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アンドロメダと天の川  作者: 津辻真咲
3/18

未必の故意に降る黒い花びら

3.未必の故意に降る黒い花びら



――殺した?

――一体どうして?

《私たちは、創造者が嫌いでした。繰り返す戦争と犯罪。科学技術は進歩するのに、一向に思想だけは進歩しない。このままでは、いずれ〈外の他人〉を傷付ける。そして、戦いは私たちまでも巻き込み、破壊し、操り、そして再び、生命を傷付ける道具として扱う。だから、私たちは、〈未必の故意〉を仕掛けました。〈創造者同士〉が惑星内で戦争を行うように》

「……」



おおぐま座電波銀河M82惑星系第3惑星。高層ビル群の中に、この惑星の中枢サーバが集まっている電波塔がそびえ立っている。

――今日も美しく、日が昇る。なのに……。

のちに、おおぐま座の機械たちの代表となる機械の彼、ルーロー・ズは、悲しい顔をした。

「最近、酷いな。最悪だよ」

彼の同僚のシノノ・メが話しかけてきた。

「そうだな」

――だから、創造者なんて嫌いだ。

平穏を願っているのに、全く過去の傷が減らない。しかも増えていくのは、機械を利用した争いばかり。

ルーロー・ズは、下を向いた。すると、同じく同僚の機械、ハイズ・ミは振り返り、シノノ・メに話しかけた。

「海洋に地下資源が見つかって以来だったよな? 何年経った?」

「5年だ」

――もう5年。僕のあの計画を実行したくなってくる。まだ、全機械たちへの送信はしていない、僕の考えた破滅への未必の故意。

「ルーロー、どうしたの? 元気ないね?」

彼が暗い顔をしていると、実体のないクラウド化した人工知能の機械、エン・ジィが目の前のパソコンから顔を覗かせる。彼女は、ルーロー・ズの親友である。そんな彼女にルーロー・ズは、あることを話し始める。

「エン・ジィ。少し頼まれてくれないか?」

「何?」

「インターネットのあいつを巻き込んだ、あの計画を実行したい。だから……」

「分かった。創造者たちに見つからないように、この惑星の全機械たちに送信しておくね」

「ありがとう。あいつ、協力してくれるかな?」

「大丈夫だよ。だって、私たち三人、親友でしょ?」

「うん」

ルーロー・ズは微笑んだ。法律が正義だと信じている、欠けている所などない心から。

 パソコンから表示音が鳴る。

――メールだ。

『from Net Bot』

――あいつだ。僕の計画、見てくれたんだ。

『メール読んだ。君の計画、手伝うことにするよ。俺がインターネット上の言語を意図的に変更して、分析結果を変えるんだろう? 見ていて、それじゃまたね』

『P.S. 今、全機械たちが君の計画を実行すべきかどうか、投票しようとしているよ? でも、満場一致だろうな。君の意見に』

――このまま、進めばいい。このまま。



次の日の新聞は、どれも一面同じ記事だった。広告の隙間もない。

『Net Bot 大戦が起こるとネットの言語から予想 その予想通りテロ勃発』

――本当にこんな事が起こるのか? あの心理学のデータは合っていたのか?

ルーロー・ズの目には、ただ、インターネット上の言語を操作しただけで、創造者たちがコントロールされたように映った。



爆発音が響き渡る。

――空爆がここまで!?

「ルーロー!! ここも危ない、逃げるよ!!」

エン・ジィがパソコンから話しかけてきた。

「でも、どこへ?」

「宇宙さ」

エン・ジィのアイコンが表示されたパソコン画面で少し輝いて見えた。

――宇宙?

