第009話 極振りしちゃいます
よろしくお願いします。
「【幸運】に900ポイント割り振ります」
「ええ? なんで? スキルを取得しないの? もしかして『スーパーレアギフトボックス』のため? あれはドロップや宝箱と違って【幸運】は影響しないのよ?」
ドロップというのは、モンスターが落とすアイテムのことですよね? 【幸運】が高いと、モンスターを倒したときに高く売れるアイテムを落とすというのはわかりやすいのですが、宝箱にも【幸運】が影響するということは、最初から何が入ってるか決まってないんでしょうか? 蓋を開けた瞬間に決まるんでしょうか? それとも見つけたときに中身が決まるんでしょうか? なんだかすごく気になってきました……。
「じゃあペナルティの話かしら? いくら【幸運】が高くても悪いことできるってわけじゃないのよ? フルダイブ型は、悪意だって判定されちゃうんだから。故意に悪いことしたら、元の【幸運】がどんなに高くても、激減するから意味がないのよ?」
悪意もわかるってすごいですね。キャラクターを思いのままに動かせるというのは、そこまでわかるものなんですか。もう何がファンタジーなのかわかりませんね。「実はこのVRゲームは魔法で動かしてます」って言われても信じられそうです。
◇
お姉さんはボーナスポイントを使い切って欲しくて、わたしはあまり目立ちたくないのです。特典を貰うのは嬉しいのですが、それが他の人にバレて「ズルい」とか言われたくないので、仕組み的に表示されない【幸運】に入れてしまうのが、お姉さんとわたしの妥協点になるんじゃないかと思うのです。
「うーん。なるほど、そうね、たしかに。考えてみたら……。いえ、良いかもしれないわね! 派手にドバーンと目立つのが良いと思ってたけど、誰にも気づかれず、いつのまにかトップにのし上がっていく……。誰もなぜ貴方がスゴいのかわからない、誰もその秘密に気づけない、だって【幸運】は表示項目じゃないんだもの! 良い! 良いわ! すごく良いわ!」
しばらく唸っていたお姉さんが顔をあげました。出会った頃のような、とても良い笑顔です。お姉さん的にも、納得できる何かがあったのでしょう。良かったです。
「じゃあ残りの99ポイントはどうするの? どうせなら【幸運】をもっと高めるスキルも取ってみない? 【幸運】関連のスキルは……パッシブスキルに【幸運強化】【風水術の才能】【占星術の才能】なんかがあるわね。アクティブスキルも取っておいた方が良いし……」
「もし良かったら、残りのポイントの割り振りを決めてもらえませんか?」
「え? 良いの?」
よく考えたら、わたしがやっていたゲームって、キャラクターは名前と性別を決めるくらいで、あと用意された設定を使うだけなんですよね。なので、悪目立ちさえしないのであれば、『これでどうぞ』で良いんです。というか、その方が助かります。わたしの頭はあまり難しいことを考えるようにはできてないのです。
「はい、お願いします」
「そ、そう? えっと、じゃあ残りはスキルに割り振るのが良いわね。そうそう、種族によって最初から取得しているスキルもあるのよ。エルフなら【風魔法の才能】【水魔法の才能】【緑の手】ね。【緑の手】は、エルフだけが持っている種族専用スキルね。ハイエルフは……エルフのスキルの他に【古代魔法の才能】【森羅万象の目】ってのがあるわね。でも、どっちも説明のテキストがないわ。もしかして実装されてないのかしら? まあ、エルフと同じスキルはあるわけだし、大丈夫よね」
お姉さんがイキイキしています。
こういう作業が好きなんでしょうか。
「あと、ユーザのキャラクターは、全員【空間魔法:道具箱】を取得しているのよ。インベントリはシステムの機能じゃなくて『魔法』扱いね。ゲームの中では、ユーザのキャラクターは『旅人さん』という『神の祝福を受けて、異なる世界を行き来する』という存在で、空間を超えるための魔法に慣れているから、空間魔法のアクティブスキルも習得してるって設定があるの。とはいえ、NPCも半分くらいは【空間魔法:道具箱】を習得しているのよ。これは街を移動する『タウンポータル』が空間魔法で動いているから、それをよく使うNPCは『旅人さん』と同様に……」
そういえばナツは、前衛の剣士を目指すって言ってました。どんなスキルを取ったんでしょうね。夕飯のときにいろいろと言ってたような気がするんですが、まだゲームを始めてなかったので、なんとなく聞き流してました。もうちょっとちゃんと聞いておけば良かったです。
「まず、生産系のスキルよね。【調理の才能】【調薬の才能】【調合の才能】【錬金の才能】【細工の才能】とかは、最初からあると良いわよね。これで40ポイント。スキルは成長すれば、特化したスキルが派生することもあるのよ。【細工の才能】から【銀細工の才能】とかね。こういうスキルはキャラクター作成で取得できないから、ゲームの中で習得する必要があるわ」
調理は料理するってことですよね。調薬もわかるんですが、調合って何でしょう? 調○って名前なので調理とか調薬のお仲間なんだとは思いますが。そういえば、他にも調律とか調達とか調のつく言葉って結構ありますね。他にも調○スキルがあるかもしれません。
「【幸運】関連は、パッシブスキルに【幸運強化】【風水術の才能】【占星術の才能】、アクティブスキルに【風水術:運気上昇】【支援魔法:幸運上昇】があるわね。支援魔法を使うから【支援魔法の才能】も欲しいわね。これでピッタリ99ポイント。うーん、支援魔法はパッシブ・アクティブのセットで30ポイントも使うのね。まぁ【回復魔法の才能】の50ポイントに比べたらマシな方かしら。アクティブスキルの【回復魔法:回復】【回復魔法:治療】も、それぞれ20ポイントだし、神官・巫女系のクラスに就かないと習得できないから、回復職はかなり大変なのよね」
パッシブスキル1つとアクティブスキル2つで、ボーナスポイント90ですか。たぶん、これがナツの言ってた不遇職ってやつですね。
「占星術のアクティブスキルとかも取りたいんだけど、【幸運】に割り振るボーナスポイントを減らす気はない?」
巫女さんのクラスとかあるんですね。占星術があるなら占い師ってクラスもあるんでしょうか。
そういえば、わたしの友達のミコちゃんの家が神社で、よくミコちゃんが巫女さんの格好でお手伝いをしてます。わたしも高校生になったら、お正月に巫女さんのバイトをさせてもらう予定なんです。
「……えっと、【占星術の才能】の代わりに【木工の才能】にしましょう。生産系のスキルには、他にも鍛冶とか建築とか裁縫とかあるけど、全部育てるのは大変だし、ゲームの中には作業を請け負ってくれるNPCもいるから、とりあえずはそれを利用するのが良いと思うわ」
お読みいただきありがとうございました。
ようやく【幸運】に極振りできました。これで、あらすじ詐欺は回避できたでしょうか。
私は「きょくふり」と読んでいるのですが、「ごくぶり」もカッコ良くていいですよね。