異文化交流
本編第3話 傘色 泉の短編です。
俺は今、すこぶる機嫌が悪い。
親友は食えねぇ大好物を差し入れしにくるし、休みだってのに仕事に行かなきゃならねぇし、雨だし。
さっさと出かけなきゃならねぇってのに、コイツは人の話なんざ聞きやしねぇし。
くそったれ。
「おい、いい加減何とか言いやがれ」
黙り込む奴を指で軽く押せば、ここぞとばかりに甲高ぇ声で文句いってきやがる。
「ハァ?わかんねぇよ!ここは日本だ!日本語話しやがれ!てめぇには伝えようって意志がかけてんだよ!」
怒鳴ったオレにキレたのか、奴は無茶苦茶に暴れ出した。
「うるせぇ!ガタガタ言ってんじゃねぇ!!!」
手と足で抑えつければ、再びあの耳障りな声で反論してくる。
「泣きゃあ、いいってモンじゃねぇ!!んな暇があるなら、てめぇで何とかしやがれ」
ちくしょう!
そろそろ家を出なくてはならない。
俺は暴れる奴に一瞥をくれると、奥の手を出す事にした。
「あ~~めんどくせぇ、どこいったっけ?」
背後では相変わらず奴がぴーぴーガタガタと泣いて文句を言っている。
会社遅刻しそうで、泣きてぇのはコッチだっての。
「あ、あった」
俺は見つけたソレを持ち、奴の元へと引き返す。
奴はコレによって、俺に従うだろう。
人間様を舐めんなよ。
俺の右手にあるもの、それは。
《全自動洗濯機 クリーン1取り扱い説明書》
すすぎ1回の節水タイプだ。
「えーと、Eー4が点滅の場合は洗濯物の偏りです。ほぐしてスタートを押して下さい。だと?ンなの気合いで回れやくそったれ。大体日本語で書けよ記号なんざいちいち覚えてられっか!あぁ!もう!ぴーぴーぴーぴーうるせぇんだよ!!うぉ!またかよ!ガタガタ言ってんじゃねぇよ!おら!蓋開けやがれ!」
驚くべき事に、これらは全て独り言である。
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