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少年のお願い 2

今回は話しの都合上ちょっと短いです。

その分、次回の更新は早めにするようにします。

「お二人には自分の護衛をお願いしたいんスよ」

「護衛? ただの採集依頼になんで護衛が必要なんだ?」


 依頼書には道中に出会うであろう魔物が書かれていたがどれもレベル5以下の雑魚ばかり。レベル10のウルルならソロでも問題なく狩れると思うし、討伐依頼ではないので最悪逃げ回れば一切戦わずに依頼を達成することができる。

 わざわざパーティを組んでまで護衛を頼む理由はなんなのか?

 採取系の依頼にしては報酬が良いとはいえ、それはあくまでソロの話であってパーティを組んだら報酬も山分け。うまみはかなり目減りする。


「あの依頼で採取する花は夜にだけ蜜を出すんスよ。それを採取してすぐに調合すると変わった薬が作れるんスよ。調合は時間がかかるし、その間は身動き取れないッスからもし魔物に襲われたら調合を中断しないといけなくなるッス。そうなったら、調合に使った素材が全部ダメになっちゃうッスよ」

「なるほど。つまり、俺らに調合を邪魔されないようにして欲しいってことなんだな?」

「そうッス」


 ウルルが元気よく頷く。

 護衛を頼みたいなんて言うからてっきりヤバい仕事にでも巻き込まれるんじゃないかと警戒してしまった。


「ちょっと質問なんだが、その調合って特別なスキルとかいるんじゃないのか?」

「そうの通りッス。薬の調合には錬金のスキルが必要ッス。自分、錬金スキルはレベル2なので問題ないッス」

「ちなみにウルルは錬金スキルをどうやって手に入れたんだ? やっぱり錬金ギルドに登録して修行したのか?」

「いえ、自分は家にあった入門書で覚えたッス。ギルドで修行するには金貨が必要ッスからお金がかかるッス」

「独学で覚えられるもんなのか」

「時間は掛かるッスけど、出来なくはないッスね。自分の場合はスキル覚えるのに一年掛かったッス」


 これは貴重な情報を手に入れた。

 本を読んで独学でスキル入手が可能なら、『全知全能』持ちのトレインなら魔法と同じようにすぐに取得できるだろう。

 ギルドで修行なんてしたら自分の異常性がバレるかもしれないので正直どうしようかと思っていたのだ。

 ルヴィエラの件もそうだが、トレインは自分の異常性について維持でも隠していこうと思っているわけではないが喧伝するつもりもない。ちょっとした努力で隠せるならなるべく隠していこうと思っている。


「悪い。話の腰を折ったな。それで、ウルルは依頼と一緒に調合で薬作りをしたい。でも一人じゃ出来ないからパーティを組んで助けてもらおうってことでいいんだな?」

「はいッス」

「それじゃあ次はこっちの話だ。さっき俺たちにもメリットがあるって言ってたよな。あれはどういうことだ?」

「協力してくれるなら薬を売った利益の半分を二人に渡すッス」

「せっかく作ったのに売るのか? なにかに使う予定があるんだと思ったんだが」

「元々売るために作るんで問題ないッス。ちょっと急ぎでお金が必要になったんで稼げる薬を作りたかったんスよ」

「理由を聞いても?」

「十日後に商人ギルドで大きな市が開かれるんスけど、そこで自分が前から欲しかった材料が売りに出されるらしいんスよ。でも、結構高いんで市までにお金をなるべく貯めておきたいなって思って」

