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真夜中の一人修行


「今後の予定を決めよう」


 ベッドの上にあぐらをかきながら腕を組む。

 まだここが夢の世界だという可能性は捨てきれないが、ここが異世界だと仮定して今後の方針を決めていくことにする。そのために必要なのは情報だ。今なにが出来て、なにが出来ないのか。それを知ることが必要だ。

 まずは自分についてだ。

 見た目も年齢も能力もすべてのパーソナルデータが寝る前に考えた主人公のデータを引き継いでいる。

 特筆すべきはやはりGスキル――この世界の言葉で言うなら〝才能〟の部分だろう。


『全知全能』『英雄』『神眼』


 一つでも十分驚異的なのに三つもあれば世界だって征服できるかもしれない。

 改めて三つの才能について考えてみよう。


 ■

 全知全能

 この世界に存在する全てのスキルが取得可能。スキル取得条件を大幅に緩和。


 ■

 英雄

 取得経験値が増加、さらにレベルアップ時に上昇するステータス値が極大化。


 ■

 神眼

 本来なら直接手で触れなくては発動しない『鑑定』のスキルを、目で見るだけで発動することができる。さらに、『鑑定』よりも詳しい情報を取得することができる。


 実に恐ろしい能力のオンパレードだ。

『全知全能』と『英雄』のコンボで、あらゆるスキルを簡単に取得、早期にレベルアップさせることができる。

 成長型の俺TUEE主人公にしようとしたのは事実だが、これはいくらなんでもやりすぎたかもしれない。

 創り始めのプロットなんて大体こんなもんだ。書きたいものをそのまま書くからバランスとかそういうものは捨て置かれる。


「一番ヤバいのはやっぱり『全知全能』だよなあ……」


 本来なら何百・何千と繰り返すことで取得できるはずの技術を、たった一度で取得してしまうのだ。これが反則でなくてなんなのか?

 おまけに複数のスキル取得条件を満たした場合、一気にスキルを取得する場合がある。

 例えば、魔法とかだ。


 市から宿へと戻り、ウキウキとした気分で買ってきた魔法の教本に目を通し、一番の基礎となる魔力の操作を練習していると、


 ――Pスキル:魔法 を取得した

 ――Aスキル:『無属性魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『地属性魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『水属性魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『火属性魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『風属性魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『光属性魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『闇属性魔法』 を取得した

