転落
初めての試みに、ドキドキしてます。
クスクスッ···
「ほーんと、グズなんだから!」
クラスの女子が、僕を嘲笑いながら、鞄に詰めた教科書やノート、筆記具を下の床に落としていく。
「おい、成瀬。まだ終わらんのか?早くしろ」
担任の小林先生が、僕を見ながら言った。
「こっちみんなよ。キモいな···」
「······。」
後ろの席の大竹くんが、笑いながら僕の腰の辺りを蹴る。
ガタンッ···
「テスト始めるから、湊。お前も席に着け」
「はいーはいっ!あー、手汚れちゃったかなー?」
湊さんは、僕の鞄を机の上に置くと、そう言いながら自分の席に着いた。
先生が、人数を数えながらテストを前の席から配っていき、前の席の子が後ろに回していく。
「はい、大竹···」
「······。」
「あいよ」
テストは、僕の頭上を通り越して、後ろの大竹くんに渡される。僕は···受けられないから。他の教科の授業は、受けられるのに···
─このクラスに僕は、存在しないのだから···
俗に、『苛められる原因は、苛められる側にもある』とは聞くけど、僕にはなんで自分が苛められるのか、理由なんてわからない。ある日、突然クラスのみんな、担任の先生から苛めが始まったのだから。
『本でも読もうかな?』
そう思って、鞄を開こうとすると、
「先生!成瀬カンニングしてまーす!」
僕の隣にいた武田さんが、ニヤニヤ笑いながら先生に言い、
「成瀬、お前は後ろで正座してろ」と睨む。
ふふっ···クスッ···
「バッカじゃねーの?お前、堂々とカンニングすんな」
「······。」
(テストの答案用紙すらないのに、カンニング?)
応える気力もなく、僕は教室の後ろに行って、正座をする。
「ばーか」
「お前キモいんだよ」
「死ね」
「······。」
(聞こえない···聞こえない···)
約40分もの間、僕は足がジンジンしても耐えた。
今日は、金曜日だから、班ごとに分かれての掃除があり、僕がいる班は今週教室の掃除で···
「じゃーな。ちゃんときれいにしとけよ?」
「あんたがいるせいで、いつもうちらビリなんだよ?」
「ったく、トロくさい男」
「······。」
クラスの皆が帰った後、僕は一人で教室の掃除をする。
(ちょっとは、楽だ···)
少し時間を掛けて、いつもより綺麗に掃除をし、戸締まりを確認してから、職員室にいる先生に、
「掃除終わりました。鍵を···」
小林先生は、僕の顔を見ることなく、机の引き出しを開け、指で入れろと合図をする。
「さようなら···」
頭を下げ、職員室を出て昇降口へ向かった。
カタンッ···下駄箱の蓋を開けて、溜息を付いた。
「またか···」
1年3組19番の下駄箱の中に、僕の靴は入っていなかった。
(確か、先週は···)
廊下に設置されてるゴミ箱を覗いたが、僕の靴は見つからなかった。
「これで帰るしかないか···」
金曜日だから、上履きを持って帰るのだが···
上履きのまま、外に出ようとした僕は、後ろからいきなり名前を呼ばれて振り向いた。
「え、と···」
(誰?先生?)
「きみ、1-3のナルセくん?」
「はい···」
作業着みたいなツナギを着て、そのお兄さんは、
「きみの?これ」
と少し焦げた上履きを僕に差し出した。
「は···い」
「駄目だよ?まだ、綺麗なの捨てちゃ」
お兄さんは、そう言うとまたどこかへ歩いていって、昇降口には僕ひとり。
「お礼いうの忘れた」
下校のチャイムが鳴り、慌てて僕は家に帰ったけど···
「おかえり」と優しく出迎えてくれるお婆ちゃんには、靴の事が言えず、お母さんが帰ってくる前にコッソリとゴミ箱の奥に突っ込んだ。
(お母さんにもお婆ちゃんにも、心配掛けたくない···)
─僕に対する苛めは、毎日毎日行われるけど、僕は学校を休むのが怖かったから、行った。
「─であるから、ここのXは···」
チクッ···チクッ···
背中に針で刺されたよりも、強い痛みがした。
ガタッ···
わざと大きな音を立て、机ごと前に進んだ。
「じゃ、この式を···」
数学の嵐山先生が、教室をグルリと見渡して···
「成瀬、お前やってみろ。出来るだろ?」
クラス中の視線が僕に集まる。
「あ···はい」
(なんで、僕を指すの?やめてよ!)
答えたくなかった。答えたら答えたでまた···
「おい、どうした?具合でも悪いのか?」
何も知らない嵐山先生は、心配そうに僕に声を掛ける。
「わ、忘れました···」
「そか。大丈夫か?じゃ、紅月」
「えーーーっ!?俺ムーリー!」
一瞬、紅月くんと視線が合った。
(怖いな···)
ガタンッ···
「おい、後で北校舎こいよ?」
後ろから小さく大竹くんが言って、頷くしかなかった。
グフッ···ウグッ···
「あれー、どうしたのかな?そんなとこ蹲ると制服汚れるよ?」
男子を囃し立て、僕をからかうように言葉を浴びせる女子···
「おい、起こせ」
大竹くんが言うと、一緒にいる他の男子が、僕の身体を両脇からささえる。
ドフッ···
ウグッ!!
「おい、顔上げろって!!」
グブッ···
大竹くん達は、僕を苛める時、顔は絶対に殴らない。バレるから···
「お前には、ほんと迷惑してんだよっ!!」
ドフッ···
(ううっ···吐きそう···痛いし···)
「もっと、やっちゃえ!ほらほら」
「ほんと、キモい顔···」
(声が···遠くなる···)
「成瀬?」
グギッ···
「ぐ···な"っ···」
(だ···ずげ···で···。誰···が···)
ドサッ···
「あーっはっはは···」
「いいきみー」
「ざまーみろっての!」
「あー、スッキリしたぁ!」
(動け······ない···)
どれだけそこに倒れていたんだろうか?気付いたら、窓の外はもうオレンジに染まっていた。
「ぅぐっ···はっ···ぁあっ」
力を振り絞って、立とうとしてもうまく立てず、身体だけを仰向けにさせた。
「······。」
息をするのも痛いが、帰らないとお婆ちゃんやお母さんが、心配する。
「帰ら······なきゃ···」
身体を転がし、廊下側の壁まで行き、
「ゔっぐぉぉぉぉぅ!!!」ドアを掴み、歯を食い縛り立ち上がる。
(口の中、鉄の味だ···)
廊下の蛇口で、口を濯ぎ、鏡で顔を見る。
「手と足は···無事だ」
鉛のように身体は重く、一歩ずつ歩くだけでもギシギシと腹部が痛む。
誰にも見られないように、教室に向かうと僕の鞄だけがポツンと机に乗っていた。
カサッ···
「······。」
鞄を退けると、下には真っ白な封筒に『遺書』と書かれた物が置いてあった···
僕は、無言でポケットに入れ学校をあとにした。
─ところまでは、覚えてる。
でも、目が覚めたのは···
誤字脱字などありましたら、なんなりとご指摘願います。