前日譚1|エルダントと愉快な仲間達
前回の内容を大幅改稿しました。
よろしくお願いします。
夏。私は夏が嫌いです。薄暗い部屋にかろうじて窓から入ってくる太陽のありがたい光。
外ではミンミンジージーと蝉が忙しなく絶え間なく鳴いていて、中ではモーターの音を伴いながら扇風機が静かにぶぉんぶぉん鳴いています。
そして私はというと暑ーい、クーラーが欲しいーなどと泣いています。近くでは私と同じ、いや私が似せた生き物が私と同じように「暑いっすね~」やら「黙れ。我慢しろ」やら鳴いていました。
天気予報では『今日は雲一つない青空が広がり、日差しが強いでしょう。外出する際は熱中症に充分気をつけて下さい。今日1日天気は安定しているので傘の必要のない良い天気になるでしょう』と言っていた気がします。
いや、外に出なくても十分熱中症になりそうなくらい暑いんですが。てゆうか今日が良い天気と思う奴はどうかしてると個人的に思う私。
雲一つない空なんて直射日光ばりばり飛んでくるし、照り返し熱いし、全くもって良い天気とは思えないんですが。むしろ悪い天気まであります。
かと言って雨が良い天気とも思いません。
蒸し暑くなるし、傘持つの怠いし、電車は人増えるわで辛い。
つまり私は何が言いたいかと言いますと。ビバ曇りという訳です!
「せんぱぁーい、煩いっすよー。声漏れてますって。暑さで頭おかしくなっちゃったんすかぁ?」
私が良い天気について熱く楽しく分かりやすく語っていたというのに水を差しますかね普通。てゆうか声漏れてたの私。イヤだ、恥ずかしいっ!
恥ずかしさと水を差された恨みを込めて声の主をじとーっと見つめます。
目つきは少し釣り目で髪はワックスで整えられた上に根元まで金一色でいかにもチャラそうな男。
でもその髪も今は彼——ケニー・メルトの気分と一体となったかのようにまるで暑いよぅと言っているかのようにしおれています。
ケニーはこちらの視線に気付いたようで気だるそうな視線を向けてきました。
……暫しの沈黙。ちょっと居心地悪いなぁ。この暑さのせいかなぁ。とか思っていますと、その沈黙を破るようにブロロロロロと外からバイクの音が。
徐々に近づいてくる音を不審に思います。
研究所を設立してから三カ月。たまにくる手紙は私達を小馬鹿にする手紙ばかり。まあ三カ月間何もしていなければそれも仕方ないかも知れませんが。
そして案の定うちの研究所前で音は止まり、ガタンと別の音がなります。なったと思ったらまたブロロロロロという音と共にバイクはさって行きました。
また暫しの沈黙。それに耐えかねたケニーが早足でポストへ向かいます。
ケニーはポストから封筒を取り出し封を開けて中を確認。すると先ほどまでしおれていた髪はピンと立ちました。こころなしかケニーの表情が明るくなった気がします。
それにしてもあの髪、まじで気分と一体になってんの?とか思いつつ、ケニーから目を離し私はぼんやりとさっきから黙れ。我慢しろしか喋ってない我らが所長を見ます。
厳つい顔に大きく筋肉質な身体。暑さからくるものでしょうか。汗でその色黒な顔はテカっています。これだけ聞くとカタギの人かなとか思うかも知れません。ですがその身体と顔についているとは思えないクリクリおめ目から優しいお父さんのような印象になるのでは。
ギャップがすごい我らが所長、ジェイソン・マクリーンさんです!