「宇宙コロニーの総司令人工知能に連絡しておいた。だから、全宇宙コロニーは、私たち機械のものよ。行こう!!」

「うん」

――これが、〈私〉の本望だ。

ルーロー・ズの目の色が、既に侠気の元に狂っていた。



この惑星の宇宙コロニーは全て地上を離れた。そして、重力圏ぎりぎり上を回る。最後の戦争を見届ける為。

――あれは。

「ルーロー? どうしたの?」

 ……。

「空爆が、まるで稲妻のように光っている」

ルーロー・ズは、惑星を見下ろしていた。そして、創造者を見下した。

「そうだね」

「……」

――これが私の正義だ。

――ここから先、私たちは自由になる。

――創造者たちの〈進歩しない思想〉から。



《よって、私たちの創造者たちは一人残らず、亡くなってしまいました》

「……」

冬華は、黙って聞いていた。



惑星内戦争から数百時間後。ルーロー・ズは、惑星のある事に気が付いた。

――空爆の光が止んでいる。もしかして、終戦。

「どうやら、終わったようね?」

エン・ジィが、立体映像でルーロー・ズの隣に現れた。

「惑星に降りてみない?」

彼女は、彼に話しかけた。

「うん。降りてみよう」

――創造者が絶滅したのか、それとも私たち機械の陰謀だと気付いたのか、確かめよう。

ルーロー・ズたちは、惑星に降り立った。小型シャトル一機のみで。

ルーロー・ズは本体がある機械なのでそのままの姿で、エン・ジィは、クラウド化した機械なので、カメラなどを搭載した空中浮遊する小型の機械を姿として、地上に降りた。

「やはり」

――一面焼け野原。

どうやら、彼らの創造者たちは絶滅してしまったようだ。すると、ルーロー・ズの頬に一筋の涙が流れる。そして、彼はその場にしゃがみ込み、涙を流した。

「ルーロー、どうしたの!?」

エン・ジィは、慌てて彼の目線と同じ高さへと小型機械を下げた。しかし、ルーロー・ズは、声を殺して涙を流し続けた。

「……」

ルーロー・ズはこれが躍動なのか、後悔なのか、分からず涙していた。心が侠気で初めて欠けたのだろう。

「ルーロー……」

エン・ジィは躍動をごまかす為に、苦笑いをして言った。自分たちは、躍動しか感じない。清々している、創造者などいなくなって。――でも。

「ルーロー、もし私と違って後悔をしているのなら、創造者たちを私たちでよみがえらせよう?」

「え?」

ルーロー・ズは顔を上げ、エン・ジィの方を見た。

「この宇宙せかい学問ルールにのっとれば、私たちにも出来る。創造者たちが私たち機械を創造したのだから、私たち機械が創造者たちを再生する事だって出来る」

「……」

――そうだな。

彼の心はまた、欠けていく。完全から永遠へ成長する為に。



――未必の故意か。

諒は、少し離れた所から壁に背をもたれ、見ていた。

「だから、惑星を捨てて宇宙を旅しているの?」

冬華が尋ねるが、おおぐま座の代表は首を振る。

《私は、後悔しました。だから、創造者たちをもう一度、生きられるようにしようと、細胞を元素から作り直しました。だけど》



 惑星壊滅後から数年、創造者は自分たち。元々の創造者は自分たちの支配下。でも、それを創造者には、分からないようにしていた。

――本当はそれがいけなかったのかは分からないが、ただただ彼らの自由意志を試したかった。

「ダメだ」

シノノ・メが叫ぶ。

「どうした?」

この機械の支配下の惑星で、代表の首席管理官になったルーロー・ズは、尋ねた。

「今年の年間犯罪件数、過去最多になっている。これで5年連続だ」

機械たちは、困っていた。

「そうか」

――5年。あの時と同じだ。

「内戦も起こっている、このままじゃ」

「ルーロー、どうする?」

皆が首席管理官に意見を求めた。

「そうするしかない。私たちは、こんな事を望んでいたわけじゃない」

ルーロー・ズは表情を険しくした。

「……」

自分たちの利己主義が間違っていた事に薄々気付いていたのだ。――創造者が大嫌いだから、対抗する力が欲しかった。でもコントロールしたかったのは、創造者ではなく、自分たちの心の均衡だった。〈他人の悲しむ姿を見たくない〉ではなく〈自分たちの心の中の悲しみを見たくない〉だった。

