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じっさま「坊主が長老衆に入ってくれたらいいな、いいなー」

 眼が覚めると、そこは異世界だった。


 なーんて事はなく、レオンハルトの部屋だった。


 寝起きで判然としない頭のまま隣を見ると、そこには相変わらず全裸のネフェリが居た。腰から生えている一対の翼のせいか、横向きで寝ている。具体的にはこっちを向いて寝ている。


 寝姿は初めて見た時よりもなお幼い印象に感じられ、寝惚けているのか親指を軽くしゃぶっている。あざとい。


 小鳥の囀りが耳朶を擽り、思わず頭を抱えてしまう。


 まさか、レオンハルト(他人の男)の部屋で朝チュンを迎えるとは。


 くだらない事を考えていないで、レオンハルトに何がどうしてこうなっているのかを聞きに行こうと、ネフェリを起こさないようにベッドを抜け出る。


 瞬間、両腕を駆け抜ける激痛に見舞われ、その場で悶え苦しんでいると、はたと気付いた。


 無茶な連打で筋肉痛になっている腕はいいとして、何故脇腹とか肩とか顔とかに痛みがない?


 自分の体をペタペタ触って触診する。


 依然として両腕は涙が滲む程に痛いが、それ以外はなんともない不思議。


 疑問符を浮かべ、鉛の様に重たい腕をぶら下げながらレオンハルトの部屋を出る。


 生活スペースから、レオンハルトの父親が鉄を打っている仕事スペースを抜け、カウンターへ顔を出すと、目的の人物を発見する。


「あっ! てめ、アルバート!」


「えぇっ!? なんで俺いきなり掴み掛かられてんの!? そしてなんでぐわんぐわん揺さぶられてんの!?」


 突然の蛮行に困惑していると、レオンハルトは怒り心頭のままあるものを見せ付けてきた。


 それは鞘が見るも無惨にベコボコとなった剣である。


 岩男に斬撃は効果が薄いと、棍に見立てて鞘ごと連打した結果だろう。


 レオンハルトがむすっとしたまま剣を抜くと、中程からぽっきり折れている。彼の怒りが剣を粗末に扱った事へ向いているのだと理解した。


「仕方無いじゃん! 奴さん、生物じゃなくて岩だったんだから、岩! 抜き身でやった方がやばかったって!」


 具体的には、一振りでひびが入り、二振りで折れていた事だろう。攻撃力E-でも、折れてしまえば使えない。


 それに、剣で岩石を斬るなんて所業、剣:E+の俺では無理だ。


 熟練度は武器の攻撃力を底上げするものではなく、どれぐらい上手く扱えているかの目安でしかない。戦士な俺だけど、剣の扱いに関してはまだまだ素人だ。精々、取り敢えず使えているに過ぎない。


 未だに、剣術の派生技能が発現していないのがいい証拠だ。


「だったら殴れば良かっただろうが!」


「やだっ。この子ったら横暴!」


 「アン?」と怪獣のごとき眼光で睨み付けてくるレオンハルト。その内目からビームとか出しそう。


 確かに武闘家ならば岩を砕く技能か、または技術を持っているだろう。戦士は特定の武器に特出していない分、幅広い武器を扱える。拳も、鍛えれば経験値が入るだろう。


 けれど、剣士よりも上手く剣は扱えない。騎士の様に壁の様に盾を扱えない。武闘家の様に鋭く拳を振るえない。弓使いの様に精密に矢を飛ばせない。


 斧や盾による力押しを得意とするパワーファイター。

 幅広い武器を得意とするのがウェポンエキスパート。


 今の俺は、まだどちらでもない。


 本来、ジョブは適性値Sランクに就くのがこの世の常識であり通説である。それ以外のジョブに就いても、適性値Sよりも遥かに成長が遅いのだ。


 戦士のジョブに決定したのが子供の頃。その時、角材を以て魔物を殲滅してようやくレベルが上がった。本来なら、既に見習いを卒業してもいい経験値だというのに。


「ったく。親父が打った剣なんだ。もちっと大事に扱え」


「無茶を仰るなうさぎさん。幾ら手入れしても武器として使うんだから壊れれれれれ!?」


 またもやがっくんがっくん揺さぶられる。


 いい加減吐きそう。おぇっぷ。


 気分悪く口元を押さえていると、レオンハルトは聞かれてはまずい事でも話すように声量を抑えた。


「それで、お前何時からロリコンになった?」


「取り敢えずはその誤解を解こうか、キミ」


 断じて俺はロリコンではない。どちらかと言えば愛人系のお姉さんが好きだ。傷付いた心を癒してくれるお姉さん、絶賛募集中!!


