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アンドロメダと天の川  作者: 津辻真咲
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非公式警備屋 ~アンドロメダ側の機械たち~

9.非公式警備屋 ~アンドロメダ側の機械たち~



二人は、目の前の巨大な高層ビル群に驚いた。青色に発光するそれらは、時計回りにねじれていた。

「入館を許可します」

ゲート前のセキュリティ・システムがアナウンスをする。すると、ゲートが三人と一人の後ろで、ゆっくりと閉まった。すると、足音が聞こえてきた。

三人は、こちらへ向かって来る足音に振り向いた。

「おーい、黙人!! こっちこっち!!」

その人物は、遠くから手を振る。

「あ、今行く!! さ、こちらです」

黙人は振り返って、二人をその人物の所へ案内した。

「メール見たよ。大変だったな」

その彼は微笑む。

「ありがとう」

そんな彼に、黙人は周囲にはあまり分からない程度に微笑み返した。

「改めまして。僕は〈非公式警備屋〉のリーテ・ィュといいます。よろしく!!」

人一倍パワフルな彼は敬礼をして、笑顔を見せた。

「よろしく」

諒はいつも通り、いたって冷静に挨拶を交わした。

「では早速、僕の個人事務所へ来て下さい。そこなら、ひとまず警察機械たちからは隠れられるはずです。さぁ、行きましょう!!」

リーテ・ィュは思いっきり走り出す。彼は力の加減をコントロール出来ない、少しだけ。



 ……ゥゥゥ。……ゥゥゥ。

「何? この音?」

冬華は、辺りをきょろきょろと見渡す。

「あ、これは、このエリアのコンピュータたちのサーバが、うなる音です」

「コンピュータたちというと?」

冬華が視線をリーテ・ィュの方へよせる。一方、先頭を歩いていた彼は、振り返りはしなかったが、はたから見ていて楽しそうに答える。

「コンピュータたちというのは、昔のなごりだよ」

――昔のなごり?

「昔は、自身の頭脳で、このエリアのシステムを管理していたアンドロメダ生命体の代表がいたんだ。コンピュータたちは、そのサポート役をしていたんだ」

――そうだったんだ。

「ま、10億年前の話だけどね」

――なんと!!

――この宇宙コロニーって、完全機械式なんだ。

「それで、あのー」

リーテ・ィュは冬華たちの方へ振り返り、立ち止まる。

「このビルの最上階のフロアが僕の個人事務所です」

冬華はリーテ・ィュの指さす方を見て驚いた。

「え!? このビルだったんですか?」

時計回りにねじれ、淡い青に発光しているビルがそびえ立っていた。

「あ」

「?」

「今、僕の知り合いの情報屋さんたちからメールが来て……」

リーテ・ィュは、右のこめかみのタッチパネルに触れると、メールの文章を立体映像に表示しようとした。

「何て?」

 黙人は彼を見る。


《警察機械たちが君たちのエリアで、検問を始めました》


――何!?

「急ごう!! こっちです!!」

リーテ・ィュがみんなを急かした。そして、四人はビルの中へ走って入っていった。



トン……。

諒は担いでいたトハクを台へ寝かせる。

――トハク君、大丈夫かな。

冬華はその様子を黙って見ていた。

「電子回路溶液の漏れが酷いんだ。何とかなるか?」

黙人がリーテ・ィュに問う。

「大丈夫。あらかじめメールをもらっていたから、準備はしといたよ」

彼は頼もしく答えた。

――準備?

「もう、そろそろかな?」

リーテ・ィュは、ふと視線を横の机に向ける。

パネルClockが鳴り出す。アラームの電子音が細かく連続しているようだった。

「?」

「来た」

リーテ・ィュはそう呟くと、窓を勢いよく開けた。

―――――――――――。

すると、その窓から高速で何かが入室して来た。

「!?」

冬華と諒はあまりの爆音と風圧に驚いた。

それは、人類側の機械エリアで出会った情報屋、椎出井新作の乗っていた簡易機械とよく似ていた。すると、その簡易機械に乗っている彼は、エンジンをスリープ状態にして爆音を消す。

冬華は突然の事に唖然。しかし、周りはいつも通りの表情。

「お待たせいたしましたぁー!! 情報屋のシロカミ・シカクと申します!!」

〈満面の笑顔〉がキラキラと輝く。そして彼の情報屋としての名刺が舞う。

「よ!! あいかわらずだな」

リーテ・ィュは笑顔で片手をあげる。ハイタッチをしようとしていた。

「おぉ!! 待たせたな!!」

すると、シロカミ・シカクの方は、ウィンクをしてリーテ・ィュとハイタッチをする。

「ところで持ってきたぜ、修理班の専用道具。それと、取扱い説明書」

「ありがとな」

リーテ・ィュは彼に微笑み、みんなに振り返る。

「では、始めましょう」

「ん? 俺も手伝うの?」

シロカミ・シカクは、〈ふよっ〉として問う。

「もちろん」

リーテ・ィュは、きっぱり言う。

「俺、名刺をばら撒かないと依頼主が来ないんだよね」

「そんなのばら撒いたって、すぐ、壁内の簡易清掃機械に持って行かれるよね?」

ぷー。

少しふてくされたシロカミ・シカクは、頬を膨らます。

「いいから、急いで下さい」

黙人は無表情で、ぴしゃりと敬語で言い放った。

「はい」

二人は少し驚き、固まった。

「……」

諒はそんな場面を呆れて見ていた。



カタカタカタカタ……。

タッチパネルを操作する音だけが響いている。

リーテ・ィュが、トハクの人工知能の再建を行っているのだ。その横で、シロカミ・シカクも自身の操作パネルでアシストする。冬華と諒は、彼らの作業をする後ろ姿を見ていた。

