情報屋
6.情報屋
――思ったより速いな。
諒が考え込む。
「どうしようかな」
冬華が考え込む。
諒は、情報屋を停止させる方法を、そして、冬華は情報屋への差し入れの品を考えていた。
「で、何か案はあるのか?」
諒が冬華へ尋ねる。
「うん。携帯型コードレス充電器」
「仕方ないそれにするか」
――わーい。
冬華はジャンプをする。
携帯型コードレス充電器は身に着けていれば、いろいろな機器や機械、自分が機械だったら自分自身を充電なしで、いつもフルパワーで活動させることができるものである。ちなみに、カード型にも用途がある。
「こうなったら、追いかけるよ!!」
――元気すぎる。
冬華が元気に走り出す。諒はそれに苦笑して、あとを追いかけた。
5分後。時間は無情にも過ぎていく。
「はぁー」
「全然追いつけない」
また、二人には、実行中止のシステムが働いていた。
「こうなったら、待ち伏せ作戦しかないな」
「でもどうやって? ルートなんて分からないような」
冬華は、諒を見た。
「さっきの場所へ戻ろう。そうすれば、必ずまたあの場所を通ると思うんだ」
「うん」
冬華と諒は、その場所へ向かった。
再び、5分後。時間はだんだん過ぎていく。
「どうするの?」
先ほどのゲートの前で再び佇む。
「俺が三次元の壁を作る。それに情報屋が戸惑っている間にお前は情報屋に差し入れをするんだ。それで交渉ができるかもしれない」
「もしダメだったら?」
「どういう事だ?」
諒は、冬華に聞き返した。
「だって、三次元の壁って、立体だから物理的破壊に弱いよね?」
「あぁ」
「もし、三次元がダメだったら、二次元の膜にしよう?」
「そうだな。そうする」
……。
二人は、静かに待つ。
「来た」
二人は身構えた。だんだんエンジン音が大きくなってくる。それに合わせ、諒が壁の操作パネルを一部乗っ取り、三次元の壁を作った。
―――――――――――――――。
轟音が500dbを超える。
「冬華!!」
「分かった」
しかし、三次元の壁が破られた。
――ダメか。
諒は、再び操作パネルを回し、操作する。今度は二次元の膜だ。
―――――――――――――――。
衝突音と共に、情報屋が停止した。ぱさぱさぱさ……と、彼の名刺が舞う。
「まったく、誰だよ。こんな所に膜を張った奴!! いてて……、ん?」
情報屋は二人を見上げた。
情報屋である、このアンドロメダ側の機械の名は、椎出井新作。彼の外見は、ほぼ人類側。一見、若く見えるが、人工知能は50代男性だ。
「あなたが情報屋?」
「あぁ、そうだ」
――こいつが情報屋。
諒は、壁の操作パネルを閉じる。
「これどうぞ」
冬華は笑顔で品物を差し出した。
「ん?」
「差し入れです」
冬華は笑顔を崩さない。
「あぁ、依頼か。分かった。これは?」
「携帯型コードレス充電器です」
冬華は笑顔のまま答える。すると。
「……」
彼は黙ってしまった。
「君たちは、人類側の機械か?」
「はい」
冬華は、いったん沈黙が流れても笑顔を崩さず返事をする。
「それに加えて、侵入者かな?」
「はい」
……。
――あ。
冬華は沈黙の後、気付いた。
「やはり、そうか。こちらのアンドロメダの機械の通貨は〈人類〉でいう〈B〉なのだよ」
ちなみに、人類の機械の通貨は〈電気〉である。
……。
「え!?」
「なに、これがダメだとは言ってないが?」
「そうなの?」
「まぁ出来れば、〈B〉がいいが」
「ありがとうございます!!」
冬華は嬉しそうに頭を下げる。
「?」
彼は、頭を下げてお礼を言う冬華を不思議そうに見てから話し始めた。彼は、日本製でも、人類側の機械でもないから、頭を下げる文化を知らない。
「それで、何を知りたいのかな?」
「アンドロメダ側に強制回収された機械たちの居場所を知りたいんです」
「何!? あんな危険な場所へ行くのか!?」
情報屋はすごく驚いた。機械たちからすると、とても危険な所らしい。
「それは、どういう事ですか?」
諒は、すかさず聞き返す。
「それは、あのR-1 area GATE の先のそのまた ゲートの先にある人類・アンドロメダ生命体のエリアを通らなくてはならなくなる」
そこは人類・アンドロメダ生命体たちが実際、生活をしているエリアである。要するに、警備が厳重であるという事。
「どうしよう」
冬華は少し元気をなくして、考え込んだ。
「それに加え、アンドロメダ側の回収された機械たちのいる〈廃棄待ち置き場〉の唯一の出入り口には、当時の〈ホワイト・ハッカー〉が作った、史上最高峰の人工知能が搭載された鍵がかかっているゲートがある」
「……」
冬華は不安そうな顔をして、諒の方を見つめた。
「大丈夫だ。絶対、助けるんだろ?」
諒は、冬華へ微笑み返す。
「……」
冬華は少し驚いた様子を見せてから、頷いた。
「俺たちは、何をすれば?」
諒は、情報屋の方へ向き直す。
「私の弟子になりなさい」
――え?