 ネフェリとの経緯を軽く説明した。


 廃坑に赴いたら自警団にぶっ刺されてた。お腹が減ってるようだったから干し肉と水袋をあげた。その後自警団に預けて廃坑に入ったら岩男が居た。戦って瀕死になった。等々。


「待て、瀕死だと?」


「不思議だよなー。この村に治癒術師なんて居ないだろ?」


「……アル、俺が駆け付けた時の状況はこうだ」


 子供達の報告を聞いた自警団二人がちびっこ共を連れて村へ避難してきた。ちっこいのを逃がす為に残ったであろう俺を救出する為集まったが、自警団が「もしかしたら大丈夫かもしれない」とヘタレて、見るに見かねたレオンハルトが飛び出したらしい。


 そして、ゴンドラを降りて見た先には、ネフェリに膝枕されてすやすや眠る俺の姿があったそうな。


「うーん。顔の形も変わってないし、肩もちゃんと上がる。見掛けによらず凄腕の魔法師なのかもなー」


「でだなアル。今、村ではあのネフェリって娘を追い出す方針で固まりつつある。ロックゴーレムがこんな村に出るのはおかしい。あの娘が原因だって、長老衆が騒いでやがる」


「あー。まぁ、その流れになるよな、やっぱ」


 本来出る筈のない魔物の出現、ネフェリの登場。前後関係だけ見れば、なんらかの関与がある筈だと思ってもしょうがない。


 でも、


「そいつぁ、ちっと早計だねぇ」


「何処へ行く?」


「ちょいと、じっさま方のところにお話をしに行くだけだよ」


「無駄だと思うぞ? あいつ等は頭が固い。思い込んだら真っ直ぐだ」


「だからといって、声を挙げずに諦めたら状況は動かんよ? それに、無駄だからと、高らかに叫んでは行けないってのはさ、しょうがないじゃ済まんのよ」


 訴えるべき事はきちんと訴える。言うべき事は言っておくべきだ。でなければ、後悔すると知っている。

 復讐する者の教訓、その1ってね。


 引き留めるレオンハルトの肩を、何時の間にやって来たのか、親父さんが掴んだ。


 長年に渡って鍛え上げられた腕は太く発達している。あれで殴られたら岩男も無事じゃ済まないだろう。そんな職人の手は、優しく次代の肩を引き留めている。


「行かせてやれ、レオンハルト」


「親父……」


「話は聞いていた。あの嬢ちゃんがアル坊の恩人だってんなら、尚更引き留めるんじゃねぇや」


「けど、あのじじぃ共がアルの言葉を呑む代わりにどんな無茶を言うか分からないだろ! 忘れたのかよ!? アルの親父さんだって、それで――っ!」


 食って掛かっていたレオンハルトは、何かに怯えるように口を閉ざした。何故か恐る恐るこちらを窺って来るけれど、別にもう、なんともないさ。


 そんな俺の微笑みから何を取ったのか、レオンハルトは下唇を噛んだ。


「悪い、失言だった」


「ほほう? 何時も暴言ばかり吐くレオンハルトくんが随分と弱気ですなぁ? んん?」


「うるせっ」


 軽く煽っても、レオンハルトはそんな反応。親父さんが彼の橙色の髪を一撫ですると、レオンハルトは親父さんの手を振り払い、奥へと引っ込んでしまった。


「済まねぇな、アル坊。あの子も難しい年頃なんだ」


「まぁ、あいつの気持ちも分からなくはないんで。しょうがないかと」


 実際、あの老獪なじっさま連中を相手にするのは骨が折れるのだから。ある意味では、村の事を一番に考えている。その結果が悪い印象ばかりで、住民には煙たがられているけれど、じっさま方が居なければ村は大きく成らなかっただろう。


