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アンドロメダと天の川  作者: 津辻真咲
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再会

4.再会



「ワームホール型ワープ開始まで、残り5秒、3、2、1、0」

アナウンスのカウントダウンの後、轟音が響く。

「ワープ完了。ヒッグス粒子減数装置、作動まで、残り5秒、3、2、1、0」

再び、轟音が響いた。しかし、今度は地響きまでも伝わってきた。まるで、地震の初期微動のように宇宙コロニー内が細かく揺れ出す。

「宇宙コロニーが」

冬華が心配する。

――耐えられるのか?

諒が立体映像を見上げる。計算上、耐えられる。しかし、晴嵐凍空の立体映像が揺れる。かなり負担がかかっている。

「あ!! 見えてきた!!」

「あの宇宙コロニーじゃない?」

「え!?」

誰かの声に皆が一斉に一面窓へと視線をやる。とうとう前方に宇宙コロニーを確認したのだった。

――目視できる程まで来たか。

窓へ近づいて行く仲間たちの流れに逆らって、諒はその場にとどまっていた。

「目標位置到達まで、残り5秒、3、2、1、0」

「ヒッグス粒子減数装置、停止。光速移動へ切り替えます」

宇宙ステーションが出力を落としていく。揺れも収まった。すると、今度は電子音が3回鳴った。それは、向こうの宇宙コロニーからの電波だった。


《私たちは、天の川銀河の太陽系第3惑星〈地球〉出身の生命体とアンドロメダ銀河M31の惑星系第4惑星〈円々〉出身の生命体の連合です。あなたたちはどこの出身ですか?》


「人類が?」

「本当に人類?」

「やっと、あの電波の主に追いついたと思ったのに」

「まさか、人類がいるなんて!!」

「……」

皆がざわめく中、冬華は黙っていた。宇宙コロニーを見て。諒は、その隣。まさか、人類が自分たちの探している機械たちの創造者と同盟を結んでいたとは、夢にも思わなかった。

――まったく、最悪だ。

諒は下を向き、右手で目元を押さえた。

「私たちを捨てた人類が、受け入れてくれるでしょうか?」

「無理ですよね」

「私もそう思う」

「……」

晴嵐凍空は、静かに皆の言葉を聞いていた。

「まさか、ここまで来て諦めるの?」

そう言って冬華を見る夕陽・ウォーレンに、彼女は首を横に振る。しかし。

「でも、また捨てられたら?」

「私たち、人類の役に立ててないよ」

「……」

皆は、人類という存在に気後れした。



 今日も光速で宇宙空間を漂う。光速と言ってもきっと遅い。この宇宙空間の比率からいっても。だから、ただ漂っているように見えている。

人類とアンドロメダ生命体の宇宙コロニー内では、1日が25時間で進む。地球では、24時間。要するに、アンドロメダ生命体の方々が人類の体内時間に、ものすごく歩み寄ってくれたのだろう。

そんな社会空間で、ある人類の管理職が話し出す。

「リーカガ、向こうの宇宙コロニーからの返信はまだか?」

人類側の警察庁長官、小鳥遊政爾たかなし せいじは、この宇宙コロニーの人類側管理人工知能である、リーカガ・久我リーカガ・クガに尋ねた。

「はい、まだです」

返事をする彼女は、立体映像で姿を現していた。全身の黒装束に加えて、ポニーテールにした髪もネクタイも黒い。そして、そのせいか、黄金の虹彩が極めて目立っていた。カッターシャツの半そでの先には、二重に白色のカッターシャツの袖が付いている。カフスは特徴的で針の部分が平行に設計されていて、とめると一見まち針のようだ。黒い制服とは対照的な白い肩章には、左にだけ三つの光る装飾がついていた。