 ――Pスキル:特殊魔法 を取得した

 ――Aスキル:『聖魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『空間魔法』 を取得した

 ――Aスキル:『精神魔法』 を取得した

 ――職業:『魔法使い』 を取得した


 ずらずらとメッセージが流れてきた。

 これはひどい……。

 教本には魔法の操作を覚えるのに一週間。一番基礎の魔法を使えるようになるまで早くとも半年はかかると書かれていたのに、練習して五分でこの有様である。

 改めて自分のチートっぷりを再認識する。

 なんの努力も修行もせずに魔法が手に入ってしまったのは肩透かしだが、手に入れてしまったものは仕方が無いので魔法の実験をしてみる。

 この世界の魔法の構造はとてもシンプルだ。分割すると三つのパーツに分かれる。


 1つ。どの属性なのか。

 2つ。どんな形を取るのか。

 3つ。範囲と効果。


 以上だ。

 ここらへんは自分で設定した部分なので理解が早い。

 分かりやすく火属性魔法の基本『火球(ファイアーボール)』を例にすると、


 属性:火

 形態:球

 効果:単体、着弾時に爆発


 となる。

 スキルレベルが上昇すれば、効果範囲を広げたり属性を複数混合したりということが出来るようになる。

 属性ごとに相性の良い効果や形態があるので、そこは自分で見つけていく必要がある。

 球体はどの属性とも相性が良いので、魔法の基礎として重宝されているらしい。

 なお、『雷』や『氷』といった属性は風や水の属性の派生属性で、これらは『魔法』のスキルのレベルが上がると取得可能になる。

 それじゃあ、さっそく魔法の練習でも…………と、思ったが『火球』なんて危険な魔法を木造建築の宿の中でぶっ放したらどうなるかなんて火を見るより明らかだ。

 使っても問題なさそうな属性となると――


「『灯火(ライト)』」


 ぽっと手のひらにピンポン玉サイズの光球が現れる。

 光属性の基礎魔法、『灯火』だ。

 効果は単なる明かりであり、込めた魔力量によって持続時間が変わる。

 明るさは蛍光灯くらい。八畳くらいの部屋ならこれ一つで快適に過ごせそうだ。

 その後、~属性系の魔法について簡単に練習と実験を行っていく。

 特にこれが使えないということなく、イメージすれば大概使うことが出来た。

 効果と範囲についてはまだまだ制限が多いが、形態に関していえば今の時点でもかなり自由に操作できる。

 次に特殊魔法についてだ。


「こいつらはちょっと面倒なんだよな」


『特殊魔法』に属する魔法は、~属性の魔法たちと違って特定の動きしかできない。

『聖魔法』は回復系。『空間魔法』はワープやインベントリ。『精神魔法』は洗脳や魅了などだ。

『精神魔法』は効果が犯罪ちっくなのであまり使うことはないだろう。

 重要なのは『空間魔法』。特に必要なのはインベントリだ。

『空間魔法』のレベルに依存して異空間を構築することができ、レベル1だと六畳の部屋と同じサイズの空間を作り出すことができる。中に入ることはできないが、物を入れることができ、さらにインベントリに入れた物の時間は取り出すまで停止するので食料の保存なども出来る優れ物だ。

