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この科目苦手なんだよー、とか言いながら得意科目と似たり寄ったりな成績を出す人居るよね。

 魔物なんていう生き物が居るこの世界では、町や村といった規模の団体は決まって一日で行き来出来る距離に造るという制約がある。

 基本的には、都市の近くに町か村。町の近くに村、といった塩梅だ。都市が増えれば町が造れる。町が増えれば村が造れる。

 お国としても、都市や町が増える事は歓迎すべき事だろう。


 道も整備されているし、街灯には魔物避けの効果がある。そうした安全の確保は最優先事項なのだ。


「寧ろ不思議なのが、最寄りの町から二・三日の距離に村を造る意味が分からない。魔物に滅ぼされたら領地の収入が減るんだぞ? また造れば良いって考えは暴論だし、村人の立場から見ても勘弁して欲しい」


「んー。世界が違えば理論も違う、って事でひとつ」


「少年の言う通信機器って代物も、無くはないんだがな。量産出来てない上に素材が稀少で重要拠点以外には支給されないそうだ。だから距離を近くして報告や救援をしやすくしてるんだし」


「そうなんだ。じゃあそういう技能持ってる人は重宝されてるんだろうね」


「あー、居ればな」


「居ないの?」


「正確にはそこまで技能を高められる人が稀なんだ。さっき言った通信道具も過去の天才が造り上げた物を模倣してるだけで、理解して使ってる訳じゃないとは思う」


「熟練度不足……。なんでこの世界はゲームっぽいんだろう」


「なんだったかなー。確か、前の人類がスゲーだらしなかったから、二の舞にならないよう神様が分かりやすくしたらしい」


「前の人類?」


「だから熟練度だの、適性値だのはただの目安なんだよ。自分が何に適しているかを分かりやすくしてるだけって話し。……まぁ、それでも適してない方向へ突っ走るバカも居るけどな」


 例えば俺とか。


 現在、ミュレリッツまでの道を歩きながら、自称『別世界の人間』の少年にこの世界の事を説明している。うろ覚えだったり、そもそもそんなもん知らねぇよだったりで、ざっくりとしか教えられていないが。

 それでも、子供が親から教わる程度の知識は俺も持っている。


 少年の世界の話をちょこっとだけ聞いてみたが、さっぱり理解不能だった。謎技術である。揚力ってなんだよ。


 それと、意外な事に、少年は体力のある少年だった。歩幅の差で、少年は常時早足だというのに、未だに疲れが見えない。けろりとした顔で着いてくる。休憩したいとか言い出したら置いていく目論見が見事に外れてしまった。


 色々な技能を持ってるとか言ってたから、パッシブ系で何かしら体力に繋がるものを持っているに違いない。だって息ひとつ上がってないもん。


 パッシブ、これも魔力が体に作用している結果に過ぎない。ならどうにか制御できるはず。という理屈で研究しているところもあるらしい。実際、原理のよく分からないパッシブ系が人の操れるものとなったら魅力的だが、同時に怖くもある。


 技能という枠内から枠外へ。


 それは、少年の言うところの、一人で外国に放り出される不安と似通っている。


 神によって保証された力を、個人で制御しなければならない。たったこれだけの事実に、言い様のない恐怖を覚えてしまうのだ。


「ん?」


 少年と競うように歩き、予定よりも早く村へ到着しそうだと感じていると、近くの森から逃げてきたのか一匹の兎が街道に飛び込んできた。

 額から立派な角を生やした一角兎という魔物だ。


「何あの可愛いの」


「一角兎だ。価値は低いけど額の角が金になる。粉末にしてなんかに使うんだと」


「へー」


 と、生返事をしながら少年はおもむろに手を掲げ、火の球を放った。咄嗟に急加速(クイックダッシュ)で火の球に追い付き、戦棍を抜くついでに強撃(スマッシュ)で打ち払う。


「可愛いとか言いながら殺そうとするんかい」


「だって、俺、一文無しだもん」


「ムスっとしながら言われてもなー」


 頭を掻きながら兎を見る。幸いな事に、驚いて逃げてはいない。


「ちっこいのは苦手なんだよ。すばしっこいから」


 背負った荷物を放り投げて、兎に向かって猛然と迫る。今度こそ兎は驚き、跳び跳ねながら逃げ出した。


 街道から外れて平原へ、右へ左へぴょこぴょこぴょこぴょこと跳ね回る。お陰で追い掛けるのも一苦労だ。正直、魔物よりもあーいったちっこいのや野生動物を相手にする方が疲れる。倒して終わりの魔物の、なんと楽な事か。


 一角兎を罠なしで捕獲する上で、気を付けねばならないのは角である。手を伸ばして捕まえた、と確信した瞬間、あいつ等は超速で振り返りその立派な角を突き付けて来るのだ。これだから野生は!