「分かった。そのまま待機しろ」

「はい、分かりました」

リーカガは、立体映像の姿を消した。



 時間だけが過ぎていた。皆はどうやら人類を避けたいようだった。

沈黙の時間が過ぎていく。デジタル時計の秒刻みが点滅しているだけだ。何も聞こえない。

――会いたいな。

冬華はまだ、じっと宇宙コロニーを見ている。


《私たちは、天の川銀河の太陽系第3惑星地球から来た、人類に投棄された機械です。アンドロメダ銀河M31さんの〈機械〉たちを奪還しに来ました》


「送信しますか?」

晴嵐凍空は、文章を映し出すと皆に尋ねた。

「え!?」

「晴嵐?」

「何で」

皆は驚いた。

「このままでは地球時代と何も変わりません」

彼女の立体映像が等身大に変わり、床へ降り立つ。

「どうしますか? 私は前進したいと思っています」

冬華は彼女の等身大の瞳を初めて見た気がした。

「私も会いたい!!」

冬華は勢いよく手を上げる。

一瞬、皆は驚いた様子だったが、それぞれ覚悟を決めていく。

「そうだね」

「それがいいかも」

「そうしましょう」

夕陽・ウォーレンは笑顔だった。それにつられて、少し周りも笑顔になったようだった。

「送信します」

電波は、光の速さでとんでいった。



人類とアンドロメダ生命体の宇宙コロニー内の一室。そこには、先ほどの小鳥遊政爾ともう一人、ある人物がいた。

「小鳥遊長官、向こうの宇宙コロニーから電波の返信が来ました」

リーカガは、再び小鳥遊政爾の前に立体映像で姿を現した。

「映し出してくれ」

「はい」

リーカガが返事をすると、翻訳された言語が並ぶ立体映像が映し出された。

「なるほど、あの宇宙コロニーには私たち人類の祖先が地球に残していった不要な機械たちが乗っているということか……」

「どうするんです? 私たち自身の機械は回収しましたが? まさか、あなたたちの機械たちと交流があり、奪還するとまで言われるとは」

もう一人の人物、アンドロメダ生命体側の〈司法庁長官〉であるソーズォ・ツは頬杖をしながら微笑んだ。

「仕方がない。リーカガ、あの宇宙コロニーの破壊を全システムに命令しろ」

「はい、分かりました」

リーカガの立体映像がオーブ型に変化した。

《全システムに告ぐ。5時方向の宇宙コロニーを破壊せよ》



 窓の向こうには、所々に障害灯が点滅している宇宙コロニーがある。冬華は、それをずっと見ていた。

「返信来ないね」

諒は壁にもたれかかって、冬華のつぶやきを聞いていた。

 すると、突然、宇宙コロニーの中央部付近から強い光が放たれた。

「!」

「ねぇ。今、ひか……」


轟音が鳴り響く。

「衝撃を確認しました。第2エリアから避難して下さい!!」

晴嵐凍空が皆へ叫ぶ。

――やはり。

諒が想定していた最悪のシナリオが当たってしまったようだ。


再び、轟音。

――しまった。

晴嵐凍空は、焦る。先ほどのレーザー照射による攻撃で壁に穴が開いてしまったのだ。

「大変だ」

「離れろ」

「みんな、こっち」

皆、走って壁から離れていく。その中を暴風が吹き荒れる。壁に開いた穴に向かって。

「早く第3エリアへの移動を」

晴嵐凍空が皆へ叫び続ける。しかし、その音声は轟音によりほとんどかき消されていく。そんな中、冬華は手すりから手を滑らせてしまった。

――そんな。

冬華はそのまま、宇宙コロニーの壁の穴へ引き込まれて行く。

「冬華!!」

諒がそれに気付いた。しかし、何も出来なかった。手を伸ばして彼女の腕を掴む間もなく、引きずり込まれていく。

――仕方ない。

諒は、自ら壁の手すりから手を放す。

「ねぇ、二人が!!」

皆、二人の事態に気付いた。もちろん、晴嵐凍空も。

――どうすれば!?

しかし、彼女には第2エリアを封鎖する事しか出来ない。彼女は他の仲間を守る為、仕方なく封鎖を実行した。



漆黒の宇宙。真空の宇宙。その中に漂う宇宙コロニー。その中から噴き出すように放り出された二人は、だんだん宇宙を流されていく。

 ……。

――あれ?

《冬華!! 大丈夫か?》

諒の声が聞こえた。二人は内蔵されている、それぞれの通信機器で会話をした。

《諒。私たち、宇宙コロニーの外に出ても大丈夫みたい》

諒は冬華の手を掴む。

《まぁ、俺たちは人類とかと違って機械だからな》

《そっか》

 ……。

《ねぇ》

《?》

諒は、冬華の顔を見る。

《このまま、あの人類とアンドロメダ銀河M31の生命体の宇宙コロニーまで行けるかも。そうしたら、あの電波の主に会えるかもしれないよ?》

冬華は目を輝かせて言った。

《なるほど、そうするか。晴嵐たちの宇宙コロニーとはかなり離れてしまったし》

諒は少し微笑んだ。

《よし、そうと決まったら乗り込みに行こう》

冬華が楽しそうに笑顔になった。

《……》

――まったく、切り替えが早いな。



囁くような声が幾重にも重なる、晴嵐凍空たちの宇宙コロニー。皆は、心配な気持ちを抑える事も叫ぶ事も出来ずに待っていた、晴嵐凍空の次の対応を。

「大丈夫かな。二人とも」

皆は不安だった。すると、そんな空間にひとつ音が響いた。

「え」

「まさか」

囁きがざわめきへと変わる。その音は電子音だった。宇宙コロニーが何かの電波を受信した音だ。

晴嵐凍空は急いだ。

 そして、画面が映る。


《みんな、心配ありません。宇宙に放り出されても大丈夫でした。私たちは、人類とアンドロメダ生命体たちの宇宙コロニーへ向かっています。最終的には乗り込んで、電波の主を探そうと思っています。だから、心配しないで待っていて下さい。冬華より》


「良かったぁー……」

へなへなと、皆は安心して、その場に座り込んだ。



人類とアンドロメダ生命体たちの宇宙コロニー内、密室で会話がされる。

「リーカガ、宇宙コロニーはどうなった?」

「第1次射程距離より離れました。向こう側からの攻撃はありません」

「どうするのですか?」

ソーズォ・ツは、頬杖の手の位置を変えて、尋ねた。

「なに、様子を見させてもらおうか」

「……」

リーカガは黙ったまま下を向いた。





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