第023話 謎の像と交換してもらいます
よろしくお願いします。
わたしがアイテムボックスから取り出した『右手を上げた青年の像』に、ヒョークさんとポリスさんの視線が釘付けになっています。そういえば咄嗟に出してしまいましたが、2mとかある大きな像じゃなくて良かったです。
「嬢ちゃん、それは……」
「ハルさん、その像は……」
二人の視線が、わたしと像を行き来します。
手に持った像を、左右に動かすと視線も着いてくるので、ちょっと面白いです。
「ハルさんは、本当にその像と交換する気なの?」
「この像、説明文に『超レア』って書いてあるんですが、ダメでしょうか?」
「……そうか、『旅人さん』は知らないか」
なんだか「やれやれ」って感じの顔をしてます。
「その像は、この国の王様の像なんだよ」
王様?
言われて像の顔を見ましたが、もともと王様の顔なんて知りませんでした。
「『旅人さん』にはわからないかも知れないけど、その像と交換と言われたら断れないんだよ。だって断ったら、その像に価値がないみたいでしょ?」
好みとかあると思うんですけど。
「そもそも、この国では王様の像は作ってはいけないことになってるんだよ。ただ、今の王様が若い頃、希代の彫刻家でもあるシアさんの腕に惚れ込んじゃってね、まだその頃は王様じゃないって無理言って作ってもらった像がいくつか存在するんだよ。全部回収されたと思ってたんだけど、まだ残ってたんだね……」
これは、運営からの贈り物ですけどね。
「指輪じゃなくて、これで良いですか?」
結局この像で良いんでしょうか?
「もちろんだよ。その像の価値と比べたら当然だよ」
なんだか、無理やり交換を迫ってる気がします。
もしかして、この像は無茶な交換を繰り返しつつ、人の手を渡って行くんでしょうか。トランプのジョーカーみたいです。実は、呪いのアイテムなのかもしれません。
「気にしないで良いんだよ。さっきも言ったように『旅人さん』には価値がわからないかもしれないけど、この国の貴族にとっては、価値のあるものだから……」
そう言ってニヤリと笑うヒョークさん。
この人に渡して良いんでしょうか?
「でも、ハルさんの方こそ本当に良いの? その像と交換ならロクストの街にある貴族の屋敷だって手に入るかもしれないんだよ?」
「貴族のお屋敷とか、要らないです」
ゲームの中に貴族のお屋敷をもらっても困ります。
それに、お屋敷と交換するなら馬ですよね。
◇
「明日以降ならいつが都合が良い?」
「明日の同じ時間くらいなら大丈夫です」
「じゃあ明日持ってくるよ。その像はそのときにね」
やりました。交換成功です。
わらしべ長者ならいきなりゴール直前ですね。
「これって、どうやってしまうんですか?」
とりあえず像をアイテムボックスにしまおうと思ったのですが、アイテムボックスからの出し方はわかるんですが、しまうときはどうすれば良いんでしょう?
「アイテムボックスの使い方? ……所有権が設定されてないか、所有権を持っているアイテムに触れて『収納しよう』と思えばアイテムボックスに入るよ」
思うだけで良いんですね。
「アイテムボックスは、メニューから操作できるけど空間魔法だからね。出すときも自分の周りならある程度出る場所を指定できるよ。ちなみに収納できる量は【魔力】依存で、重さか体積のどちらかの上限までだよ」
試してみましたが、ちゃんと像はアイテムボックスに入りました。出すときはメニューを操作しないとダメでしたが、足元の地面に出すこともできました。
「じゃあ僕は手続きがあるから。また明日」
◇
「あいつはすげえやつなんだが変わっててな。嬢ちゃんの悩みを解決するには丁度良いと思ったんだが、ちょっと嫌な思いさせちまったな、すまなかった」
ヒョークさんがポータルで移動した後、なぜかポリスさんに謝られてしまいました。
嫌な思いって何でしょう?
ポリスさんがヒョークさんを連れてきてくれたおかげで、鑑定を持ってても種族やクラスが見られてないことがわかりましたし、アイテムボックスへのアイテムを入れる方法も教えてもらえましたし、要らない像も処分できますし、マイホームもなんとかなりそうです。良いことだらけでしたよ?
お読みいただきありがとうございました。
像との交換を断れないとか言ってますが、システム的な強制力はありません。不敬罪的な感じです。平民が処罰されることは多分ありませんが、貴族は外聞が悪いため可能な範囲であれば断れません。
蛇足ですが話中にハルが言ってる馬は、わらしべ長者の話です。旅に出る屋敷の主人に交換してもらいます。