 ジャイアントスライムなんかよりも野犬の方が厄介なんだよクソッタレ!


 という訳で捕獲完了。


 最後っぺの対処は角を掴めば問題ない。来ると分かっていれば当然備える。


「っと、暴れるなこのっ! 角を突き付けてくるな!」


 往生際悪く腕の中で暴れる兎。最終的にひっくり返し、赤子をあやすように揺らしてやると鼻をひくひくさせながら大人しくなった。


 元居た場所からは結構な距離離れてしまっていた。もう少し野生のフェイントに慣れていれば、こんなに離れなかったものを。


「でー? お前は何から逃げてきたんだ?」


 大人しくなった兎を掲げながら聞いてみるが、当然答えなど返ってこない。縄張りから出て来ない一角兎と出会すなんて、ちょっと不吉である。


 子供の小遣い稼ぎから逃げてきたのか、それとも森で何か起こったのか。前者だと良いなー。しばらくは気を付けるとしよう。


 長い距離をうんざりしながら歩けば、ようやく少年と合流である。その顔はムスっとしたままだった。ふと悪戯心が沸き立ち、頬をつつくとぷしゅっと空気が溢れた。


「結局捕まえるならファイヤーボールでも良いじゃん」


「まーなー」


 腕の中の兎を、うりうりと擽っていると額の角がぽろりと落ちた。解放すると、角を無くした一角兎は森へと帰っていった。


 立派な角を少年に投げ渡し、降ろした荷物を背負い直す。


「一角兎の角はこう採るのだよ」


「なんでぇー」


「昔に、角はお守りの意味合いがあってな。乱獲された結果、進化の過程でこうなったとしか言えない。因みにまた生える」


「蜥蜴の尻尾じゃないんだから」


「おー、的確ぅー」


 茶化したら蹴られた。


 整備された街道を外れ、踏み固められた土の道を進む。車輪の痕などでデコボコしていて、ちょっと歩きにくい。この道に入れば、三十分もせずに村へ到着する。


「そういえばさ、なんでおじさんメイス使ってるの? 剣は使わないの?」


「剣なー。剣、というか、刃物全般が苦手なんだよなー。打撃武器ばかり使ってたせいか、ちゃんと刃を立てられない」


「んぅ?」


「あー、つまりだ。目標に対し、切り込む剣の刃が垂直にならないんだ。だから切るってよりは叩く感じになっちまう」


 切らなきゃならない剣に対し、ぶち込むだけで済む戦棍のなんと楽な事か。同じ様な理由で斧も苦手である。岩男を粉砕できるかと思い試しに使っていたのだが、駄目だった。あれなら突き込む槍の方がマシである。


 やたらとレオンハルトが勧めて来るから使っていたが、岩男の一件から完全に戦棍一筋だ。狩りで弓を使うのだが、中々イメージ通りに飛ばずに苦戦している。高すぎたり低すぎたり、そもそも飛距離が足りなかったりと、散々だ。


「ちゃんと両手で振れば問題無いんだが、片手で振り回すからなー、俺」


「魔法は? 魔法は使わないの? 武器振るより楽じゃん」


「人間種の魔力じゃ魔法として発現出来ません。アクセサリーなんかで補う手もあるが、非効率だし、素質の問題もある」


「素質?」


「適性値とも言う。要はあれだ、根本的に人間は魔法師に向いてない。まぁ、向いてないってだけで、成れない訳ではないんだがね」


 魔法師に成ったとしても、基本、使い込めば一定ランクまで上がる技能が上がらなくなるらしい。技能は技術だ。繰り返し使用して熟練度を溜めれる体術である。けれど、魔法となると分野が違うせいか、熟練度の仕様が異なるようだ。