冬華は心配そうだ。諒と黙人は、それぞれ黙って壁に寄りかかっている。しかし、心配しているのは冬華だけだった。この世に直せないものなど存在しない。皆は、それを既に分かっているのだ。

カタカタカタカタ……カタ……。

電子音で表現されたタイピングの音が止んだ。

「プログラムの再建は完了した。後は電子回路溶液を補充して彼が目覚めるのを待つだけだ」

シロカミ・シカクは、手伝いでトハクの頭部に電子回路溶液を専用機器で入れていく。

電子音が一回鳴る。電子回路溶液の補充が終わった。

「よし、終わ……」

「大体、一~二時間ぐらいで目を覚ますと思うんだ」

リーテ・ィュは後片付けをしながら、シロカミ・シカクの声を遮り説明した。

「……」

カタカタカタカタ……。

一方、黙人は映像操作パネルで何かを検索していた。

「どうしたんだ?」

諒は黙人の方を見て問う。

「警察のデータにアクセスをしてみたんだ。そうしたら、警察機械の検問が後1分でこのエリアに到着する」

――何!?

「どうするんだよ!!」

シロカミ・シカクも驚く。

「仕方ない。ここを離れよう」

「どうやって?」

リーテ・ィュにシロカミ・シカクが問う。

「情報屋のように、この宇宙コロニーを高速で移動し続けるんだ」

「そっかぁー」

「シロカミ、確かお前、古くなった簡易機械から、最新型へ乗り換えたよな?」

「うん」

「その古い方、ここへ飛ばせるか?」

「あぁ、もちろん」

シロカミ・シカクは、操作パネルを開くと、古い簡易機械を操作して、リーテ・ィュの個人事務所へ飛ばし始めた。

「後、30秒で来るよ!!」

シロカミ・シカクは振り向いて言った。

「ありがとう。お前は先に行け」

「え?」

リーテ・ィュの言葉に、シロカミ・シカクは一瞬戸惑う。

「お前には、最新型がある。それで逃げろ」

「でも、いいのか?」

「警察機械たちはお前のことまで、情報を手に入れてはいない筈だ」

「でも」

「僕たちの事は……」

「操縦出来るの? 簡易機械」

「!?」

皆、唖然。

――こいつ、操縦できなかったのか。

諒は、下を向いて呆れた。

「黙人、お前出来る?」

「出来ない」

彼は、リーテ・ィュの問いにきっぱりと答えた。

――どうするんだよ。

諒、呆れる。

――仕方ねぇな。

「俺が……」

「はい!! 私がやる!!」

諒が名乗りを上げようとしたのと同時に、冬華は笑顔で手を上げた。

「!?」

 ……。

皆、再度唖然。すると。

パネルClockが突然鳴り出す。

「?」

冬華はそちらへ振り返る。

一方、リーテ・ィュは窓を開ける。

―――――――。

すると、旧式の簡易機械が窓から高速で部屋に入ってきた。

――わぁー。

 冬華は、暴風に目をつむる。

旧式の簡易機械は、室内で停止すると出力を落とした。

「さ、みんな乗って!!」

 リーテ・ィュは、皆を先導する。

「操縦は?」

「僕ががんばってみるよ」

シロカミ・シカクに笑顔を見せる、リーテ・ィュ。

「大丈夫?」

「あぁ」

「じゃあ、もう行くよ」

そう言うと、シロカミ・シカクは、自分の簡易機械に乗り、起動させた。そして。

――――――――。

――行っちゃった。

冬華は、開いた窓を見ていた。

「なぁ、リーテ・ィュ。俺……」

「ちょっと、手伝って。」

諒の言葉を遮り、黙人は真顔でぴしゃり……と。

「分かった」

諒は、黙人と共にまだ意識を取り戻さないトハクを、旧式の簡易機械へ乗せた。その横でリーテ・ィュは、対風用ゴーグルを装着していた。

「行くよ!!」

――え?

「出力最大まで、3.2.1.0...」

電子音が数秒、少し長めに鳴る。

――――――――。

旧式の簡易機械は、電子音で出力放出を知らせると、爆音と共に窓からリーテ・ィュの個人事務所を飛び出した。

簡易機械は、彼の操縦により、このエリアにそびえ立つビル群の側壁をギリギリに移動していく。そんな中、後方からサイレンが聞こえてきた。

「もしかして!!」

冬華は振り返る。

「警察機械の検問係です。きっと、もう既に1分経ってしまったのでしょう」

冬華の隣に乗っている黙人が答えた。



「見つけた。絶対逃がさない」

警察機械の班長である濠洲敬治は、遥か前方を見て睨んだ。


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