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EX武器とか、チート多用してるとPSが落ちまくるよね、って話し。悪魔猫で後悔した人です。

「スライムの変異種、ジャイアントスライムですね、それは」


 少年にトラウマを克服させようと、意気揚々と出掛けた先で巨大なスライムに遭遇し、これは無理だと遁走した俺達は冒険者ギルドへと駆け込んでいた。

 取り敢えず、最寄りの森林にあんなのが居たと報告し、後は丸投げを決め込むつもりである。あんなん、見習い戦士の俺じゃ手も足も出ません。

 唯一の手段として、貫通武器である槍で戦えば勝算は多少なりとも出てくるだろう。スライムの粘液はコアを守る防御であると同時に、攻撃手段でもある。反撃カウンターで槍を突っ込めば、コアだけを破壊出来るかもしれない。

 とは言え、この仮説には一つ穴があって、多分、コアに届くか届かないかの時点で槍が溶けると思うんだ。

 強撃スマッシュで武器の耐久力を補強しても、所詮は見習い戦士の初期技能。幾ら熟練度を高めたところで高が知れている。


 あれの相手をするには、相当特殊な武器か技能が要る。または素直に戦士に昇格すれば、最低限戦えはするだろう。倒せるかは別問題だ。

 廃坑の件から随分経ち、各武器熟練度もこつこつと上げているのだが、一向にレベルが上がる気配はない。悲しき適性値Dの運命。レオンハルトは既に見習いを卒業していると言うのに、この体たらく。嫌になるね。


「ギルド任務として発行し、掲載しておきます。人数が揃い次第討伐を開始しますが、お二方は希望されますか?」


「遠慮します」

「スライム怖い」


 受付嬢は苦笑した。


 冒険者ギルドを後にして、ほっと安堵する。

 実のところ、遭遇したから、発見したから、目撃したから、という理由で同行を強制されないかと内心ひやひやしていた俺である。手も足も出ないと分かっている相手の前に、無理矢理連行されるとか罰ゲーム以外の何物でもない。ごめん被る。


「はぁ。異世界転生だからって、舞い上がってたのかな、俺」


「ん? まだその設定続いてたのか」


「だから設定じゃないってば。……もういいけど」


「やけにあっさり引き下がるんだな。拘ってそうだったのに」


「だってさ、創作の主人公ポジションだと思ってたんだよ俺は。なのに、直面するのはどれもこれも厳しい現実。鑑定したら変態扱い。始めての仲間は全滅。リベンジ行って逃走。踏んだり蹴ったりだ」


「まぁ、往々にして主人公と呼ばれる者共は色々と恵まれていたりしたりしなかったりするからな。物語の正義は必ず勝つようになっているし、悪党には相応の罰が待っている」


 だからこその復讐であり、だからこその罪悪感である。俺は自分が正義の側だとは思わない。どちらかと言えば悪よりだろう。ならば、何時の日か、相応の罰が下る筈だ。それは今日でもいいし、明日でもいい。そう願っていたかつての俺は、もう居ない。

 ネフェリと出逢ってから、心境に変化が起こった。何時でもウェルカムの俺から、彼女が独り立ちするまで待ってほしいと思う俺になっている。これが良い事なのか、悪い事なのかは分からない。分かる事は、迷惑な変化だと言う事だけだ。


 望まない変化、環境の変化、理不尽な変化。


 順応できるかどうかは、少年次第である。


「ぶっちゃけて言えば、少年の人生なんてどうでもいい訳なのだけれど」


「ひどいなー」


「人生相談には乗ってやる、悩みがあるなら聞いてやる、意見が欲しけりゃくれてやる。けど、どう行動し、どう決定するかは少年、キミ自身なのだよ」


「……」


「聞こうか、少年。キミは今どうしたい? 何が欲しい? 取り繕わずに、正直に答えよ」


 少年は、逡巡するように唇を開閉し、俯き、本心を語る事に慣れていないのか、恥ずかしさに頬を紅潮させた。


「また、玉子焼き、が食べたい、な。それと、それと、さ……。人の温かさ、て言うのかな、安心でもいいんだけど、おじさんはさ、なんて言うか、怖くないんだ。知らない人しか居ないこの世界で、怖くなくて、一緒に居るとさ、安心出来るんだ。心が、落ち着くんだ」


 だから、と少年は続ける。ありったけの思いを込めて、続く言葉を紡いだ。


「おじさん家の子になりたい」


「自立しよ、少年」


「うぅー! なにさなにさ! 今の流れは「ああ、分かった」って頷くところでしょうが!」


「知らんがな。こちとらネフェリの養育で一杯一杯なんだよ。分かるか? 教える立場なのにネフェリの方が賢い悲しみ、分かるか?」


「んじゃ良いじゃん! 多分おじさんよりも賢いぞ俺。転生者嘗めんな、ガバガバ知識で内政チートだって出来るんだぞ! この世界辛すぎてへヴィーだけどなっ! 小学生の中に中学生設定が良かった!」


