信じてる
「ごめん…。ごめんな、舞。守ってやるって言ったのに、結局何もできなかった…。」
俺が病院に着いてから数時間が経ったが、舞の意識はいまだに戻らない。
医者が言うにはかなり危険な状態らしい。
舞をはねた車はかなりスピードを出していたらしく、即死しなかったのが奇跡的なのだという。心臓は動いてはいるが、一番の問題は脳の損傷なのだそうだ。一命は取り留めたものの、意識が戻るかどうかもあやしく、意識が戻っても何らかの後遺症が出る可能性が高いと言っていた。
…なんだよそれ。舞が二度と目覚めない?目覚めても、今まで通りの生活はできない?
ふざけるな!!
俺はそんなの認めない。舞は必ず目覚めるにきまってる。
見てみろよ。気持ち良さそうに眠ってるだけじゃないか。今すぐにでも『う〜、おはよ〜。』とか言いながら、いつも通り起き上がるにきまってる。
大体、朝も昼もあんなに元気だったじゃないか。寝起きは悪い癖に、家を出る時には見てるこっちが疲れるくらい元気で、休み時間だってみんなと騒いでたんだ。あの舞が、こんなことで死ぬわけがない。ひょっとして、ほんとはもう起きてて、俺を驚かせようとしてるだけかもしれない。
「お〜い、舞〜。いい加減にしないとほんとに怒るぞ〜。」
肩を軽くゆすってみても、目をあける気配はない。
まったく、呑気なもんだよな。こっちはこんなに心配してるってのに、気持ち良さそうに寝やがって。
早く起きろよ。起きて『なんで助けなかったんだー!』って怒れよ。
なぁ…、頼むよ。
ガラッ。
扉の開く音で現実に引き戻された。どうやら、舞に文句を言いながらいつの間にか眠っていたらしい。
振り返ると親父がいた。
もうそんな時間なのか。
「詳しいことは楓に聞いた。」
「そう…。」
「猛。今日はそろそろ帰ろう。」
「…いやだ。」
「お前は明日も学校だろう。」
「…学校なんて行ってる余裕ないよ。」
「舞ちゃんが心配なのはわかる。だがな、それでお前が学校休んで、舞ちゃんが喜ぶと思うのか?」
「…いんだ。」
「ん?」
「怖いんだよ。俺が学校行ってる間に、舞になにかあるんじゃないかって。舞が…いなくなるんじゃないかって。」
「猛!そんなこと言うもんじゃない!」
「わかってる!俺だって、舞は絶対よくなるって信じてる!」
「猛…。」
「それに、舞…怖かったと思う。いきなり後ろから撥ねられて、何があったのかも分かってないと思う。そんなの、怖かったにきまってる。だから、舞の意識が戻った時そばにいて、安心させてやりたいんだ。」
そう、警察の捜査の結果、舞を撥ねた車は、舞の後ろから猛スピードで突っ込んだことが分かった。つまり、舞は自分の身に何が起こったのか理解できないまま意識を失ったんじゃないかってことだ。
「…。」
「それに俺、舞と約束したんだ。舞は俺が守るって。なのに、結局何もできなかった。だから、せめてずっとそばについててやりたいんだ。」
視界が歪む。舞が怖い思いをしてるのに何もしてやれなかった自分に、今こうして、手を握っててやることしかできない自分に嫌気がさす。
きっと今、俺はひどい顔をしているだろう。けどこんなもの、舞の感じた恐怖に比べれば何でもない。だから俺は笑っていよう。舞が目覚めた時に安心できるように。
「はぁ…。わかった、好きにしろ。だが、そういったからには最後までやりぬけ。いいな。」
「…ああ、わかってる。ありがとう、父さん。」
「お前の頑固さは美智譲りだからな。好きにさせたほうがいいことくらいわかってる。」
「母さんほどじゃないと思うけどなぁ。」
「ただし、無理はするなよ。それでお前が体調崩してたら意味がない。それに、そんなことになれば、俺が舞ちゃんに叱られるからな。」
「…たしかに。」
「じゃあ、俺は帰るからな。何かあったらすぐに連絡しろ。夜中でもかまわん。」
「ああ。おやすみ、父さん。」
ガラッ、バン。
舞、安心しろ。お前が起きるまで、俺がずっといてやるから。
だから、早く起きろよ、舞…。