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へ、変態だー!

 じっさまから、ちっこいのを町の学校に入れるから、ちょっと保護者として数年過ごしてこいと言うお達しを頂戴した。

 魔力特化のネフェリとの絆レベル1は不特定多数の者が獲得できる称号だったようで、彼女と一緒に遊んでいた子供達は全員称号を手に入れていた。


 レベルが有るからには、2とか3もある筈だが、一番最初に獲得した俺の称号は未だにレベル1のままである。何かしらの条件があるのだろうが、それは不明だ。

 ネフェリに直接訊ねてみても、「ふが?」である。


「一緒に住んでるアルでそれなら、相当特殊な条件なんだろうな」


 と、レオンハルトは手元の剣に目利きスキルを発動した。出来がいまいちだったのか、舌打ちをして鉄屑を入れる樽の中へと乱暴に放り込む。

 ちょっと興味本意で手に取って、データを参照してみた。


 鉄の剣:攻撃力E-。


 因みに、鉄の剣の平均的な攻撃力はF-である。


 更に言えば、彼の親父さんの最高傑作がこのランクだった。折っちゃったけど。


「キミは一体何を目指してるのかね?」


「S+」


「それは鉄の剣で出せる攻撃力じゃないと思うんだ、俺」


「うっせぇな。俺はとっとと鍛冶師をマスターして上位職業、上位鍛冶師(ハイスミス)を目指す。果ては鍛冶師スミスマスターだ」


「おおー」


 と感心しながら拍手を送る。一人分の拍手は虚しいもので、室内に乾いた音が規則的に木霊した。

 こんな賛辞で満足したのか、レオンハルトは上機嫌に鼻を鳴らして見せた。


上位鍛冶師(ハイスミス)なら、ちょっとした魔剣が打てる。効果は大して強くもない、なんちゃって魔剣だがな。でも鍛冶師スミスマスターなら強力な魔剣が打てるんだよ」


「鉄の魔剣かー。オリハルコンの剣とどっちが強いかね?」


 伝説の鉱石、オリハルコン。

 オリハルコンの剣は何処かの国の宝剣として祀られている。剣として打つ事が出来る貴重な証拠だけど、歴史を掘り返しても実在するのはその一本のみ。

 一説では偶然剣の形をしていただけなんじゃないかって笑い話もある。剣の形をした鉱石とかちょっと有り得ない。というかそんな奇跡が有ったら絶対に神様の悪戯か何かだろう。


「何言ってやがる。俺が打った剣の方が強いに決まってるだろ」


「やだこの子、不遜」


「言ってろ。俺はやるぞ。世界最強の剣を鍛える、どんなに時間が掛かっても、絶対に為し遂げて見せる!」


 鎚を手に掲げ、天井に向かって宣言するレオンハルト。

 何が彼をこうも突き動かすのだろう。ちょっとレオンハルトの将来が心配である。


 歴史を紐解くと、そういう大罪人が過去に存在している。彼は永遠の命を手に入れて、ひたすらに剣を打った。どうして、なんの為に。人は、彼が鉄を打つ理由を知らない。何故なら彼自身、どうして狂ってまで剣を鍛え続けたのか分からなくなっていたからだ。