 異世界俺TUEEをする上で必須になるだろうと、インベントリに関してはかなり細かく設定したのでよく覚えている。


「『インベントリ』」


 試しに唱えてみると、目の前に黒い穴が空いた。

 手を突っ込んでみると空間の境目にぬるっとした感触がある。空間の中はひんやりしており冷蔵庫に手を突っ込んだような感覚だ。

 実験がてら鉄の剣を放り込み、インベントリを閉じて、再度開く。

 鉄の剣が問題なく取り出せることを確認して、閉じる。

 ついでなので剣の実験もしておく。

 ベッドから下りて、壁やベッドなどの家具を傷つけないように注意しながら軽く素振りをしてみる。

 二、三回振ったところで、


 ――Pスキル:剣 を取得した

 ――職業:『剣士』 を取得した

 ――職業:『魔法剣士』 を取得した


 わ~い、お手軽。

 おまけにカッコいい職業までゲットしてしまった。さっき手に入れた『魔法使い』と合わせて確認しておこう。


魔法使い

MPと知力に小ボーナス


剣士

腕力と敏捷に小ボーナス


魔法剣士

知力と腕力に中ボーナス。敏捷小ボーナス。


 魔法剣士はかなり優秀だ。二つの職業の良いとこ取りである。

 職業を変更しておき、そのまま剣をしばらく素振りしてみる。

 百回ほど素振りしたところで、剣のスキルが2に上がった。

 敵を倒さなくても修行していればスキルレベルは上がるようだ。そういう設定にしていたが実際に上がるのかどうか分からなかったので不安だったが問題なく上がるようだ。

 回数が少ないのは才能のせいだろう。やはりかなり反則的な能力だ。

 もっといろいろと試したいことはあるが、この狭い部屋の中じゃ難しいのでどこか適当な場所でやることにしよう。

 夕食もまだとってないし、夕食を頼みがてら修行に使えそうな場所でも教えてもらうことにしよう。

 部屋を出て、一階の酒場へと向かう。

 市から戻ってきたときはまだ客はいなかったが、部屋で結構時間を潰していたのか、酒場にはぱらぱらと客が入っていた。

 客から注文を取りつつ、忙しそうにフロアを歩き回っているカルロスを捕まえ夕食の注文をして、修行に使えそうな場所も質問してみる。


「あぁ~、街の中は兵士が見回りをしているから変なことをしていると問答無用で捕まるぞ。そういうことがしたいなら街の外でやったほうがいいだろうな」

「なるほど、了解です。お忙しいところすいませんでした」

「いいってことよ」


 適当な席に腰かける。料理がくるまで暇なので店内を見回してみる。

 もう既に客の何人かは相当飲んでいるのか赤ら顔で楽しそうに話している。酔客の話というのは馬鹿にできない情報源なので聞き耳を立ててみる。


「そういや、北の山に竜が出たって話だぜ!」

「王都のほうで祝い事あるらしいぞ。それの準備に人手がいるから騎士の見回りが減ってるんだとよ」

「今度入った商人ギルドの受付嬢めっちゃかわいかったぜ」

「国境沿いに不死者が出たってよ。近々ギルドが賞金かけるらしいぜ」


 う~む、情報がてんでばらばらだが面白い情報がいくつかあった。

 竜、不死者。人類の上位存在者たる彼ら。

 ヒロシの作った設定では彼らは好んで人間を殺戮したりはしないはずだが、人間にだって悪人と善人がいる。彼らの全てに良識を求めるほうが無理ってものだろう。

 低レベルの今はまだそんな強敵とか関わりたくないので、しばらくはこの街を拠点に活動したほうがいいかもしれない。下手に動いて面倒ごとに関わるのはごめんだ。

 物思いに(ふけ)っていると料理がきた。

 大きな椀に入った野菜のシチューに、黒いパンが二つと煮豆だ。

 飽食大国である日本人の感覚としては相当に質素なメニューだが、ファンタジー世界であることを考えればかなり上等な食事といえるだろう。

 シチューを一口食べる。

 塩が少ないのか味は若干薄めだが野菜のエキスがたっぷりと染みている。

 パンは固くてそのままでは食えたもんじゃないのでシチューにひたして柔らかくしてから食べる。

 味はお世辞にはうまいとは言えないものだが贅沢は言うまい。


(料理か……。こっちの世界でも自分で作ったほうがいいかもしれないな)


 以前は一人暮らしだったので家事は全部一人でやっていた。

 もちろん自炊もしていたので料理はある程度は出来る。材料を買って自分で作ったほうが安上がりなら経費削減のために自炊も考慮しておくことにしよう。

 ちゃっちゃと食事を済ませて宿を出る。

 正門から街を出て壁伝いに歩いていく。ここらへんはなだらかな平原になっているので修行ならどこでもやれそうだが、魔法の練習をしているところを兵士に見咎められると面倒になりそうな気がするので、正門から死角になる場所まで移動した。

