〙
【んだよ、オカマか】
〘······。〙
【っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】
寝てる所を起こされた俺は、突然ソーマの足で股間を踏まれた。
ピクピクッ···ピクピクッ···
〘あんたのその腕を見込んで、頼みがあんの···。ちょっと、リューク聞いてる?!〙
【は···はひ···】