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19.コロンブスの卵

 意外性……の話をしよう。いつだったかの私の話だ。私は、その時もある彼と関わっていたのだけれど、この彼は、本当に不可思議な方だった。基本、私は、その当時もクズだったので、あらゆる方法で他人を試してばかりいた。裏側と表側を常にちらつかせては、他人を惑わせてばかりいたのだ。無意識でもそうであったようであるけれども、意識的にそう行うこともあった。意識的に他人を試すなんて、なんて嫌らしく非道なのかと、どなたかのお怒りを買うことになるのかもしれないが、事実、そういったことばかりしていた。他人を試しては、その方に、種明かしをし、私は、こういう人なのよ。と、手をひらひらさせて相手の方の反応を伺っていたかのような気がする。

 何故、そんなことをしていたのか、という話をすれば、私のしたことの免罪符になるとも思えないし、そのようなことをここで記載するようなことでもない気がするので、そこは敢えて省いて話を続けようと思う。そのような私と長く関われるような方は、当然あまりいらっしゃらなかった為、そこまで長く他人を煩わせることも無く、私は適度にそのようなことを繰り返していた。けれど、どのようなことにも例外はあるようで、そのようなことをしていた私の前に現れた……というか、私が関わったというか、初めを話したくないので曖昧な記載となるが、関わってしまった。この彼が、当時の私にとっては理解し難いすごい方だった。生い立ちもさることながら、苦労してきた彼は、あり得ない程に優しい方だった。他人を見捨てないという方と言ったら良いのだろうか……事実、彼に関わるといつの間にか精神疾患も治ってしまったりする方もいらっしゃったらしい。変わらない対応ということがどれだけ難しいのかを私は、身をもって知っている。どのような根気がある方でも、逆に心を壊される方の方が多いのだ。

 彼は、私がそれまで関わってきたどの方よりも根気強く、どの方よりも適当だった。……つまり、放っておける人だったと言える。あんまりにも平気な顔をしているので、当時の私は、困惑しきりだった。彼は、非常に意味が解らない存在だった。

 他人を助けようとする方は沢山いらっしゃる。何かにつけて親切な方もいらっしゃる。そのような方々で本当に純粋に愛情深い方は、ついぞ私は見たことは無いが、表面上そのような方は沢山目にしてきた。

 私が非常に困惑した彼は、そのような方では全くなかった。どちらかといえば、ものすごく慈悲深い方でもなければ、ものすごく憂いていたり、ものすごく誰かを助けようとする方でもなかった。事実、彼の方がある意味、助けを必要としていたし、他人にあらゆる面で頼っていたが……めちゃくちゃなことをやっているような彼は、根本的な部分で他人から見捨てられてはいなかった。何か困ると誰かが常に助けようとするような方だったと言える。適当で基本的に失礼な方なのだが、不思議とそれで許されるような意味が解らない方だった。

 手を放すということは、手を振り切ることではないと私は思う。手は自然と放されるときは放されてしまうものだ。彼の特徴をもう少し挙げてみよう。基本、彼は、追いかけない人だった。自らの答えは、他人に明確にしたりはしない。結局は、彼に向き合う人間が、考えさせられてしまうのだ。彼は基本何もしない。何も向かってこない。けれど、他人は彼を何とか理解しようとして自らの解釈の枠におさめようとするのだと思う。まぁ、結論から言うと、私もその一人だったわけだが。ある意味、彼の意味不明さに惹きつけられたのだと言えると思う。彼にしては迷惑だろうが、私は、惹きつけられたことにより、様々な事柄で自分だけで悩むことになってしまう。空回りも妄想も何でも使って、彼を解明しようとしたわけだ。

 ――そうして、今日、やっとその手掛かりを見つけた。……見つけて、そう、私は、がっくりと項垂れてしまった。

 ――がっかり……そう、がっかりしたのだと思う。……私は。

 そうして、神様はやっぱり居ないのだと、私は思った。

 私が苦労して外したフィルターの外での彼の姿は、……ただ単に事務的なだけだった。

 人に、曖昧な言葉で話すことが上手な方でしかなかった。人が、なにも言わない彼に自分で向かっていき、そうして、答えを自らで探す。それだけに過ぎなかった。どこか特別だと考えていた彼の言葉は、必死な私の言葉とただただ、噛み合っていないだけだった……そういうことに、気づいてしまった。

 そのことに気づいてしまったとき、私は、知らない方が良かったと思えば良いのか、知ったからこそ、もう彼に執着しなくなると思えるようになると自らを慰めれば良いのか解らなくなった。

ただ一つ解っていることは、神はいないんだなぁ……ってことだけだった。

 もう少しましな答えを求めていたし、もう少し大事な答えに出会えると思いながら関わっていた彼は、ただただ、私とかみ合っていなかっただけに過ぎなかったという事実は、自分が踊らされていただけという事実から本当にむなしいことのように思えた。

 けれど、私が彼と関わって私が見つけて考えた答えは、私が自分で探したことだとして、彼が彼はそう感じていなくとも、私にヒントを与え続けてくれていたとしたら、やはり私は、彼に感謝すべきなのだと思う。そういった彼の話だ。

 意外性というそんな、ちょっと哀しい話だが、現実って意外とそういうものなのかもしれないなぁって、その時は空っぽな心の中と同時にそう思えたんだ。

 まるで、コロンブスの卵のようだった。立たない筈の卵が先入観を取り去れば、そこに目の前に当たり前に至極当然な顔をして立っている姿を目にしたようなそんな、彼と私の話だ。

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