 例えば少年の使う火炎魔法。この技能のランクを上げるには、火炎魔法を理解し研究しなければならない。


 技術を高める技能に対し、魔法は知識を深める事を条件にランクが上がる。


 摩訶不思議現象である魔法を理解できる人間は、間違いなく変人に違いない。


 とは言え、最近では魔法の修得が必須と成りつつある社会である。文化レベルが上がれば、求められるスキルも上がる。当然の真理はなんとも悲しい。


「戦士と魔法師の枠組みとは、うごごごごご」


「ただの目安ですな」


 何度も言うが、熟練度は目安である。職業なども、分かりやすくしているに過ぎない。実のところ、言葉による明確な区別は存在しないのだ。


 なので、戦士である俺が魔法を修得しても不思議はないのだが、修得出来るかと言われると怪しいところだ。適性値は伊達じゃない。


 適性値Dである俺が、だからと言って魔法師の適性値が高い道理はない。ぶっちゃけてしまえば、そんな事を本気で宣うお人が居るならこう言いたい。バカじゃねぇの?


「うっ……ひどい」


「少年の言葉を借りると、ゲームっぽいけど現実なんだよ。死んだら生き返らない。灰になっても復活しない。壁に埋まればゲームオーバーだ。自然を軽視すれば、人は生きられない」


「さっきの兎の事?」


「まぁ、一角兎はよく狩るんだがなー。村の土産にしても良かったんだが、絶対必要って訳じゃなかったし」


「えー、もう、難しいよ」


「要はあれだ。

 ――不必要なものは削ぎ落とせば良いんだよ」


 話ながら歩いていると、時間というものはあっという間に過ぎ去るらしい。気が付けば結構な距離を歩いており、村はもう目と鼻の先だった。


 所用で町へ行く事もあったが、それでも日帰りや一泊程度だ。俺にとって、今回は長期間と言って良い程には村から放れていた。


 そのせいか、ミュレリッツの村が少し懐かしく、そして、憎悪で胸が焼けるようだった。しばらく感じていなかったから、物凄く心地好い。自分が空っぽじゃ無くなるような、不思議な充足感が胸を満たした。


 消えていた復讐心に火が灯るようだ。


「ふっがあッ!」


「ごっふぉ!?」


 と、俺が内心で歓喜に打ち震えていると、村を覆う柵の陰からネフェリがタックルを仕掛けてきた。流石に避けられず、腹に受ける。二本の角がとてつもなく痛い。《鉄壁》のお陰で刺さっていなくても痛いものは痛い。何がと言うと、タックルの衝撃が角に集中するから内臓を掻き回されるようである。


 そのまま押し倒され、胸ぐらを掴まれた。そして「ふっが! ふっが!」と揺さぶられる。


 ネフェリが荒ぶって居られる。いやまぁ、予定よりも長く町に滞在していたせいなのだが。


「ふがぁあああああッ!」


「流石の俺でも死ぬような怪我は負いませんよネフェリさん」


「ふがぁんっ?」


「あ、信用ない。そうですか」


 どうやら鉄男によって土手っ腹に孔を開けられた当初を鮮明に覚えているらしい。目覚めてからも何度か同程度かそれ以下の負傷を繰り返した積み重ねのせいか、ネフェリに要らぬ心配をさせてしまったようだ。


 済まんなネフェリ。雑魚は体張らなきゃやってられないんだ。


 ……実のところ、ネフェリが治してくれる事を前提に戦う頻度が上がっていたりする。これからは少し自重しよう。脳がちょっと吹き飛んでた時は本当に悪いと思ってる。


 更に言うと、ジャイアントスライムの時も腕が溶ける前提で攻撃しようかと迷った末の逃走だったりする。応急処置だけして後で治してもらう予定もあるにはあった。


 俺の「無茶しない」という言葉の説得力が地平を抉る勢いだ。


「ふがぁ……」


 気が済んだのか、ネフェリは額を俺の胸へと押し付けた。その位置は心臓がある場所で、ちゃんと動いているかを確かめるようである。


 彼女の頭に手を置いて、一撫でする。


「大丈夫だ。ちゃんと生きてるから」


「ふが……」


 それからしばらく、ネフェリはぴったりと張り付いたまま離れてくれなかった。

 色々説明会。何故なら、後々とある魔法を使う戦士が出るから。メンドイ。

 因みに主人公くんの事じゃないよ。まだ。

 と言うかだね、そういう戦闘スタイルにしたいからこそのネフェリなのに、そこまでの道筋を考えてないってどういう事なのかね。見切り発車って怖いわ。楽だけど怖いわ。

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