第012話 初期装備品をもらいます
よろしくお願いします。
「体のサイズは、調整なしで良いのね?」
「……はい」
3㎝でも惜しかったんですが、潔く諦めました。だって、もしナツに3㎝だけ伸ばした『わたし』を見られたら、絶対何か言われると思うのです。想像しただけで背中がゾゾゾってなります。
「まぁ、こういう規制もユーザを守るためには必要なものなのよ。VRの黎明期は、感覚の違いで日常生活に支障が出たりとか、空を飛べる気になってビルから飛び降りたりとか、ご飯が食べれなくなったりとか、色々と大変だったらしいわ。それにこんなゲームだと、気配や魔力を感じたり、尻尾や翼を動かしたりとか、現実にはない感覚まで使うから、大事なことなのよ」
あれ?
またお姉さんのスイッチが入ってます。
「VR規制法は、ホントは『仮想空間における個人の財産を保護するための法律』って言うんだけど、この法律によって仮想空間における人格も個人として扱うようになったから、いわゆる『VR・個人情報保護法』『VR・ストーカー規制法』『VR・不正アクセス禁止法』なんかによって、これまでの法律の枠では取り締まれなかった犯罪から身を守り易くなったし、悪いことばっかりじゃないのよ。ま、もともとウチの会社が提言したものも多いんだけど。それもあって、この『ジェネシス・プロジェクト』でも……」
お父さんも、たまにこんな風になるときがあるんですが、わたしは黙って聞いてあげることにしています。幸い、ボーっと話を聞いてるのは得意なんです。
「ただ、ユーザよりも、こっちの方が大変なのよ。ユーザに影響を与えないように物理法則なんかもできるだけ現実に合わせないといけないし、仮想空間における経験も個人に帰属することになっているから、経験、つまりキャラクターのデータまで、運営ではなくユーザのものと定義されちゃうのよ。だから、例え悪質なユーザだとしても、運営が勝手にキャラクターのデータを変更したり削除することもできないし、雷を落とすのも運営のキャラクターによる魔法攻撃にしなくちゃいけないのよ。運営が直接できることといったら、ユーザをゲームに接続させないようにするくらいかしら。それにしたって、いまのところは規制されてないだけで結構グレーなのよ」
◇
「装備品には『防具』と『装飾品』があるの。武器は存在するけど、装備品としての『武器』という分類は無いのよ」
気付いたら装備品の話になってました。
ボーっとしすぎましたね。
「だって、盾で殴ることだってできるし、落ちてる木の枝で叩いてもいいわけだし。自由度が高くなったことで『武器』を定義する必要がなくなった、というか定義できなくなったのよ」
そうなると防具や装飾品も一緒なんじゃないでしょうか? よくゲームで『指輪は片手に1つずつ』とか制限がありますが、手の指は10本あります。自由度が高いなら、指輪を10個着けたり、ネックレスを大量に着けたりできるんじゃないでしょうか?
「なんとなく言いたいことはわかるわ。もちろん、『防具』も重ね着できるし、『装飾品』も大量に着けることができるわ。極端な話、鎧の上に鎧を着ることだってできるのよ。装備品のサイズは自動調整されるから、着ようと思えば重ね着できるサイズになるしね。ただ、大量に着けることはできるけど、装備品の『装備効果』が得られるのは、部位ごとに1つなの」
装備効果?
「他のゲームで『水着なのに防御力が高い』とか見たことない?」
「ないです」
「え? そうなの? ま、まあ、そういうがもあるのよ。このゲームだと、その水着は『装備効果の防御力が高い』ってことになるの。で、その水着の上に鎧を着たとするでしょ? その場合、水着と鎧でどっちを装備するか決めるわけ。装備した方の装備効果だけが得られて、装備してない方は素材としての強度だけが得られるの。装飾品の場合は、ただの飾りになるわね」
「それなら、たくさん着て、一番装備効果の高い防具を装備したら良いってことですか?」
「防御力は高くなるわね。ただ、当然すごく動きづらくなるわよ」
なるほど。
「『防具』を装備できる部位は、『頭』『胴』『腰』『右腕』『左腕』『脚』『外套』の7つ。『装飾品』は、『頭』『首』『右手』『左手』の4つ。ただ、『防具』には『頭』用の『防具』とか、装備できる部位が決まってるんだけど、装飾品は決まってないの。だから『装飾品』の指輪を紐で首からかけて『首』の『装飾品』にしたり、髪飾りにして『頭』の『装飾品』として設定することができるわ」
◇
「じゃあ、初期装備品を選んでくれる?」
装備品をもらえるんですか。
「ホントは、ここで4つ目の特典だったのよ」
お姉さんがポツリと呟きました。
「特典の内容が『トッププレイヤー相当の防具プレゼント』だったんだけど、貴方みたいな可愛い、しかも生産職志望の女の子がくるとは思ってなかったから、戦闘職向けのゴツいのしか用意して無かったのよ。だから、そのくらいの防具が買えるだけのお金を渡すことにしたわ。ごめんなさい」
わたしとしては、堅い鎧が欲しいわけじゃないですし、お金の方がありがたいです。
「初期装備品は、通常と同じものから選んでもらうわ」
お姉さんの指示に従って、装備品を選んでいきます。初期装備品は、今着てる黒いスウェットみたいなのの代わりになる服と、『胴』『腰』『脚』の『防具』が貰えるそうです。ただ、『青いワンピース』という名前でもデザインの違うものが大量にあるので、選ぶのが大変です。
◇
結局、お姉さんのおススメで、ひざ丈の青いワンピースと、その上に着ける白い革のベストとスカートっぽい鎧、そしてファーの付いた白いブーツにしました。
《『青いワンピース』を入手しました》
《『角兎の革鎧(胴)』を入手しました》
《『角兎の革鎧(腰)』を入手しました》
《『角兎の革靴』を入手しました》
《『神与の守秘指環』を入手しました》
鏡の中の『わたし』は、左手の小指に小さな石の付いた指輪を着けています。さっきお姉さんが言っていた、鑑定されなくなるというアイテムでしょうか。
「良いわね、すごい似合っているわ」
お姉さんも満足げです。
わたしも嬉しいです。
「ちなみに、その『青いワンピース』は『胴・腰』の『防具』ね。このゲームは全年齢対象だから、装備してなくても『胴』と『腰』に何かを着けてないといけないのよ」
わたしが回ると、鏡の中の『わたし』も回ります。可愛い装備が選べました。『背中に羽、頭に輪っか』は似合ってないですが、お姉さんはセンスがあると思います。
お読みいただきありがとうございました。
あちこち微修正してたんですが、納まりが良さそうだったので第005話に「弟のナツは、種族に蜥蜴人族を選択した」という件を追加しました。種族の話を聞いてたら、ここで思い出すかなと思っただけで、とくに読み返す必要はありません。




