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アンドロメダと天の川  作者: 津辻真咲
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たった数分の逃避行

5.たった数分の逃避行



重力が働いているかのように引き寄せられ、冬華と諒は人類とアンドロメダ生命体の宇宙コロニーの淵へふわりと降り立った。

《ここ宇宙コロニーのどこの位置だろう?》

冬華は辺りを見渡す。この宇宙コロニーは、自身を回転させ、外側への遠心力を重力の代わりにしているという構造である。よって、円盤状のコロニーが数個連なって、連絡柱でつながった円柱状の形をしている。

《とりあえず、宇宙コロニーの中へ入らないとな》

諒は冬華を見て言う。

《うーん。入口かー。どこだろう? ねぇ、諒はどこだと思……》

次の瞬間、諒の左肩が目の前にきた。

《!?》

諒が、冬華を覆うように自身と壁との間に隠したのだった。

《動くな。小型シャトルが宇宙コロニーに帰ってきている》

《!?》

《見つかったら大変だ》

《……》

冬華はしばらく動かずにいた。

《それから、あの小型シャトルを宇宙コロニーが受け入れる時がチャンスだ。中に入れるかもしれない》

《……》

――動けない。

冬華はそれぐらいしか考えてなかった。


二人は小型シャトルをやり過ごすと、宇宙コロニーの淵を走っていく。すると、再び宇宙コロニーの小型シャトル受け入れ口が開口した。二人はその上の方から中を見下ろす。

《誰も気付いていないみたいだよ?》

《よし、それなら天井の支柱をつたって行こう》

《うん、分かった》

冬華は明るく返事をした。

二人は支柱をつたって侵入すると、壁の支柱の陰に着地する。しかし、作戦通りはそこまでだった。

「ん?」

何かが足元で機械音を出している。冬華は足元を見た。すると、円状の掃除ロボットが冬華の足で前に進めていなかった。

――気付かれた!?

「指定エリア、清掃不可。指定エリア、清掃不可」

再び、機械音が響く。

「おい、誰だよ。掃除の邪魔してるの」

声の主が小型シャトルの翼から顔をのぞかせた。

――見つかった!?

彼の名前は真黒疎斗まくろ そと。この人類・アンドロメダ生命体の宇宙コロニーの小型シャトル受け入れ口の清掃係である。左目のすぐ下の頬に二つ、その左目の眉のすぐ上に三つ、そして、右耳に四つ、星座のように、ピアスが付いているのが特徴である。

「……」

――こうなったら、強行突破しか。

 諒はともかく、冬華もそう感じていた。

「君、誰? ここは小型シャトル専用ゲートだよ?」

真黒疎斗は冷静に尋ねる。

「あ。えっと」

冬華は、問いに戸惑う。

「私は、天の川銀河から来た機械なんだ」

仕方がないので、冬華は少しだけ本当の事を話した。

「えっ!? 天の川銀河って、あの天の川銀河? かつて、人類が暮らしていたという、あの銀河系?」

「うん。そうなんだ」

 冬華は、苦笑い。

「すっげー!! 僕、この宇宙コロニー出身だから、〈地球〉の事とかは、資料でしか知らないんだ」

真黒疎斗は目を輝かせた。

――仲良くなってる。

諒はこの状況に少し戸惑う。

「これは?」

そう言うと、冬華は小型シャトルを見上げる。

「あ、これ気になる? これは、僕が清掃を担当しているシャトルたちさ」

シャトルたちは挨拶をした。彼らにも人工知能が搭載されている。

「こんにちは」

「こんにちは」

冬華は元気に笑顔で返した。

「ところで、君たちはどこの担当なの? 僕たち会った事ないよね?」

「えーっと」

冬華は再び困った。

「……」

諒も困った。

「そういえば、さっき僕たちにまで宇宙コロニーの攻撃要請が来たんだよなー。どう思う?」

 ……。

二人が忽然といない。

「あれ?」

二人は、真黒疎斗が小型シャトルで気になった汚れを一拭きしている間に逃走していた。彼は首をかしげた。そんな彼にシャトルたちが言う。

「こちらの宇宙コロニーに侵入されないようにしろって事だったんじゃないのか?」

「あ、なるほど」

「あの二人がそうなのでは?」

「え!?」

 彼は、信じられないというように驚いていた。



冬華と諒は、一面白色の廊下を歩いていく。所々に隙間がある。内壁と内壁のつなぎ目だ。しかし、やわらかい印象を受ける。そのつなぎ目の部分の角が全て曲線で出来ているからだ。

「……」

諒が無言で足を止めた。

「どうしたの?」

冬華がそう言い、振り返る。

「俺たちの探しているアンドロメダの機械たちがどこにいて何をしているのか、という情報を手に入れなくては」

「うーん、それじゃあ……」

―――――――。

冬華の声を遮るように、何かがものすごい迫力で近づいてくる音がした。それを確認しようと、冬華と諒の二人は振り向く。しかし、次の瞬間、二人は逃げ出す。再び、宇宙コロニー内の機械に見つかったからだ。

――逃げないと!!

