第002話 まだ始めてません
よろしくお願いします。
四月の第三日曜日。
VRギアを貰ってから一週間経ちました。
「姉ちゃん、どこまで進んだ?」
弟のナツに聞かれても「まだ全然」としか答えられません。まだ始めてないのです。
「オレね、もうニーストの街に入ったんだよ。クラスにも『ジェプロ』やってるやつが何人かいて、皆でパーティ組もうって話をしてるんだ。一番進んでるやつはゴーストの街まで行ってるから、まずはそいつに追いついて……」
どうやら『ジェプロ』は、この春に中学生になったナツの友達作りの役に立っているようです。姉として、このゲーマーな弟にクラスの友達ができそうで、ちょっと安心しました。
残念ながら、わたしの友達や新しいクラスで喋るようになった子の中に『ジェプロ』をやってる人はいませんでした。『ジェプロ』をやるためのVRギアは高いですし、ハードルが高いんですよね。わたしもお父さんから貰わなければ、やって無かったと思います。
「ゲーム雑誌に載ってたけど、もうすぐユーザ数が100万人突破するんだって。VRゲームが開始三ヶ月でこれって超すごいんだって。でも、やってみたら納得だよ、街も人も超リアル。前にやったVRゲームなんかくらべものにならないくらいすごいんだよ」
最近は、夕食を食べながらナツから『ジェプロ』話を聞くのが恒例になってきています。
「そうか、そんなにすごいのか。苦労してゲーム手に入れてよかったなあ。あ、そうだ、父さんもやってみようかな」
「えー。父さんゲームできるの? このゲーム、現実よりも運動神経使うんだよ」
「むむ、確かにアクションは苦手だけど、こう見えても父さんゲームの専門か……じゃなくて、ゲームは上手いんだぞ」
楽しそうに話すナツに、お父さんも楽しそうです。
わたしも早く始めないといけないですね。
「もう、シキさんたら。子供みたい」
わたしとお父さんの努力の甲斐あって、お母さんのお怒りモードは解除されています。いつもの優しくてお父さんラブのお母さんです。できれば、この状態が長く続いて欲しいものです。
「あの着信もこのゲームを手に入れるためだったんでしょ。もっと早く教えてくださったら良かったのに」
「ごめんね、サクラさん。子供たちの誕生日の、サプライズ的なプレゼントみたいなものに、良いかなと思ったり、なんかしてね」
お父さんがハッキリ言わないので、とりあえずこんな感じに落ち着きました。
「なら、オレは早くもらえてよかったな。姉ちゃんの誕生日は5月だけど、オレの誕生日8月だし」
ナツは気楽で羨ましいです。
「姉ちゃんは牧場を作りたいんだっけ? 東日本サーバだけかもしれないけど生産職って全然見かけないんだよなあ、不遇職なんじゃないの?」
東日本サーバ?
ふぐう職?
なんか全然ついていけませんね。
わたしも、もっと早く『ジェプロ』を始めようと思っていたのですが、二年になって始まった授業(特に英語)が結構難しくて宿題と予習で時間が取れませんでした。
それと、最近やってた牧場を経営するゲームを途中で止めることになるので、住人とのお別れプレイをしていました。最近のスローライフ系のゲームは途中でもメニューから「もう辞める」を選択するとエンディングに飛べるのがありがたいですね。わたしがやってたゲームでは、エンディング後に住人たちと会話ができるオマケが付いていました。
「ま、姉ちゃんも同じサーバだし、困ったらオレが助けてやるから」
「はいはい、そのときはよろしくね」
「あ、でも、まずは自分の力で頑張ってみるのが大事なんだよ、姉ちゃん!」
なんでこんなにナマイキに育っちゃったんでしょうね。
お読みいただきありがとうございました。
この姉弟の仲は悪くないです。このくらいの弟ってナマイキですよね。でもたぶん、ナツはお姉ちゃんのことが大好きなはずです。
ブックマークしてくれた人がいたのが嬉しくて、頑張って二話目を書いてみました。短いですが「えいや!」って予約投稿してしまいます。