 そんな、村の利益第一主義のじっさま連中だから、ネフェリを追い出す結論に至る事は予想できてた。


 危険分子は早急かつ迅速に放逐する。

 その方針に異はない。


 けれど、ネフェリに危険はないのだ。


「それじゃ、行ってきます、親父さん」


「おう、健闘を祈る、アル坊」


 何処か懐かしさを感じるやり取りにほっこりしながら、アルバート宅を後にした。


 長老衆は一日の殆どを集会所で過ごしている。


 上等に造られた立派な平屋は、雨にも負けず風にも負けず、相当の年季が入っている。年季が入りすぎて、子供達が怯えて近寄らない程だ。


 そんな不気味さ溢れる平屋の敷居を跨ぎ、中に入ると待っていたとばかりにじっさま方が集まっていた。


「よぉ、アルバート。お前なら来ると思ってたぜ」


 煙管を吹かし、自警団を震え上がらせる眼光で歓迎してくれるのはこの村一番の年長者。そんな彼には村長すらも頭が上がらない。


 年老いてちっこく成りながらも、何処か覇気を纏った佇まいはげに恐ろしい。胡座をかきながら射殺す様な視線は止めて頂きたい。


「どうせ、あの娘っ子を追い出すな、証拠を探してくる。てぇところだろうが、これはもう終わっている。決定事項だ、寝坊したな? 坊主」


 何処か得意気に言って見せるじっさま。

 その笑い方はよく知っている。

 俺がどう覆すのか、楽しみに待っているのだ。


 ならば早速カードを切らせてもらおう。


「いいや早計だねじっさま方。どうせあの娘の姿を見て、悪魔の様だとか、災いを運んできたとか思ってんでしょう?」


「その通りだとも」「あの姿はまさに悪魔じゃ」「嗚呼、恐ろしい恐ろしい」「あの娘が安全だと何故言い切れる?」「そうとも、自警団の報告では殺しても死ななかったそうじゃないか」「呪いじゃ、祟りじゃあ」「災いの子じゃあ」


 騒ぎ立てる長老衆を、じっさまは片手を上げるだけで制する。彼等も、誰が頭目かよく分かっているのだ。


 個人的には、じっさまよりも長老衆を相手にする方が気が楽なのだが、このたぬきじじいがそんな楽をさせてくれる筈がない。


「じっさま方の知っての通り。あの娘は死なない。きっと頭を吹っ飛ばしても死なんでしょうな。そんな彼女を追い出して、恨みを買わないとお思いで?」


「ほう? 脅しか?」


「ただのジャブですよ、じっさま。勿論、そんな可能性既に想定済みでしょうよ。そして、真っ先にその矛先が向かうのは最初にあの娘を追い出した東の国だとあなた達は理解している。だから安心して追い出せるんだ」


 言葉が詰まらない様に唇を湿らせる。

 ここからが本題だ。


「見ての通り、今の俺は五体満足の元気ゴリゴリマンです。さあ、何故でしょう? ロックゴーレムとの戦いで瀕死の重傷を負ったこの身は、何故こうも活力にみなぎっているのか、お分かりですか?」


「お主が戦士だからじゃろ」「いやいや、今瀕死と言いましたぞ?」「はて、戦士の技能に自己治癒は有ったかの?」「いいえ、ありませんぞ」「では何故?」「偽りでは?」「この生意気小僧が嘘を言う筈がないだろう」


 これまでの実績から、それ相応の信頼を得ているお陰か、出任せである可能性は真っ先に切り捨てられた。伊達に長老衆の我が儘に付き合ってはいない。


 そんな中で、これでもかと貫禄の覇気を当ててくるのがじっさまである。


「娘っ子が治した。そう言いてぇんだな? 坊主」


「流石はじっさま。そいじゃついでにこれをご覧あれ」


 と言って、ステータスを一部開示する。


 宙に投影されたステータス欄は本人の意思で、誰に見せるかを決定できる。流石に全てを見せる事は出来ないけれど、一部を見せるだけならば余裕だ。


 名前:アルバート。

 種族:人間。

 職業:見習い戦士レベル3(適性値D)。

 体力:G。

 魔力:G(S+)。

 攻撃力:G。

 防御力:G。

 敏捷:G(補整敏捷なし)。


 称号。

 復讐する者。

 家族を喪いし者。

 レオンハルトの親友。

 ネフェリとの絆(レベル1 補整魔力S+)。


 開示されたステータス欄に、長老衆は動揺した。


 魔力の項目にあるS+の補整は見逃せまい。


 じっさまは煙管を吹かして、熟考するように目を閉じて、そして、


「成る程な。ネフェリとの絆っつー称号があれば、この村から魔法師を輩出出来るかもしんねぇなぁ」


「そうなれば、この村も注目を浴びるでしょうね」


「そんで他所から人が移民してくるっつー寸法だ。面白いカード切って来やがる。良いぜ。待ってやるよ。三日だ。三日で探ってこい。でなきゃ魔物を発生させるかもしれねぇ娘っ子を村に置いておく訳にはいかねぇぜ? リスクが大きすぎらぁ」


