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ぼっちのぼっち  作者: 暁庵
1/9

転落

初めての試みに、ドキドキしてます。

 クスクスッ···


「ほーんと、グズなんだから!」


 クラスの女子が、僕を嘲笑いながら、鞄に詰めた教科書やノート、筆記具を下の床に落としていく。


「おい、成瀬。まだ終わらんのか?早くしろ」


 担任の小林先生が、僕を見ながら言った。


「こっちみんなよ。キモいな···」


「······。」


 後ろの席の大竹くんが、笑いながら僕の腰の辺りを蹴る。


 ガタンッ···


「テスト始めるから、湊。お前も席に着け」


「はいーはいっ!あー、手汚れちゃったかなー?」


 湊さんは、僕の鞄を机の上に置くと、そう言いながら自分の席に着いた。


 先生が、人数を数えながらテストを前の席から配っていき、前の席の子が後ろに回していく。


「はい、大竹···」


「······。」


「あいよ」


 テストは、僕の頭上を通り越して、後ろの大竹くんに渡される。僕は···受けられないから。他の教科の授業は、受けられるのに···


─このクラスに僕は、存在しないのだから···


 俗に、『苛められる原因は、苛められる側にもある』とは聞くけど、僕にはなんで自分が苛められるのか、理由なんてわからない。ある日、突然クラスのみんな、担任の先生から苛めが始まったのだから。


『本でも読もうかな?』


 そう思って、鞄を開こうとすると、


「先生!成瀬カンニングしてまーす!」


 僕の隣にいた武田さんが、ニヤニヤ笑いながら先生に言い、


「成瀬、お前は後ろで正座してろ」と睨む。


 ふふっ···クスッ···


「バッカじゃねーの?お前、堂々とカンニングすんな」


「······。」


(テストの答案用紙すらないのに、カンニング?)


 応える気力もなく、僕は教室の後ろに行って、正座をする。


「ばーか」


「お前キモいんだよ」


「死ね」


「······。」


(聞こえない···聞こえない···)


 約40分もの間、僕は足がジンジンしても耐えた。




 今日は、金曜日だから、班ごとに分かれての掃除があり、僕がいる班は今週教室の掃除で···


「じゃーな。ちゃんときれいにしとけよ?」


「あんたがいるせいで、いつもうちらビリなんだよ?」


「ったく、トロくさい男」


「······。」


 クラスの皆が帰った後、僕は一人で教室の掃除をする。


(ちょっとは、楽だ···)


 少し時間を掛けて、いつもより綺麗に掃除をし、戸締まりを確認してから、職員室にいる先生に、


「掃除終わりました。鍵を···」


 小林先生は、僕の顔を見ることなく、机の引き出しを開け、指で入れろと合図をする。


「さようなら···」


 頭を下げ、職員室を出て昇降口へ向かった。


 カタンッ···下駄箱の蓋を開けて、溜息を付いた。


「またか···」


 1年3組19番の下駄箱の中に、僕の靴は入っていなかった。


(確か、先週は···)


 廊下に設置されてるゴミ箱を覗いたが、僕の靴は見つからなかった。


「これで帰るしかないか···」


 金曜日だから、上履きを持って帰るのだが···


 上履きのまま、外に出ようとした僕は、後ろからいきなり名前を呼ばれて振り向いた。


「え、と···」


(誰?先生?)


「きみ、1-3のナルセくん?」


「はい···」


 作業着みたいなツナギを着て、そのお兄さんは、


「きみの?これ」


 と少し焦げた上履きを僕に差し出した。


「は···い」


「駄目だよ?まだ、綺麗なの捨てちゃ」


 お兄さんは、そう言うとまたどこかへ歩いていって、昇降口には僕ひとり。


「お礼いうの忘れた」


 下校のチャイムが鳴り、慌てて僕は家に帰ったけど···


「おかえり」と優しく出迎えてくれるお婆ちゃんには、靴の事が言えず、お母さんが帰ってくる前にコッソリとゴミ箱の奥に突っ込んだ。


(お母さんにもお婆ちゃんにも、心配掛けたくない···)


─僕に対する苛めは、毎日毎日行われるけど、僕は学校を休むのが怖かったから、行った。




「─であるから、ここのXは···」


 チクッ···チクッ···


 背中に針で刺されたよりも、強い痛みがした。


 ガタッ···


 わざと大きな音を立て、机ごと前に進んだ。


「じゃ、この式を···」


 数学の嵐山先生が、教室をグルリと見渡して···


「成瀬、お前やってみろ。出来るだろ?」


 クラス中の視線が僕に集まる。


「あ···はい」


(なんで、僕を指すの?やめてよ!)


 答えたくなかった。答えたら答えたでまた···


「おい、どうした?具合でも悪いのか?」


 何も知らない嵐山先生は、心配そうに僕に声を掛ける。


「わ、忘れました···」


「そか。大丈夫か?じゃ、紅月」


「えーーーっ!?俺ムーリー!」


 一瞬、紅月くんと視線が合った。


(怖いな···)


 ガタンッ···


「おい、後で北校舎こいよ?」


 後ろから小さく大竹くんが言って、頷くしかなかった。




 グフッ···ウグッ···


「あれー、どうしたのかな?そんなとこ蹲ると制服汚れるよ?」


 男子を囃し立て、僕をからかうように言葉を浴びせる女子···


「おい、起こせ」


 大竹くんが言うと、一緒にいる他の男子が、僕の身体を両脇からささえる。


 ドフッ···


 ウグッ!!


「おい、顔上げろって!!」


 グブッ···


 大竹くん達は、僕を苛める時、顔は絶対に殴らない。バレるから···


「お前には、ほんと迷惑してんだよっ!!」


 ドフッ···


(ううっ···吐きそう···痛いし···)


「もっと、やっちゃえ!ほらほら」


「ほんと、キモい顔···」


(声が···遠くなる···)


「成瀬?」


 グギッ···


「ぐ···な"っ···」


(だ···ずげ···で···。誰···が···)


 ドサッ···


「あーっはっはは···」


「いいきみー」


「ざまーみろっての!」


「あー、スッキリしたぁ!」


(動け······ない···)


 どれだけそこに倒れていたんだろうか?気付いたら、窓の外はもうオレンジに染まっていた。


「ぅぐっ···はっ···ぁあっ」


 力を振り絞って、立とうとしてもうまく立てず、身体だけを仰向けにさせた。


「······。」


 息をするのも痛いが、帰らないとお婆ちゃんやお母さんが、心配する。


「帰ら······なきゃ···」


 身体を転がし、廊下側の壁まで行き、


「ゔっぐぉぉぉぉぅ!!!」ドアを掴み、歯を食い縛り立ち上がる。


(口の中、鉄の味だ···)


 廊下の蛇口で、口を濯ぎ、鏡で顔を見る。


「手と足は···無事だ」


 鉛のように身体は重く、一歩ずつ歩くだけでもギシギシと腹部が痛む。


 誰にも見られないように、教室に向かうと僕の鞄だけがポツンと机に乗っていた。


 カサッ···


「······。」


 鞄を退けると、下には真っ白な封筒に『遺書』と書かれた物が置いてあった···


 僕は、無言でポケットに入れ学校をあとにした。


─ところまでは、覚えてる。


 でも、目が覚めたのは···

誤字脱字などありましたら、なんなりとご指摘願います。

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