「あ? それ何語? エルツヘルム語で頼む」


「日本語だよ!」


 聞かない言語だ。


 今日はもう帰れないので、もう一泊する事になった。無理をすれば深夜の内に村へと着くが、出来れば出迎えが欲しい。確実にぷんすか起こっているだろうけど、玄関を開けて何もないっていうのは、とても寂しく思う。


「…………」


 この変化をじっさまに教えたら、きっと喜ぶだろうな。俺を「死人の様だ」と評したじっさまだからこそ、この迷惑な変化を嬉しく思う筈だ。

 ネフェリが来る前を思い返すと、なんとも寂しく生きていたものだ。長老衆の難題をこなして、チビ共に親しまれて、レオンハルトに絡んで、村の者達からは遠巻きにされていた。


 結局、これはただの同情なのだろうか。

 右も左も分からず、見ず知らずの俺にさえ己の弱さを見せてしまう少年を、哀れんでいるだけなのだろうか。


 好物らしき玉子焼きを作ってやったり、トラウマ克服に付き合ったりと、世話を焼いているのは何故なのか。


 適当に買った串焼きを頬張り、立ち止まって空を仰ぎ見る。日は既に傾いており、鮮やかな色から段々と暗くなってきていた。横を歩く少年も、唐突に立ち止まった俺に気が付いて、数歩先で不思議そうに振り返る。


