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君は何処に?

あの日以来病院には行っていない。


両親の話では、やはり舞は俺のことを何一つ覚えていないらしい。


両親のことは覚えているものの、舞の口から俺の存在を示す言葉は出ていないようだ。


ヴィンカの言う通り、俺に関する記憶だけがきれいさっぱり消え失せたのだろう。


もちろん俺はそれを嘆くつもりは毛頭ない。


父さんは、


『つらくないのか?』


と聞いてきたが、つらくないわけがない。


だが、舞の意識が戻ったのならそれでそれでいい。


そう伝えると何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずにいてくれた。




舞の事故から二週間、つまり、舞の病室に行かなくなって一週間が経った。


俺の生活は、舞がいないということ以外は概ね以前のものに戻った。


『概ね』ということは当然例外もあるわけで。


その例外たるモノが今、目の前に在る。いや、居ると言ったほうがいいのだろうか?


「で?お前はいつまで俺に憑いて回るつもりだ?」


高校から帰る途中、視線を前に向けたままソレに話しかける。


「気にすんなって。まぁ、なんつーか…そう、あれだ、アフターケアってやつだ。」


「アフターケア?」


「そ、アフターケア。この間も言ったろ?あーゆーの慣れてないって。それで何かあったら俺がヤバいわけよ。またあの死神ヤローに捕まったらと思うと…、あぁ…考えただけでゾッとするぜ…。」


ヴィンカはそう言って、自分の肩を抱いて震えはじめた。


まぁ、確かに、ヴィンカが俺に迷惑をかけているわけではないのだが、悪魔に憑き纏われるのはあまりいい気がしない。


「そーいえばよー、あの舞って女、きょう退院だってな。」


なんで急にそんなことを言い出すんだ?アフターケアってことはもうしばらく様子を見たほうがいいんじゃないだろうか。


「そうらしいな。それがどうかしたのか?」


「気になんねーのかよ?」


「俺が気にしたって仕方ないだろ。俺はあいつに関わらない方が良いんだろ?」


「まぁ、そうなんだけどよ…。」


なんだって言うんだ?こいつにしてはやけに歯切れが悪いな。


まぁ、こいつにはこいつの事情があるんだろうし、俺が気にすることじゃないか。


そんなことを考えていると、いつの間にか家のすぐ近くまで来ていた。


そう言えば、今日は珍しく母さんが家に居るって言ってたっけ。ヴィンカはベランダから部屋に入らせないとな。


「おい、ヴィン「猛、あれ、お前のお袋さんじゃねーか?」ん?あ、ほんとだ。どうしたんだろ?」


ヴィンカに言われて見てみると、母さんがひどく慌てた様子で家から飛び出したところだった。


「母さん、なにかあったの?」


駆け寄って声をかけると、母さんに肩を掴まれた。ちょっと、いや、かなり痛い。


「猛!、舞ちゃんが、舞ちゃんが!」


「か、母さん!ちょ、落ち着いて!」


両手で母さんの肩を掴んで引きはがす。相手を落ち着かせるには、まず自分が落ち着いて話しかけるのが手っ取り早い。


「母さん、落ち着いて。」


数度深呼吸をして、落ち着きを取り戻したところで声をかける。


「落ち着いた?」


「ええ、大丈夫。落ち着いたわ。」


その言葉を確認して手を放す。


「それで、何があったの?舞がどうとかって…。」


「猛、落ち着いて聞きなさい。…舞ちゃんが、病室からいなくなったわ。」


舞がいなくなった?どういうことだ?今日は一日、楓さんが付いてるはずじゃ…?


「楓ちゃんが退院の手続きのために十分くらい病室を離れたらしいの。それで、楓ちゃんが病室に戻った時にはもう…。」


「そうか…わかった、俺も探す。舞の恰好は?」


すぐにでも走りだしたい衝動をこらえて、今までに分かっていることを聞き出す。


かあさんによると、退院の準備はほぼ終わっていて、手続きが終われば、あとはもう出るだけだったらしい。当然、私服に着替えた後だ。私服となると、人ごみの中から探し出すのは困難になる。


警察への連絡は済んでいるらしいから、俺達は心当たりのある場所を探すべきだろう。


母さんにそう伝えると、踵を返して駆けだしていった。


俺も、母さんと逆方向に走り出しながら、携帯を取り出し友人に片っ端から連絡する。


ある程度の人数を確保し携帯をポケットに捩じ込んだところで、ヴィンカが声をかけてきた。


「お前、結構冷静だなー。てっきり何も考えずに走り回るんだと思ってたぜ。」


「ああ、俺も自分で信じられないくらい落ち着いてる。人間、驚きすぎると逆に冷静になるってのは本当かもな。」


そんな軽口を叩きながらも決して足を止めることなく、思いついた場所を回っていく。




探し始めてからどのくらい時間が経っただろうか。


思いつく限りの場所はすべて回ったはずだ。


しかし、いくら探しても舞の姿はない。


「クソッ!どこにいるんだ!?」


まさか、行き違いになったのか?いや、連絡を入れた友人の数を考えれば、仮にそうだったとしてもそろそろ見つかるはずだ。じゃあ、まだ探してないところに居るのか?思い出せ、あとアイツがいきそうな所はどこだ?


「おーい、猛ー。」


「うるさい!少し黙ってろ!」


「ちょっと落ち着けってー。さっきお前が言ったことじゃねーか。」


そうだ、焦ったところでどうなるわけでもない。


「あ、ああ、そう…だな。」


「それでよー、猛。今までお前が行ったところって、他の奴も知ってるところなのか?」


「ああ、他の奴も知ってると思う。それがどうかしたのか?」


「じゃあさ、お前とあの舞って女しか知らないところってねーのか?」


何言ってるんだ?舞は俺のことなんか覚えてないんだから、そんなところにいるわけないだろ。


「今はそんなの関係ないだろ。」


「いや、さっきも言ったろ?代価として特定の記憶だけ消すってのに慣れてねーって。」


「それがどうかしたのか?」


「だからよー、ひょっとしたら消し損ねた記憶があるかもしれねーんだ。まぁ、お前のことは覚えちゃいねーんだろうが、お前とあの女は幼馴染ってやつなんだろ?だったら、その場所だけが記憶に残ってるってこともあるんじゃねーかなーってさ。」


「なるほど…。」


俺の記憶がないから全く考えてなかったけど、そういうこともあるかもしれない。


俺と舞しか知らない場所、か…。


俺達が初めて会った場所?


それはないか。そんなもの覚えちゃいないし、大方どっちかの家だろ。


じゃあどこだ…?


記憶に強く残るような出来事があって、俺達しか知らない……!?


まさか…!


「あそこか!?」


「お、おい!?猛、どこかわかったのか!?」


突然走り出した俺の後ろを走りながら、ヴィンカが叫んでいる。


「わからない。でも、あそこくらいしか思いつかない!」




記憶に強く残るような出来事があって、俺と舞しか知らない場所。


その二つの条件に当てはまるような場所なんて、俺には一ヶ所しか思いつかない。


三年前、中学二年の冬に、舞を始めて連れていったあの場所だけだ。

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