原点
舞と初めて会った時のことなんて全く覚えてない。
物心ついた時には俺と舞は一緒にいた。
俺の両親と舞の両親は、彼らが中学生のころからの付き合いらしい。
俺達が生まれてからも家族ぐるみの付き合いがあって、俺達は家族同然に育てられたそうだ。
俺にとって舞はそばにいて当たり前の存在だった。
小さいころの舞は人見知りが激しく、友達も少なかった。いつも俺の後ろをついて回るようなやつで、俺は手のかかる妹のように感じていたんだと思う。
小学校に上がってもそれは変わらず、クラス内でも孤立しがちだった。
幸い俺はそれなりに社交性があったようで、友達もたくさんできた。だから、俺はいつも舞の手を引いて舞が孤立しないようにした。それが舞をさらに孤立させてしまうとは思わなかったから。
ある日、学校が終り、帰ろうとした俺は舞の姿がないことに気づいた。鞄がまだあったから、俺は探すことにした。なかなか見つからず、途方に暮れかけた時、漸く舞を見つけた。
舞に友達ができたと喜びかけた時、舞の様子がおかしいことに気づいた。近付いてみると、舞がうつむいて肩を震わせていることが分かった。
舞はいじめられていた。
半ば強引に連れ出して、その日はすぐに帰った。
帰り道で、それまで黙り込んでいた舞が漸く口を開いた。
「たけるくん、ありがとう。」
「きにするなよ、かぞくをまもるのはあたりまえだろ。」
「うん。」
「なにがあったんだ?」
「うん、えっとね・・・。」
そうして舞は話し始めた。
いつも男子とばかり居ることで悪口を言われていたこと。今日が初めてではないこと。
俺は舞をいじめていた連中以上に、自分自身に腹が立った。今まで気づいてやれなかったことが情けなかった。舞を守ってやれなかったことが悔しかった。
だから、俺は誓った。もう二度と舞を傷つけさせないと。俺が周りに恨まれても、舞を傷つけるものは叩き潰すと。
「まい!まいはおれがまもる。ぜったいだ!」
「うん!」
あの時の舞の嬉しそうな笑顔を俺は忘れない。
成長するにつれて舞にも沢山友達ができた。
中学に上がるころには今の活発で明るい舞になっていて、いじめられることもなくなった。
舞は俺が守ってみせる。
舞には笑っていてほしいから。
これが俺の原点でありアイデンティティー。
それは今も変わることはない。いや、舞が俺のそばにいる限り、これからも変わることはないだろう。
それなのに。
俺は、また、舞を守れなかった・・・!




