第015話 ジェプロの世界にようこそ
よろしくお願いします。
こんばんは。4月21日の月曜日です。昨日は、キャラクター作成後にログアウトしたら、日付が変わる直前だったのでゲームは続けずに急いで寝ました。おかげで授業中は、ちょっと眠かったです。
今日は、宿題も、夕飯も、お風呂も、寝る準備も済ませてあります。まだ21時前なので、2時間くらいはゲームできそうです。
さあ、いきましょう。
《『ジェネシス・プロジェクト』を起動します。しばらくそのままでお待ちください》
ベットの上で寝転がって、VRギアをかぶります。今回は、給電ケーブルの接続失敗もなく意識が落ちていきました。これ、やっぱり気持ちいいです……。
◇
《称号『強運の持ち主』を取得しました》
《称号『豪運の持ち主!』を取得しました》
《称号『激運の持ち主!』を取得しました》
《称号『神運の持ち主!』を取得しました》
《称号『幸運姫』を取得しました》
《称号『認められし者』を取得しました》
《ワールドアナウンス:とあるプレイヤーが『幸運姫』の称号を取得しました。『能力値名+姫(または太郎)』の称号について情報を公開します。この称号は能力値をある一定まで上げたプレイヤーに与えられます。ただし、称号を持つプレイヤーよりも高い能力値を持つプレイヤーが同サーバに現れた場合、称号が移動します》
目を開けると、石畳の広場に立っていました。
広場は円形で、学校のグランドくらいの広さがあります。広場の中央には噴水のある池、広場を囲むように大きな建物が並んでいて、四方向に大きな道が真っすぐのびています。
《称号『一芸に秀でた者』を取得しました》
《称号『一芸を極めた者!』を取得しました》
《称号『極振りさん!』を取得しました》
現実は夜だったのに明るいのが、ちょっと不思議ですね。まだ天候が実装されてないから夜も無いって、お姉さんが言ってたような気もします。というか、ゲームの中と現実で時差もあるんでしたっけ?
広場には、学年で体育館に集まったときよりも人がいます。一人で立ってる人もいれば、何人かで固まって喋っている人たちもいます。ほとんどの人が鎧を着けていますが、皆さんプレイヤーなんでしょうか? 耳や尻尾が生えた人もいますが、見た目はほとんど人間です。動物耳のカチューシャを着けてコスプレしてるみたいです。
わたしが周りを見回してる間にも、どんどん人が広場に出てきます。誰もいない場所がボンヤリ光ったと思うと、そこから人が現れて慣れた感じでそのまま歩いていくのです。
邪魔にならないように広場の端の方に移動しましょう。
◇
さて、どうしましょう?
お姉さんの話だと、『サンスト』という街で土地が買えるそうなので、そこに行くのが良いですよね。サンストの街へは『タウンポータル』というので移動できるそうですし。
ただ、そのタウンポータルの使い方がわかりません。街の広場にあるって聞いたんですが、ここ以外にも広場があるのか、ここには噴水くらいしか見当たりません。
誰かに聞いてみましょうか。
周りを見ると、こちらをチラチラと見てる人が結構います。わたしもキョロキョロしているのでたまに目が合うのですが、すぐにそらされてしまいます。おそらく、わたしのように始めたばかりの初心者なんだと思います。難しいことを聞かれても困るかもしれませんね。
あ!
良さそうな人たちがいました。
高校生くらいの二人組なんですが、片方が女の人です。男の人が着ている鎧は黒くて強そうですし、初心者じゃないような気がします。女の人は紺色のローブを着ていて魔法使いっぽいんですが、活発そうなショートヘアで、ちょっとショウコちゃんに似ています。二人で何やら喋りながら歩いていますが、男の人も優しそうです。
「あのー」
二人が広場から通りの方へ向かって歩いて行くので、慌てて追いかけます。
「ミカ。ちょっとストップ。この子、何か用があるみたいだ」
男の人の方が、わたしに気づいてくれました。ミカというのが、女の人の名前でしょうか?
「え? あ、可愛い! 私に用? NPC? もしかして迷子?」
迷子!
たまに言われるんですよね、迷子。
「サンストに行きたいんですが、どうしたら良いんでしょう?」
「サンスト? この街から西にずーっと行くと『ニースト』って街があって、その街からまた西にずーっと行くとサンストがあるのよ。街道も解放されてるからBOSSモンスターいないけど、普通のモンスターは出るから初期装備じゃキツいわよ。ポータルは1回行ってないと使えないし。行きたいなら連れてってあげても良いけど……」
ミカさんが「ヨータ、サンストって何かあったっけ?」というと「んー。農業の街だから生産職希望なんじゃないか?」と答える男の人。詳しいですね、やっぱり初心者じゃなさそうです。
というか、わたしの聞き方が悪かったですね。聞きたいのはポータルについてです。
「ポータルって、どこにあるんですか?」
「ポータルは、街の広場でメニューを開くと、メニューに『ポータル』が出るのよ」
ミカさんに言われてメニューを開いてみると、確かに『ポータル』という文字がありました。『ポータル』の文字を押すと、リストに『イチスト』『ニースト』『サンスト』『ヨンスト』『ゴースト』が表示されます。わかり易いのか、わかり難いのかよくわからない名前ですね。これ英語圏だと、どうなってるんでしょう?
◇
「ありがとうございました」
ポータルの使い方を教えてもらったので、さっそくサンストの街に行ってみましょう。二人に小さく手を振ってお別れします。
念じて、またメニューを開きます。
「あ、落ちるの? うん。またね」
ミカさんの声を聞きながら、メニューの『ポータル』から『サンスト』を押します。
落ちるというのはログアウトですよね? ポータルの移動は、周りからはログアウトと同じように見えるんでしょうか?
何か答えようと思ったとこで、わたしの視界が変わっていきました。今度会ったときにお礼とお話ができるように、名前を憶えておかないといけないですね。
お読みいただきありがとうございました。
《》はゲーム内で表示されるシステム的なメッセージです。その中でも《ワールドアナウンス:》はサーバ内の全プレイヤーに向けてのメッセージです。通常、プレイヤーの視界の隅に表示されますが、ハルは『住人モード』を有効にしているため《》のメッセージは見えていません。




