突然の悲劇
それは突然だった。
「ただいま。」
高校2年で帰宅部の俺、相川猛は放課後、いつも通りに帰宅した。
といっても、誰かがいるわけではない。兄弟はいないし、両親もこの時間はまだ仕事中のはずだ。
自室で私服に着替え、復習と宿題をさっさと済ませる。
別に俺が勉強熱心なわけではない。テスト前に一気に詰め込むような根性がないだけだ。毎日少しずつやれば1,2時間で済むが、時間が空けば余計時間がかかってしまうのだから、その日のうちにやっておいたほうが後で楽ができる。ただそれだけ。
やることを済ませた俺は、まだ読んでいなかった小説に手を伸ばした。
その時、デスクの上の携帯が鳴った。
ディスプレイには
『三沢楓』
の文字。
楓さんから?いったい何の用だ?
珍しい相手からの着信に首をかしげながら電話に出た。
「もしもし。」
「猛君!?いい、落ち着いて、これから言うことをよく聞いて。」
「どうしたんです?そんなに慌てて。」
「舞が事故に遭ったわ。」
・・・は?
「詳しいことまだ分からないけど、ひき逃げらしいわ。」
・・・ひき逃げ?舞が?
「県病院に搬送されたらしいんだけど・・・。猛君?聞いてるの、猛君!?」
詳しい状況なんてどうでもいい。場所さえわかれば十分だ。
俺は、楓さんの呼びかけを無視して、家を飛び出した。
どこをどう走ったのかなんて覚えてない。
いつの間にか降り出した雨はすでに土砂降りになっていて、水たまりに足を取られながら、ただひたすら病院を目指した。
自動ドアが開くのももどかしく病院に飛び込むと、ナースステーションで居場所を聞き出し、教えられた病室へ急ぐ。
そこに彼女はいた。
白一色の無機質な室内に置かれたベッドの上。
肩口で切りそろえられた艶のある黒髪。整った目鼻立ちに柔らかそうな唇。美しいというより、可愛らしいと言ったほうがしっくりくる、そんな少女。
三沢舞
いつの間にか一緒にいて、いつからかそれが当たり前になっていた、おれの大切な幼馴染。