 二人は、廊下を全力で走る。

「一体何?」

振り向かれた瞬間に、二人に逃げられた機械の彼女、瀬井霜せい そうはきょとんと走り去る二人を見ていた。

彼女は専門に特化した清掃機械。人型ではないが、大多数の人工知能と同じ、周りを観察し、物事を判断できるように設計されている。頭部は少し薄めの直方体で、全面がタッチスクリーン。左端には縦に黒色のライン、左頬にはUSB、SD、microSDの差込口がそれぞれひとつずつ備わっている。下肢は無く、床から浮いて清掃ができるように設計されていた。関節も存在せず、頭部・両肩・両腕・胴体がそれぞれ離れており、空気中で自由自在に動かせるのであった。(=ちなみに、両肩はかなり小さめの立方体。両腕は手先の方を底面とする長めの三角錐である)



「疲れた」

「ねぇ、少し待ってよ」

人工知能には、自由意志の実行中止を促すプログラム、つまり、諦めるという選択肢が組み込まれている。よって、体力の限界というものは無い機械だが、実行中止を選択するプログラムが作動する場合、機械たちは出力が落ち、疲れたと錯覚する。

要するに、より人類に似せられて製作されたという事だ。

「おい、あれ見ろ」

「どうしたの?」

冬華が顔を上げると、R-1 area GATEという巨大なスライド式の扉があった。

「これって、ロボット専用エリアって事?」

冬華は諒の顔を見る。

「今までのエリアがそうだったって事だ」

「それじゃあ、この先も?」

「だろうな」

諒は腕を組み、これからの事を考えた。すると。

「あ、いた!! さっきの二人!!」

「!!」

二人は振り返る。

「まったく、逃げる事ないと思いますが?」

「何の用だ」

瀬井霜の登場に諒は、身構える。

「それは、私の台詞です。あなたたちですね、あの宇宙コロニーからの侵入者は」

――気付かれてる。

「何が目的ですか?」

瀬井霜は、少し二人の顔をのぞき込んできた。

「大丈夫ですよ、理由は何?」

「え?」

冬華と諒は驚いた。

「どうかしましたか? 確保はしないから、安心して?」

その言葉に、冬華は安心して頷いた。


「私たちはアンドロメダ銀河の回収された機械たちを追いかけて天の川銀河の地球から来ました」

「本当? 私も〈人類側の機械〉なの。人型ではないですが」

――人類側?

冬華は、この宇宙コロニーの社会の仕組みを知らない。

「この宇宙コロニーは、天の川銀河太陽系第3惑星地球出身の人類とアンドロメダ銀河M31の惑星系第4惑星円々出身のアンドロメダ生命体が共同して暮らしている所です。そして、このエリアは、人類側の機械たちの働く区域です」

瀬井霜は腕を組んで笑顔を見せた。

「ちなみに回収された機械たちを探しているのですよね?」

「はい」

「それなら、人類やアンドロメダの人々には会わない方がいいでしょう」

「え?」

「さっきの全システムへの攻撃要請は、人類の仕業なので」

「人類が!?」

「人類は、あなたたちの事を歓迎はしていない。気を付けて」

瀬井霜は、再び冬華たちの顔を覗き込んでくる。その目には、冬華が不安そうに映った。すると、彼女はもう一度言った。

「大丈夫。末端の機械たちにも自由意志を持った人工知能が搭載されていますから、条件反射的には襲って来ないと思う。あとは警察機械にだけ気を配れば……、ね?」

「ありがとう」

「いいえ」

瀬井霜と冬華は、笑顔になった。



「で? どうやったら、回収された機械たちに会えるんだ?」

諒が話を切り出した。

「それは、簡単です。情報屋ハッカーに出会えれば、差し入れだけでなんとかしてくれるはず」

「情報屋?」

「でも、ホワイト・ハッカーには気を付けて」

「え? ホワイト・ハッカー?」

冬華は首をかしげる。

「この宇宙コロニーの管理をしている管理人工知能たち。彼女たちは、ここでは最高峰の人工知能。二人で情報セクターから、この宇宙コロニーを管理しています」

「うん。分かった」

冬華は、新たな手掛かりを手に入れて、目を輝かせた。

「あと、それから、情報屋は常に移動しているから、私にも居場所は分からないですね」

「大丈夫です。ありがとう」

「どういたしまして」

冬華の笑顔でのお礼に、瀬井霜も笑顔になった。



R-1 area GATE 前、二人は佇む。

「どうする? 入る?」

 冬華は、尋ねる。

「この先はR-1 area という事は、この先に行けば行くほど、人類やアンドロメダ生命体に出会う可能性が上がるという事だ」

「それじゃあ?」

諒の顔を見る。彼も視線を冬華に合わせる。

「まずはこのフロアから探そう」

「うん」

彼女は元気に返事をした。

「情報屋が常に移動しているって、どういう事かな?」

冬華は諒に尋ねる。

「さぁな」

諒も分からずにいた。

 ……。

「何、この音……」

 ……。

何かエンジン音のような音が、遠くからだんだん近づいてくる。しかし、違和感がある。エンジン音がかなり高音で響いてきている。

冬華と諒の二人は、後ろを振り返る。すると。

―――――――――――――。

爆風と共に、爆音が耳元をかすめる。諒は踏みとどまり、少し床を後方へ流された。が、しかし、冬華は爆風で態勢を崩し、吹き飛ばされた。

「冬華、大丈夫か?」

「うん」

廊下には、情報屋と書かれた名刺の紙ふぶきが舞っている。白い桜のごとく。すると、廊下の壁からは一気に壁内の簡易清掃機械が姿を現し、それを回収し始めた。

「これ、何?」

冬華は、床に散らばっている名刺の一枚を拾う。諒も名刺を拾い、書かれている文字を見た。

「情報屋って書いてあるな」

――という事は。

「あれが情報屋!?」

冬華は驚いて、情報屋が飛び去った方向を見ていた。


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