「……」
諒は、目を閉じて困る。
「大丈夫だよ。アンドロメダ側のエンジニアリングの技術を教えるだけだから」
情報屋はへらっと、やわらかい笑顔でそう言った。
「よろしくお願いします」
諒は礼儀正しく言うと、情報屋の彼の目をじっと見た。すると、彼は、冬華の方を見る。
「君もか?」
情報屋は、冬華にも弟子入りの意思確認をしたのだった。
「はい」
「そうか」
冬華の笑顔に、情報屋も笑顔で和んでいた。
白い廊下。そこに浮かぶ白い簡易機械。情報屋は、これに乗り高速で移動する。
「それじゃあ、まず、冬華」
「はい」
「高速で移動するから、情報屋の名刺をまいてくれ」
「え?」
「彼にエンジニアリングの方法を教えるから、名刺をまいたり、高速移動したり、する時に使う簡易機械の出力数が足りなくなって、名刺をまけないんだ。だから、よろしく」
「はい」
――そこまで落ち込まなくても。
諒は、雑用係になって落ち込む冬華の様子を見ていた。
「それじゃ、行くぞ」
「はい」
冬華と諒の二人は、情報屋の簡易機械に乗って準備を整えた。
電子音が3回カウントされる。
――――――――。
四つ目の少し高い電子音後、簡易機械は1秒で時速90キロメートルに達する。二人は思わず目を閉じた。
「冬華!! 名刺を!!」
「はい!!」
手のひらから名刺が羽ばたいていく。
――すごい速さ!!
――まいた名刺があっという間に遠くへ……。
「それじゃあ、アンドロメダ側のエンジニアリングについて教える」
「はい」
情報屋の声に諒は、身をひきしめる。
「まず、セキュリティホールを見つけること」
情報屋は、簡易機械のディスプレイに、いろいろな情報を映し出し始めた。
「簡易的な人工知能をいくつか、用意しておく。これは、コンピュータ内を浮遊しながら移動している〈業と作られたバグ〉を相殺させる為だ。その業と作られたバグは自ら新たなバグを作り、ある一定の濃度を保っている。そのバグに捕まれば、エラーを起こし、次へ進めなくなる。これがアンドロメダ側だ」
「……」
「さて、次」
「はい」
「簡易人工知能でバグを相殺するのはいいが、全てのバグを相殺してしまうと、システムがシャットダウンするようにプログラムされている。だから、バグは全て相殺してはいけない」
「はい」
「それから、システムがシャットダウンすると、他ブロックの逆探知機能が活動しだすんだ」
「逆探知?」
諒は、聞き返した。
「そうだ。逆探知機能は各ブロックにあり、逆探知が完了した時点で、侵入者のシステムにウィルスを送り込んでくる。分かったか?」
「はい」
「要するに、バクを全て無くさないようにすればいい、という事かな。アンドロメダ側の守りは、こんな感じだ」
情報屋は、ディスプレイの情報を動かす。
「それから、〈廃棄待ち置き場〉のゲートを守る人工知能の管理を破り、回収された機械たちを助けるには、情報セクターの管理人工知能の二人が使っている中央コンピュータを使う必要がある」
彼は、そう言うと、ディスプレイにいろいろと、宇宙コロニー内の画像や映像、そして、設計図まで映し出した。
……。
「これで、私が君に教えられることは以上だ」
「ありがとうございました」
「がんばれ、な」
「はい」
諒はディスプレイから視線を外し、情報屋の方を見た。
名刺は、まいてもまいても、すぐに壁内清掃機械たちに片付けられてしまう。冬華は、それでも名刺をまいていた。
――いつまで、私はこの作業を?
冬華は、進行方向の方をなんとなく見てみた。すると、壁から大量のコードが出ており、網状になっていた。
「何あれ!?」
冬華が前方を指差すと、情報屋と諒の二人も前を見た。
「あれは一体?」
諒も驚く。
「しまった!! コード屋だ!!」
情報屋は、ハンドルをきりながら叫んだ。