 伝説の鍛冶師(スミス)マスター。オリハルコンの剣を打ったとされる彼は最後に泣きながらこう溢したと言う。


『何故、人は百年しか生きられないのだろう』


 歴史家は、彼は誰かの為に剣を打ち続けたのではないかという説を唱えている。その説には非難も有って、ただ強力な剣を作りたかっただけの狂人という声もあった。


「レオンは、なんで強い剣に拘るんだ?」


「はっ? 強い剣を打ちたいからに決まってるだろうが」


 取り敢えず、レオンハルトが道を踏み外したらぶん殴ると親父さんに誓おう。


「まぁ、上位鍛冶師(ハイスミス)云々の前にライセンスの資格試験を頑張らんとな」


「うぐぅっ!」


 そう、レオンハルトは剣を打ってばかりでちっとも勉強をしていなかった。

 彼の試験に合わせてちび共を町の学校に入れるというのに、肝心のレオンハルトはダメダメである。


 いやまぁ、文字の読み書きという点で、余り人の事を言えない俺なのだが、ね。


 書き慣れない為に字は汚ない。スムーズに読めず朗読で何度も詰まる。寧ろ子供達の方が綺麗だし読めている悲しさ。

 これでも必死こいて頑張ったんだがねぇ。


 日々を惰性で生きてきたツケがここに来ていた。


「迂愚具っ。そもそも! なんで職人職だけこんな制約があるんだよ! おかしいだろ!」


「それはね。目利きの先に派生技能の鑑定があるからだよ」


「不公平だろ国家資格!」


「まぁ、まぁ。強制してるだけあって試験費用は国持ち、しかも落ちたらそれなりのサポートがあるらしいじゃないの。主に勉強の」


「勉強と言うよりは倫理観とかの作文だがな! あれ超苦手! 丁寧語とかやってられるか!」


「文法頑張れー」


「くっそ、他人事だと思いやがって」


 だって他人事だしー。


「というか、お前はお前で明日出発だろ? 荷物纏めなくて良いのかよ」


「もう終わってる。そっちこそ、ネフェリの世話頼むぞ、ホント」


 ちびっこ達を連れて当日迷子に為らないよう、明日は下見の為に町へと行く予定だ。

 距離的に日帰りは無理そうなので、留守番のネフェリはレオンハルト家に預ける。ちび共を連れていく時はネフェリも一緒なので、どうにか納得させた。


 子供達が学校を卒業する数年間は町暮らしになるから、今回の下見である程度の関係作りも済ませたいところ。ご近所付き合いとか、大事だし。


 この村が規模的に町として認められそうな事もあり、最寄りの町も相当大きい。向こうは近々正式に都市として認められるとかで、盛り上がっているらしい。


 学校と下宿先への挨拶は当然として、バイト先も見ておきたい。


「ネフェリを預かる身としては、無事に帰って来てもらいてぇな。なんだって傭兵ギルドなんだよ。冒険者ギルドでもいいだろうが」


「実入りが良いのだよ。冒険者は、ほら。冒険する人達だし。俺とは合わないって」


 夢とロマンを求める冒険者も良いけど、学の無い身としては安定した収入が欲しいところ。月一でじっさまから仕送りがあるけど、いざという時の為にこっちでも稼げる手段を作っておくに限る、はず。要はただの保険だ。


 国家間のお金の価値基準を使ったレートの錬金術染みた出稼ぎである。


 とは言え、冒険者という名の何かが蔓延る昨今。ちゃんとした冒険者が存在するかは怪しいところである。


 レオンハルトの鍛冶屋を辞して、夕日に染まる空を見上げる。


 鮮やかな色が遥か彼方まで染め上げていた。


「明日は晴れ、と」


 伊達に村育ちはしていない。


 日々空模様を気にしている農夫には負けるけど、それなりの目と鼻は持っている。


 自宅へ着くと、ネフェリが出迎えてくれた。


「ふがっ!」


「ただいま。ネフェリ」


 ネフェリの姿はかなり特徴的だ。

 頭から生える二本の角に、腰から伸びる一対の翼は蝙蝠の様だ。この時点で人の目を引く。寧ろ当たり前に受け入れる人は居ないんじゃないかな。居たらそいつは相当の変態だ。


 肌は浅黒く、髪は白い。きちんと食べさせている成果か、お肌は近所の奥さんが羨ましがる程には艶があり、出逢った当日は伸び放題だった髪は整えている。俺が整えている。

 一回おかっぱにした事があるけど、ネフェリにも周りにも不評だったから仕方なくショートカットである。

 不自然に為らないように切るの、大変なんだよ。


 そんな美人さんなネフェリだが、その瞳は通常の人間とは違い本来白い筈の部分は黒く、瞳孔と呼ばれる箇所は赤く輝いている。初見の人には不気味な印象を与える瞳だが、慣れてしまえば愛らしく見えるらしい。

 所謂一つのきもかわいい。

 そう言ったら酷いバッシングを受けた。


 にこりと微笑む際に覗く歯並びは、所謂ギザ歯というものらしく狼の様な鋭さを持っている。

 以前ふざけて石をあげてみたらバリボリ噛み砕いていた。不味かったらしくすぐに吐き出していた。その後レオンハルトに鎚で殴られた。俺が戦士じゃなかったら死んでたぞ。


「良い子にしてたかー?」


「ふが! ふがふが、ふーが!」


「好きだねぇ、坂滑り。余り急な坂で滑ったらダメだぞ」


「ふがっ」


「よしよし。夕飯作るから、食器出しといて」


「ふーが!」


 ぱたぱたと奥へと小走りで駆けるネフェリ。その間に手洗いうがいを済ませ、エプロンを身に纏う。因みに、レオンハルトから様になっててくそきめぇという評価を頂いている。


 今日の献立は豚肉と野菜炒めである。後はご飯と味噌汁。


 レオンハルトはパンが好きだが、俺とネフェリは米派である。だが残念な事に米は地域によってかなり味が変わってしまっていて、行商人から買って炊くまでどこ産か分からないドキワク感があった。