「……少年、ようやく喉のつっかえが取れたぞ」


「マモルね。何か悩んでたの?」


「うん、なんで俺、少年に世話焼いてたんだろうなって」


「お人好しだからじゃない?」


「済まんが、俺は自分の事を打算的な人間だと思ってるから、それはない」


「んん? でもつっかえは取れたんでしょ?」


「あぁ、取れた」


「なんだったの?」


「無かった」


「はい?」


「無かったんだよ、理由が。特に理由もなく少年に世話を焼いてたんだよ、俺」


「そうなの?」


「そうだったんだよ」


「そうなの」


「そうだったんだよ」


 という訳で、少年に向かってサムズアップした。


「詰め所行こっか、少年」


「ねぇ、すっきりした途端に突き出そうとしないでくれる?」


「少年、性犯罪は駄目だよ」


「待って欲しい。鑑定って性犯罪なの? 性犯罪の部類なの?」


「子を持つ親なら多分真っ先に教えるんじゃないか? 他人にステータスを見せちゃいけません。将来を誓い合った相手だけにしなさい、て」


「成る程、これが異世界か。常識が違う!」


「え? ステータスを見せ合う地域があるの? ちょっと教えてくれる。絶対近寄らないから」


「日本だよ! ねぇ、聞きたいんだけどさ、無断で鑑定するってさ、性犯罪のレベルで言うとどのくらいの位置なの? 教えて」


「どのくらいってお前、無断で鑑定するくらい」


「前後! または類似!」


「強姦くらいかなー」


「想像以上にとんでもなかった!?」


「駄目だぞー、無断で鑑定しちゃあ。相手にもバレるんだから」


「あ、バレるんだ。確かに鑑定した瞬間に何故かバレたけど、分かるんだ」


「視界の端にな、鑑定されてる事と誰が鑑定してるかも表示されるからバレバレなんだなーこれが」


「……待って待って。俺、ギルドに登録したんだけど」


「うん」


「本名で登録したんだけど」


「うん」


「問い合わせられたらバレるよね?」


「間違いなくバレるな。少年の明日は暗い」


「どうしよう!? ねぇおじさんどうしようっ!?」


「おじさんは知りません。自分でどうにか生きてください。俺はなんの関係もありません」


「色んな人に一緒に居るところ見られてるんだからなー! 道ずれにしてやるんだからなー!」


「鑑定してやるぞって脅されてたんです。本当はやりたくなかったんです。っで乗り切る」


「くそぅ、くそぅ。鑑定魔の立場が弱い!」


「突き出されるのが嫌ならさ、少年。責任取るしかないじゃないか」


「責任!? なんの責任!? 結婚しろと!?」


「わーお、ビックリな飛躍だー。ではなく、謝罪しに行けば?」


「……え?」


「だから、誠心誠意の謝罪。相手を深く傷付けた訳だから許されるかは知らんけど、やらかした後もなぁなぁで流す方が最低だぞ少年」


「…………おじさん、俺、その答えが出てこないくらいにパニクってたよ」


「おう。面白そうだから付いて行ってやる」


「おじさん、割りと素直じゃないよね」


「さーて、果たして少年はビンタされるのか、それとも殴られるのか」


「あっ! この人マジで楽しむ気だ!? ただの野次馬になる気満々マンだ!?」


「おら、さっさと行くぞ。どこの誰だ? やらかしたのは」


「引っ張らないで! 今俺めちゃ緊張してるからあ! これ以上無いくらいに心臓ばくばくだからあ! 吐きそう……」


 冗談じゃなく顔色を悪くした少年を休ませてから、件の謝罪案件の元まで案内してもらった。


 少年はガチガチに緊張していて、言葉も噛みまくり誰が見ても不安で一杯である事がよく分かった。そのお陰か、妙齢の婦人は色んな物を飲み込んで少年を許した。


 歳の割りに幼い顔立ちと、俺のフォローも忘れてもらっては困るが、妙齢の婦人は町の警邏隊へ訴えを取り消すと約束してくれた。


 その際、東区で花屋を経営している事を告げられ、何か贈り物をする時にでも良ければ買いに来て、と営業をされたが、些細な事である。


 ここ数日世話になっている酒場兼宿屋でも、少年の震えは止まらず箸すらまともに握れていなかった。彼が落ち着きを取り戻したのは銭湯でさっぱりした後である。


「うぅ、ようやく落ち着いてきたよ」


「色々大丈夫か、少年」


 ベッドの縁で項垂れる少年に、椅子に座りながら声を掛けた。


「マモルね。俺さ、緊張する事は何度もあったけど、こんなに手が震えたのは初めてだよ。人って、不安で一杯になるとホントに震えるんだね」


「そうなのか」


「おじさんはないの? 自分の体なのに勝手に動く事って」


「……どうだろうな」


 俺の場合は、体がどれだけ悲鳴をあげようと、無理矢理に酷使している。指先が少しでも動くのなら、執念と妄執で立ち上がって来た。


 気合いと根性なんて、体の良い言葉に置き換えているけれど、死を望んでいる身には丁度良い。


「これまでは無いが、これからは有るかもな」


「あ、遠回しな逃げだ」


「実際、その時になってみないと分からないしな」


「んー、じゃあ、この世界ならそうだな。おじさんの大切な人がさ、魔物に殺されそうになってたら、または殺されたら、どうする?」


 少年の問いに、天井を仰ぎ見て唸る。


「前者なら助けようと動く」


「殺されたら?」


「残念に思う」


「……それだけ?」


「それだけ。少年からしたら、これまでの俺は何かと世話を焼く人なんだろうけどさ、中身は空っぽなのさ。……あの日に、全部おっとこしてきた」


 喩え、ネフェリが目の前で死んだとしても、俺の感情は揺り動かないだろう。


「歪んでるだろ? 分かってるのさ、俺は。自覚してるんだ、俺は。だから、出来る限り、誰も死なせないのだよ、少年」


 誰が死のうとどうでも良いけれど、それはそれで惜しく思うので、出来る限りは頑張るようにしている。


 自覚している。理解している。だからこそ、生きている命を大切にしたい。


「……何その、歪んだけど一周回って真っ直ぐになったみたいなの」


「お、それだ。歪んでるけど真っ直ぐ。良い表現だ少年」


「マモルね。そこ褒められてもなー」


「良いではないか、良いではないかー。それで、結局どうするんだい? 独り立ちするのかい?」


「しない、このままおじさんに寄生してやる。……少なくとも、この難易度ルナティックな世界に慣れるまでは」


「そうか。もう寝るぞ、少年。明日は半日歩き通しだ」


「えぇー、やだぁー。あっ! そうだおじさん! 俺の空間魔法なら一瞬だ! 歩かなくて済む!」


「少年村の場所知らないだろ?」


「目に見える範囲なら問題なし! ショートムーブを繰り返す方が歩くよりも楽!」


「……あ、なら町に来る時は馬車とか必要無くなるか」


「ふっ。おじさん、俺は便利だよ?」


「わーお、少年便利ー」


「でっしょー? という訳で、おじさん家の子になる」


「まぁ、歩くけど」


「何故!?」


「いやなんか、その方法採用してると体力落ちそうだし、筋肉増やしたいし」


「……それ以上ガチムチになってどうするんよおじさん」


「素手で岩を砕きたいお年頃?」


「ウィンクしないで、気持ち悪い」


「酷いなー」

 人が増えると会話が増える。五千字書いても内容が薄味になって段々と文字数が増えて一万とかになる未来が見えて、メンドイ。

 そして「鑑定魔」とか言う謎ワード。半月前の俺は何を考えてたのかサッパリ分からん。

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