第003話 初ログインします
よろしくお願いします。
こんばんは。四月の第三日曜日の夜です。
明日の(英語の)予習も済ませました。牧場の皆とのお別れも済ませました(少し泣きました)。今日こそは『ジェプロ』にログインしたいと思います。
ナツによると、初回のログイン時に『キャラクターの作成』があり、結構時間がかかるそうです。もう22時回ってますし、今日はVRギアの設定と『キャラクターの作成』だけで終わってしまうかもしれません。
◇
まず、『電源ボックス』を壁の電源プラグに接続します。
ランプが点きました。
電源ボックスは、非常用の電源の役目もしてくれるそうです。
次に、『VRギア』から『電源ボックス』に給電ケーブルを接続します。
VRギアは消費電力が大きいのでバッテリーだと重くなり過ぎるそうです。
次に、手首と足首に『補助バンド』を着けます。
これは「倒れても大丈夫な姿勢で」とあるので、ベッドの上で座って着けます。
次に、『VRギア』を被ります。
VRギアは、太い輪っかに目と耳の部分を覆うカバーのような部品があります。
あとは……。
「あれ?」
この前読んだ説明書には、VRギアを被れば自動的にメニューが表示されると書いてあったのですが、何も表示されません。それどころか機械っぽい音すらしていません。
「……もしかして初期不良?」
困りました。
とりあえず、何か間違ってないか確認してみましょう。
◇
「あ!」
原因がわかりました!
VRギアと電源ボックスをつなぐ給電ケーブルは、電源ボックス側で外れないようにロックしないといけないのですが、ちゃんとロックできていませんでした。
ロックができてないと起動もしないんですね。たしかに、フルダイブ中に電源が切れるとか怖いですしね。安全設計で助かります。気付くのに20分もかかっちゃいましたが。
気を取り直して、再度チャレンジです。
給電ケーブルのロックを確認して。
補助バンドを着けて。
VRギアをしっかり被ります。
《初回起動のため、VRギアを初期化します》
《VRギアの初期化が終了しました》
《初期設定を行います》
今度はブーンという小さな駆動音と共に、目の前にメッセージが表示されました。
《言語を選択してください》
このVRギアにはフルダイブしない操作にも使えるように、目を覆うカバーの裏にモニターが付いているのです。視線で『日本語』を選択します。この辺りの操作はアミューズメントパークに置いてあるVRゲームと同じですね。
《地域を選択してください》
指示に従って進めていきます。
《脳波を測定します。目を瞑り、大きく深呼吸してください》
《声紋を測定します。小さな声で「こんにちは」と発声してください》
《身体を測定をします。水平な場所に仰向けに寝転んでください》
《膝を曲げずに右足を高く上げてください》
《膝を曲げずに左足を高く上げてください》
《両膝を曲げ、両手で抱えてください》
《楽な姿勢に戻ってください》
《上半身を起こし、両手で全身をなぞるように触ってください》
《カバー率30%。まだまだです》
《カバー率50%。がんばって》
《カバー率80%。あとちょっと》
《カバー率100%。お疲れ様でした。身体を測定が終了しました》
《ネットワーク『橘家AP』に接続します。よろしいですか?》
《ネットワーク『橘家AP』の接続に成功しました》
《時刻を同期します》
《初期設定を終了しました》
《このVRギアには『ジェネシス・プロジェクト』がインストールされています。『ジェネシス・プロジェクト』は、バビロン社の『バビロン認証サーバ』への接続許可を求めています。許可しますか?》
《バビロン社の『バビロン認証サーバ』の認証を受けました》
《『ジェネシス・プロジェクト』がプレイ可能になりました》
◇
ようやく初期設定が終わりました。
今、メニューには『ジェネシス・プロジェクト』と『設定』が並んでいます。
さっそく起動してみましょう。
《このゲームはフルダイブ型のため、倒れても大丈夫な楽な姿勢をとってください》
そうでした。ベッドの上に寝転びます。
まだ少し冷えますし、念のため身体にブランケットも掛けておきましょう。
では、改めて。
《『ジェネシス・プロジェクト』を起動します。しばらくそのままでお待ちください》
……こ、これは?
フルダイブ型はレム睡眠に誘導されるそうで、もっと一瞬で意識が落ちると思ってたんです。なのに、眠りに落ちるときのストーンと意識が薄れていくような、ベッドに吸い込まれるような感覚がずっと続いています。これは、もう、なんとも言えない気持ち良さです……。
◇
あまりの気持ち良さから少しボーっとしてたんですが、我に返ると神殿風の建物の中にいて、目線の少し先に『背中に羽、頭に輪っか』の女神風の格好の女性が立ってました。
意味がわからないですよね?
わたしもです。
10畳くらいの四角い部屋で、床は石、四隅にはギリシャっぽい感じのする白い柱が立っています。壁は無くて、部屋の外は海が見えます。四方とも。
つまり、海の上に四角い部屋があって、そこに女神風の人と二人きりです。『キャラクター作成』は、白い空間に自分の分身が浮いていて、表示されるメッセージに従って作業を進めていくと聞いてたんですが、ここ数日で変更されたんでしょうか。
そして、どこからか音楽が聞こえてきます。お父さんのレトロゲームコレクションのRPGで使っていたような、壮大でテンションの上がりそうなメロディが鳴り響きます。
もしかして、夢でしょうか?
ゲームを開始したつもりが寝ちゃったんでしょうか。
そう考えると、あの気持ち良さも、この意味不明さも納得です。
女神風の人は、じっとこちらを見ていました。年齢は20歳後半くらい、黒髪で日本人っぽい顔立ち、会ったことは無いと思います。夢なのにオリジナルキャラなんでしょうか。
その女神風の人が、音楽に合わせてゆっくりと歩いてきます。そして、鳴り響く音楽が最高潮になったところで、こちらに指をビシッと突きつけながら、こんなことを言ったのでした。
「おめでとう! 貴方が100万人目よ!!」
お読みいただきありがとうございました。