 本当ならもう二品くらい作るのだが、生憎と明日出掛ける都合、食材はほぼ使いきっている。


 料理なんてネフェリと出逢うまで縁が無かったが、為せば意外となんとかなるから凄い。余り凝ったものは作れないので、そこは創意工夫でカバーだ。時々ゲテモノになって、レオンハルトに御裾分け(廃棄処分)する。


「ほらネフェリ、手を合わせて。頂きます」


「ふがふが」


 この世の大地と天の恵み、後ついでに野菜とか育てた人に感謝しながら、俺とネフェリは目を光らせた。


 狙いは大皿に載せられた野菜炒め、の豚肉。我々の食卓は戦場だ。早い者勝ちである。


 まぁ、作ってるのは俺なので、足りないなら作り足せば良いだけなのだが、奪い合いが楽しいから仕方がない。


 楽しい。そうだな、楽しい。


 ネフェリと出逢ってから、なんだか楽しい事が増えた。


 楽しくて、幸せで。


 今を生きている罪悪感で、心臓を潰されそうだ。


 父さん、何時になったらそっちにいけるだろうか。


 でも幸福だからまだいかなくていっか。


 夕食を終えて、ネフェリの翼の手入れをしながら、俺達は夜を過ごしていった。


 朝早くに村を出発し、最寄りの町に到着したのが夕方である。


 街道をひたすらに歩き、お疲れである。

 幸いなのが、等間隔に設置された街灯に魔物避けの効果が有った事だろう。歩き通しで更に魔物の相手をするとか、勘弁願いたい。


 町は大きく三つの区画に分けられていた。


 北区は裕福層が住んでいるのか、豪邸が建ち並んでいる。流石、近々都市と認められるだけあって、相当の金持ちが腰を落ち着けているようだ。

 東区は商業エリアにしているのか、人通りが一番多い。数々の店舗がところ狭しと並べられている。裏道にも知る人ぞ知る店って感じに置かれていた。

 でもって中央区。入って大通りを真っ直ぐ行くとギルドが見える。ギルドを中心として住宅が広がっている。下宿先も中央区の外側に位置していた。


「挨拶は、明日だな」


 どうせ衝動買いを抑えられないだろうからと、結構な金額を持ち歩いている。きちんと引き出した手数料も払い、レオンハルトにマジギレされた後だ。


 スリ対策に大金は胸元に、そして小銭を幾つかの袋に分けて腰に吊るしている。既に一つ無くなっている辺り、この町の者は手が早い。


 手頃な宿屋は無いかと中央区を歩いていると、ギルド方面から騒ぎが伝播してきた。

 必死な顔で手足を振り、悲鳴をあげながら住民が何かから逃走している。


 何か来るのかと戦棍に手を添えると、見えてきたのは一人の少年とそれを追う騎士の方々。一体何事なのだろう。


「逃げろ皆の衆! そいつはライセンス未所持の、町中で鑑定を行った変態だあッ!!」


「だからなんで鑑定しただけで変態扱いされるんだよ! おかしいだろ!?」


「黙れこの変態! 貴様の様な変態は、生かしておけん!」


「物騒過ぎだろこの世界!」


 成る程、飛んでもない変態も居たもんだ。


 夕方とはいえ、堂々と誰かに鑑定を発動させたのだろう。なん足る変態。許されざる蛮行。町を歩く変質者め!


 取り敢えず、急加速(クイックダッシュ)で近付き、あの変態を引っ捕らえよう。


 そう考えて、技能を発動させて急接近するのと、少年が魔法を唱えるのは同時だった。


「ランダムテレポート!」


「あっ」


 少年の唱えた転移魔法に、見事に巻き込まれてしまった。

 メンドイシリーズを考えるのがメンドイ。

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