 空はすっかり黒く染まり、月明かりだけが静かに下界を照らしている。

『灯火』を使って光源を確保しつつ、黙々と歩いていく。

 小さな雑木林を見つけたので中に入る。

 これで周囲から見られることはない。

 見られて困ることは特にないが、一応念のためだ。


「さて、実験開始といくか」


 右手で剣を抜き、左手に魔力を込める。

 近くの適当な木を剣で斬りつけると同時に、魔法を放つ。使ったのは風属性の魔法『風斬(ウインドカッター)』。不可視の斬撃が木をすり抜けていく。

 魔力はほとんど込めなかったので木の表面にいくつか切り傷がついた程度だが、実験結果としては成功といえる。


「剣と魔法を同時に使うのはそんなに難しくないな……。あとは魔法が現時点でどこまで出来るか検証だな」


 思いつくままにいろいろと魔法を使っていってもいいが、レベル1の状態ではどうせ大したことができないのでまずはスキルレベルを上げておくことにする。

 簡単な魔法を何度も何度も出したり消したりを続けていく。おそろしく地味な作業だが、修行というのは本来地味な作業の連続なので、今までが異常だっただけだ。

 一時間ほどかけて全ての魔法レベルを2に引き上げる。

 ここからは本格的に検証開始だ。

 やりたいのは魔法を戦闘以外にも活用できるのかということと、魔法は複数組み合わせたり出来るのかということだ。

 例えば、水で渦を作って洗濯したり、土魔法で鍋を作って風魔法で高気圧を作り出して圧力釜に出来るのか、とか日本の科学を魔法で応用できないか試したい。

 結果だけいうと――


「大成功だな……というか、予想以上に応用が利くんだな魔法って」


 ――Aスキル:『創造魔法』 を取得した


 どうも、この世界の規定から外れる魔法を作ると創造魔法というカテゴリに入るらしい。洗濯の魔法を作るなりいきなりスキルを取得し脳内に、


 ――『洗濯(ウォッシュ)』 を創造した


 と出たときは本気でびっくりした。

『神眼』で『洗濯』を調べてみると、


洗濯

属性:水

形態:渦状

効果:渦の中にいれた衣服や布などを浄化する


 完全に洗濯機である。

 魔法を使った家電製品の再現はさほど難しくなさそうなのでこの世界で生活していくのはさほど苦労しなくて済みそうだ。

 あとはエアコンとか空気清浄機なんてあれば使えそうだ。

 試しにやってみるかと魔法を使おうとした瞬間、急に吐き気に襲われた。

 視界がぐらっと揺れ、強烈な寒気が全身を走り抜ける。足元がふらつき立っていられない。半ば倒れるように膝をつく。

 荒く息を吐きながらなんとか呼吸を整えようとするがうまくいかない。喘ぐにように地面に倒れる。

 全身から脂汗が噴出し、冷たい大地に吸い込まれていく。


(――なにが起きた!?)


 突如発生した異常事態にヒロシの脳内がパニックを起こす。

 悪化していく体調が意識の混乱に拍車をかける。

 回復魔法ならなんとかなるのでは? そう思い聖魔法を使おうとするが、激しい嘔吐感に邪魔されて魔法を唱えることすらできない。

 陸に打ち上げられた魚のようにしばらく悶絶する。息は絶え絶え、まるで壊れた掃除機のような音が自分の喉から漏れていく。

 一体どれくらいの時間倒れていたのか。もしかしたら死んでしまうのでは? という恐怖と戦う時間はほんの一分ほどの時間をまるで永遠のように感じさせた。

 症状が薄れ、呼吸を整えながらヒロシは上体を起こす。

 呼吸はまだ荒いが、さっきまで感じていた寒気や吐き気は綺麗に消えていた。

 なにかの風土病に罹患したか、知らないうちに毒を吸ってしまった可能性を考え、解毒魔法を使った瞬間――


「……うぇ!」


 またも吐き気に襲われてぶっ倒れた。


「……オーケー、つまりは…………うぅ……魔力が切れると…………こうなるっ、うげ……わけ、……だ……」


 考えてみればヒロシのレベルはたったの3。

 かなり魔力をケチって練習していたとはいえ、初心者があれだけの数の魔法を使用していれば魔力切れを起こして当然だ。

 HPとMPが表示されないのでついつい油断していた。

 これからは残量に気をつけないと本当に必要なときに痛い目を見そうだ。


「これじゃあもう練習なんて無理そうだな……。明日もやりたいことあるし今日はこの辺にして帰るか」


 ふらつく足に喝を入れてなんとか立ち上がる。

 暗くて歩き難いが、魔力が切れているので『灯火』を使うことも出来ない。

 無事に宿に着けばいいけど……と不安になりながら、ヒロシは暗い夜道を一人ふらつく足で歩いていく。


 ヒロシの長い一日が終わりを告げた。

ブックマーク有難うございます。

プロットで第一章として考えている部分までは毎日更新していこうと思います。

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