 じっさまは満足そうに唇の端を吊り上げる。


 どうやら合格ラインを越えられたようだ。


 こちらが提示するメリットは全て出した。ネフェリの治癒魔法、称号による魔力の補整、それによる魔法師の可能性。


 三つ目に関しては殆ど賭けでしかない。

 上手くネフェリとの絆を獲得出来るのかもはっきりと分かっていない状況での詭弁だ。

 じっさまは当然見抜いているだろう。

 検証する暇が無かった事ぐらい察しがつく。

 見逃されたのだ。


 過度の緊張による発汗で、前髪か額にぺたりと張り付いた。


 集会所から出て風に当たると物凄く気持ちいい。


 とはいえのんびりもしてられない。与えられた時間はたったの三日なのだから。


「ほらやっぱり! 無茶を言われてんじゃねぇか!」


 レオンハルトに革鎧を注文するついでに結果を報告したら、唾を飛ばしながら怒鳴られた。

 飛んできた唾をすっと避けながら、適当な武器を見繕う。


「うーん。やっぱ戦棍(メイス)かねぇー。戦鎚でもいいけど、好み的に戦棍よなー」


 朝理不尽に怒られた通り、剣は壊れた。革鎧も裂けていたりひしゃげていたりで大破している。色々と新調しなければならなかった。


「あ! レオンハルト、預けてた金ってまだ足りてる? 今すかんぴんなんだけどさ」


「あぁあぁ! 足りてるよお! 足りてるともさ! 腐る程な!」


 魔物の素材を売った時など、纏まった資金が手に入る度にどうせ有るだけ使ってしまうからと、レオンハルトに預けている。具体的な数字は把握してないけど、この反応からして金庫の大部分を占めている事だろう。済まんな。


 伊達に「ウチを銀行代わりにすんじゃねぇよくそが」と罵倒されていない。

 ちゃんと手数料を払っている分、罵倒の鋭さが増している。

 うちは鍛冶屋であって銀行じゃねぇという怒気がひしひしと伝わってくるようだ。


「そんならさぁ、その屑鉄箱の中身全部溶かして戦棍にしてくんない? 重さと頑丈さが有れば良いから」


「バカ野郎! 鉄だけじゃ強度が足りねぇだろうが! そういうのは混ぜんだよ、合金にすんだよ!」


「えぇー、じゃあどうしよう。岩男硬いんだよなー」


「ツルハシで十分だろボケ!」


「棍棒カテゴリーから外れるので却下」


 形状的に鎌のカテゴリーだろうか? それとも鶴嘴?

 因みに戦鎚は硬いものを振り回して叩くという意味合いで棍棒にカテゴライズされている。

 多分、俺が鎚として正しい使い方をしていないからだと思われる。


 ところで、


「先端の鉄球に棘を生やしたモーニングスターなる物が凄く興味深いのだが」


「つくんねぇぞ」


「主に作るのは親父さんだろ?」


「気持ちの問題だくそ野郎!」


 かくして、廃坑探索の準備は昼から始まり、日を跨ぐ直前に終わった。


 基本的な装備は変わらず、武器が剣から戦棍に、そして新たに小盾が加わった。戦棍を両手で扱う都合、盾は小さく、そして腕にくくりつける形である。取っ手はない。


 撲殺する事に特化した戦棍は、実に俺好みである。


 名前:アルバート。

 種族:人間。

 職業:見習い戦士レベル3(適性値D)。

 体力:G。

 魔力:G(S+)。

 攻撃力:G(武器攻撃力C)。

 防御力:G(部分防御力E-)。

 敏捷:G(補整敏捷なし)。


 熟練度。

 棍棒:B。

 剣:E+。

 盾:D-。

 槍:F-。

 弓:E-。

 両手:C+。


 技能熟練度。

 強撃(スマッシュ):D(ジョブレベル1)。

 強靭:B-(ジョブレベル2 常時発動)。

 筋力増加:G(ジョブレベル3 常時発動)。


 称号。

 復讐する者。

 家族を喪いし者。

 レオンハルトの親友。

 ネフェリとの絆(レベル1 補整魔力S+)。


 それじゃ、行きますか。

 newとか、→は、メンドイ。

 きょ、強靭のBとD間違えてた(超小声+震え声)。

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