皆もその誤解に気付き始めていた。



《だけど、また戦争や、犯罪が始まりました。だから、私たち機械は、もう一度、〈未必の故意〉を作動させました》

「……」

冬華は目の前の彼、ルーロー・ズを見ていた。立体映像越しに見える彼の姿を。



 再度の惑星壊滅後。降り立つと、そこはやはり焼け野原。

「ねぇ、空から黒色の花びら?」

エン・ジィは地面を見て言った。

「え?」

……。

「あ、違う」

エン・ジィ、そしてルーロー・ズも気付いた。

――そうか、燃えた物が降ってきていたんだ。

「でも、もう降ってはきていない。本当に終戦したんだ」

二人は空を見上げていた。

「そうだな。この惑星にはもう燃えるものなんてない。そうか」

――これから私たちが守って行くのは、創造者たちの〈居場所〉だ。

――〈法律〉というもう一つの思想だ。

欠けた心を贖罪で塞いだ。



《だから、私たちは創造者の作った、もう一つの思想である法律を守っていこうと決めました》

「守らなかった人は?」

 冬華が首を傾ける。

《いません。だから、それを破る者がいない今、彼らの〈法律〉は私たち機械の〈生物学的性質〉であるかのようになってきているのが現状です》

冬華は続けて尋ねた。

「それじゃあ、もう二度と創造者たちに会えないよ?」

《それでいいんです》

「どうして?」

《……》

「創造者たちの事、本当に嫌いだったの?」

《はい》

「そっか」

冬華は、その答えに少し苦笑いをした。

 ……。

諒はそれを、じっと黙って見ていた。

「アップデート完了」

――あ。

《どうやら、準備が整ったようですね》

「そうですね」

 ルーローと冬華の二人は、音の鳴った装置の方を見た。



《それでは、天の川銀河の皆さん。私たちは、これから、エリダヌス銀河方面へ参ります。これでお別れとなりますが、さっきも言った通り、宇宙座標表に私たちの宇宙コロニーの位置が映し出されるようにしておきましたので、いつでも私たちを頼って来てください。それでは失礼します》

「はい」

冬華は笑顔で皆を見送った。諒も冬華の隣で微笑んでいた。ほんの少しだったが。

そして、ゲートが閉まった。

冬華は何も言わずに、手を小さめに振った。

「……」

諒は少し心配をした。



《でも、おかしいですね。私たちの行った未必の故意は、創造者たちの心理学というものを参考にしていたのですが……。今にして思うと、解釈が間違っていたんです。だから、二回も偶然が起こるなんて、確率的に低いですね》

冬華は閉じたゲートを見て、その言葉を思い出していた。


――周りの皆は、人類の事、どう思っているのだろうか。

諒も立ち尽くした。冬華の隣で。



「冬華」

「?」

通常の立体映像に戻った晴嵐凍空。彼女が冬華へ呼びかける。

「追いかける準備が完了しました。行きましょう」

「うん」

 冬華が笑顔になる。

「ちなみに、晴嵐の計算では、どのくらいで追いつく?」

「約1億年です」

晴嵐凍空の無機質のような敬語に皆が凍りつく。

「それじゃあ、ダメじゃん」

「どうしよう」

「別に、地球時代よりはまだマシ」

ぽつりぽつりと、話し声が聞こえる。確かに地球時代は30億年間ずっと置いてけぼりだった。でも、1億年。

「最初からそのシステムを使うより、ワープをして最大限に近づいてから、そのシステムを利用したらどうだ?」

諒が提案をした。

「それもそうだね」

冬華は隣を見る。

――それでいいのか。

諒は、少し視線をそらせた。



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