そして我らが所長はそのクリクリおめ目を使い一点をまじまじと見つめてます。
『お兄ちゃん…もう我慢できないよぅ。ここが熱いよぉ…。お兄ちゃんに見つめられると私、エッチな子になっちゃうのぉ…。お兄ちゃんはエッチな私はキライ?』
「そんなことないよ、未羽。エッチな未羽もエッチじゃない未羽も両方大好きだよ♡」
……まあ彼のことを説明するのにこれ以上はいらないかなと思いますね。はい。
所長あんた真昼間からナニやってんすか?とケニーがいたら突っ込むとこだけど今はいない。
私はもう慣れましたけど、せめてイヤホンくらいして欲しいものです。その旨を伝えると所長は「俺の耳にあうイヤホン高いんだよ」と現実的な理由を教えて下さいました。
などと思っていますとさっきまで暑い暑いと鳴いていたケニーが興奮した面持ちでこちらへ向かって来るではありませんか。
やけに遅かったですね。所長のやってるエロゲの声を聞いて悶々としてしまったのでしょう。オスは大変ですね。
「おーい、見てくださいっすよ。これ。誰だか知んないっすけど、なんかすごいの届いたっすよ!」
「うるせぇケニー。ちょっと黙ってろ。今イイトコなんだ。」
「所長またやってんすかそのゲーム。」
ちぇ、ケニーめ、邪魔してくれましたね。もう少しで所長の行為が見れるかも知れないと言うのに。
いやいやそれはないですね。トイレ行きますよね。
「所長!そんなゲームやってる暇ないっすよ。てか、先輩も止めて下さいよ!まぁいいや。それより海行くっすよ、海!」
え?今の流れで海?
「ケニー、どうして急に海行こうなんて言いだして。」
『お兄ちゃん、イッちゃいそうなの?ふふふ、ダメだよイッちゃ♡』
「ほら未羽もこう言ってるだろ?俺はイかねぇぞ!未羽と一緒にイクんだ!」
「そんなこと行ってないで見てくださいこの地図を!」
所長が興奮した様子で怒鳴り(?)、ケニーも興奮した様子で地図を広げます。
なにこれ2人とも何興奮してるんですか。私も興奮するべきですか。と訳分からないこと考えながらケニーが広げた地図に目を向けます。
見たところ普通の地図。しかしよく見ると三ヶ所に赤いバツ印なありますね。
「所長。いいから見てくださいっす。先輩も。」
「おい、エル。そいつ黙らせてくんね?俺手と目を離せないから。」
エルとは平均的な体型にあまり大きくない胸。切れ目のキリッとした顔立ちで長く伸ばした黒髪が美しい私。いや、黒髪も美しいですが私自身も美しい私、マナティア・エルダントの事ですね。
「所長。それ自分でいいますか?私はむしろ所長と未羽ちゃんに黙ってていただきたいのですが。」
『お兄ちゃんっ、声出てるよぅ。…んっ。あんっ、らめぇ、私も気持ち良すぎて声漏れちゃう…』
「ごめん未羽、外に聞こえたらまずいもんな。」
はぁ…。思わず溜息です。私と会話しなが画面の娘とも会話するなんて。さすが所長。色々なトコが大きいです。
「先輩、何感心してるんすか。とにかくこれ見てください。」
顔に出ていましたか。これは失敬。
ケニーは所長から少し離れた机に広げた地図を手でバンバン叩きじとーっとした目で私を見つめて来ます。
尚、所長は無視する模様ですね。
「この赤い印。実はこの場所に遺跡があるらしいんっす。この手紙にそう書いてあったっす。で、この写真はその三ヶ所の写真なんすよ。どうすか?これ。凄くないっすか?」
言いたいことを言い終えるとケニーは何か質問ないっすか?といった顔で私を見つめてきます。端的に言ってウザイです。
でも気になる点はいくつかあるので質問するわけですが。
「で、その手紙には何が書いてあったの?」
するとケニーは唇の端をニッと吊り上げる。うん。凄くウザイ♡
「よくぞ聞いてくれました!さすが先輩!やっぱり目の付け所が違うっすねぇ。」
「その前置きウザイからとっとと本題に入れよ。」
思わずウザイと言ってしまった私。ケニーは目をぱちくりさせています。そんなにショックだったのでしょうか。
「先輩…口調が。まあいいや。わかったすよ。本題入るっすねー。」
ん、口調?今しがた言ったことを思い出して口調がおかしかったのに気付きひとり落ち込む私でした。