第022話 エルフの神学徒ヒョークさん
よろしくお願いします。
「わたしは……、ハルです」
とりあえず名前を言いましたが、『プレイヤー』ってこの世界でなんて言えば良いんでしょう? この世界の人には『旅人さん』なんて呼ばれてますが、自分で『旅人さん』って言うのは変ですよね?
「おい、ヒョーク、何言ってんだ!」
「いや、こんなに綺麗に鑑定が効かなかったのは初めてでね。抵抗するわけでもなく、偽装してるわけでもなく、ただ手応えが無いなんて初めてだよ。すごく興味が湧いても仕方ないと思わない? ね?」
ね、とか言われても困ります。
お姉さんのくれた指輪すごいですね。
「お前ね、すぐ鑑定とかするんじゃねえよ。……鑑定が通らないのは、嬢ちゃんが『旅人さん』だからじゃないのか?」
「これは職業病みたいなものなんで。他の『旅人さん』はほとんど無防備だよ。たまに【隠蔽】とか持ってる人もいるけど、練度低すぎて、鑑定しなくても見えちゃうレベルだしね。ハルさんは、なんか他の『旅人さん』とは何か違う気がするんだよね」
それはもしかして『住民モード』のせいじゃないでしょうか。
「職業病って、何をしてる人なんですか?」
「ん? 僕は『神学徒』。神様や世界の奇蹟、神秘について研究する学者なんだよ」
学者さんですか。
だから鑑定とかしちゃうんですかね?
「嬢ちゃん、こいつは『大樹の護』って有名な冒険者パーティのメンバーなんだよ」
有名な冒険者?
曲者感はあるんですが、強そうには見えません。
「ま、言いたいことはわかるがな。こいつは魔術もすげえんだが、情報収集とかそういうのがすげえやつなんだよ。こいつに頼めば、大抵のことはなんとかしてくれる」
なんかすごい信頼感ですね。
「ポリスさん、それは言い過ぎだよ。僕はただの神学徒で冒険者だよ。ちなみに、ハルさんは何ができる人?」
スキルの話でしょうか?
何がありましたっけ?
「調理、調薬、調合、錬金、細工、木工……だったと思います」
「すごいね、生産特化なんだね。で、土地を買うためにマイホームが必要と」
そうなんです。
「嬢ちゃんはまだロクストの街に行けないから、マイホームの審査を受けることができない。でもお前ならなんとかできるだろ?」
「まあ何とかならないことはないけど……」
なんとかできるんですか!
ヒョークさんこそ何者なんでしょう。
「じゃあ……」
ヒョークさんが、ニヤリと笑います。
「その左手の指輪と交換でどう?」
「えっ」
これはお姉さんに貰った大切な指輪なんです。これが無くなったら種族とかクラスとか見られちゃうんです。鑑定するとか言ってる人の前で外すことなんかできません!
◇
困りました。
指輪は渡すわけにはいきません。
「おい、ヒョーク」
「ポリスさん、これは大事なことなんだよ」
「それはわかるが……」
あれ?
いつの間にかヒョークさんに何とかしてもらう流れになっていましたが、よく考えたら別に待っていればいつかはロクストの街に行けるでしょうし、指輪を渡すほどのことじゃないですよね?
「ハルさん、マイホームの許可をロクストの街のギルドや騎士団で審査しているのは、その組織がその『旅人さん』を信用して後ろ盾になるってことなんだよ。だから簡単に許可するわけにはいかなくてね」
そもそも冒険者を雇う話でしたよね?
お金も余ってますし、早く行けたら良いなって思ったのは確かなんですが、さっきみたいに街の人たちの話を聞いてるだけでも楽しいですし、ロクストの街への街道が解放されるまでは、ブラブラしてても良いかもしれません。
「おい、嬢ちゃんが固まってるじゃねえか」
指輪の代わりになるようなものが何かあれば、話が簡単で良いんですけどね。
「ごめんごめん。ちょっと試させてもらっただけで、意地悪をしたわけじゃないんだよ。そもそも、ポリスさんの紹介だし、薬不足は深刻な問題になってきてるから調薬スキルを持ってるのも良いし、こっちの冒険者にお金を出すって発想も好感度が高いから、実は最初から合か……」
「あ!」
そうでした!
超レアなアイテムがありました。
メニューを操作してアイテムボックスから『右手を上げた青年の像』を取り出します。ホワンという変な音と共に、30㎝ほどの白い石膏のような全身像が出てきました。アイテム名の通り、イケメンの青年が右手を上げてガッツポーズしています。
「これ、どうでしょう!」
お読みいただきありがとうございました。
ヒョークは便利キャラ的なポジションです。
あと『神学徒』は他でも使われてるかもしれませんが、作者の造語でこの世界の職業の1つです。お金にならないことを人生のテーマとして研究している人たちが職業として『○○学徒』を自称します。自称なので、人に紹介するときに「○○学徒の××さんです」とか言うと馬鹿してるみたいになるので、生活を支えてる方の職業で紹介します。