「それじゃあ薬は結構いい値段で売れるのか?」

「一瓶銀貨70枚くらいッスね。頑張れば一晩で30本くらい作れるッスけど、多分蜜がそこまで手に入らないッスから作れるのは20本くらいッスかね?」


 それでも金貨12枚だ。利益が半分で、さらにその半分をもらえるとしたら金貨3枚。

 ただの採取の依頼だということを考えれば高すぎる報酬だ。

 ボス狩りとは比べるまでもないが、普通の依頼も受けてみようと思っていた矢先だったので効率については気にするまい。

 錬金術を生で見れるチャンスでもあるし引き受けてみてもいいだろう。

 もしなにかあったとしても、今の自分とルヴィエラなら大概のことは問題にならない。

 受けてもいいか? とルヴィエラに視線を送ってみる。

 トレインの意思をなによりも大切にするルヴィエラなのでまず断ることなどないとトレインも分かっていたが、なにか意見があれば聞きたいと思っての行動だったが、


「ご主人様の決めたことにボクは従います」


 テンプレな返事をもらった。

 いや、そういう言葉が欲しいわけじゃないんだけどと思ったが、意見を聞くことが大切だったのだからまあこれでよしとしておこう。

 ウルルに護衛を引き受ける旨を伝えると、彼は飛び上がらんばかりに喜んだ。


「ありがとッス! ありがとッス!」


 こっちの手を両手で掴み、ぶんぶんと振ってくる。正直ちょっと痛いのだが空気呼んで笑顔で耐えた。

 よほど嬉しかったのか彼の目元は少し涙で潤んでいた。

 良いことをしたなと思うよりも先に、商談成立を喜んでいるにしては大げさな反応に、ウルルの目的が言葉通りのものではなくなんかしらの裏があることを察した。しかしトレインはそれについて問い詰めるつもりはない。人間誰しも全て本音で生きているわけじゃない。かくいうトレイン自体が秘密盛りだくさんの役満状態なのだから。

 それにまだほんの少ししか話していないが、彼が悪意をもって近づいてきたわけじゃないくらいは分かる。もし、これが演技なのだとしたらどれだけ疑ったとしてもトレインには見抜くことなんて出来そうにないので結局トレインたちが取る行動に変わりはない。

 裏切られたら戦えばいいだけだ。

 見た目が子供だと侮った相手を打ち据えるなど赤子の手を捻るよりも簡単だ。


「それじゃあギルドに行って依頼を受けておこう」

「そうッスね」


 三人は連れ立ってギルドに向かう。

 依頼書はさっきと同じく掲示板に貼り付けられたままだった。ウルルはステップでも踏むかのようなはしゃぎようで依頼書を引っつかむと受付に足早に向かっていく。

 人の良さそうな受付嬢を相手にテンションマックスのままパーティの登録と、依頼の受付を済ませたウルルは一仕事終えましたといわんばかりに晴れやかな顔を見せていた。

 若い冒険者三人組の華やいだ雰囲気に、周囲の冒険者たちは微笑ましいものでも見るような目をしている。

 そんな暖かい空気の中に、獲物を狙うハイエナのような粘りつく視線が混ざっていたことに三人は全く気付かなかった。



 出発は明日の早朝と決め、今日は準備に当てることと明日の集合時間と場所を簡潔に決めて二人はウルルと分かれた。

 片道二日。往復で四日の小さな旅なのでそれほど準備に時間は掛からない。

 脅威となるモンスターも存在しないのでトレインにとってみれば近場に遠足へ行くのと気分的にはなんら変わらなかった。

 なんせインベントリを持つトレインには『荷造り』をする必要がない。

 インベントリ内は無限に続いているし時間が凍結している上に、引き出したいものを念じればすぐに取り出すことも出来るので整理をする必要も、持って行く道具を取捨選択する必要もない。

 必要そうなものは全部インベントリに放り込んでおけばいい。

 しかも、中に放り込んだものは腐ったりもしないので日持ちの計算をする必要もない。

 ゲーム感覚で「あったら便利だよね」程度の気持ちで作った魔法だが、実際にリアルな世界で生きてみるとインベントリがどれだけ反則的な魔法かがよく分かる。


「なにがいるかな?」

「大した距離もないですし、今は気候も穏やかなんでいるとしたら食料ともしものときのためのポーションくらいですかね」


 トレインの何気ない問いに、ルヴィエラが気軽に応じる。

 ルヴィエラの意見は旅なれた者が聞けば「気楽に考えすぎだ」と説教を食らいそうなものだが、吸血鬼であるルヴィエラにしてみれば旅というのは身一つでどうとでもなってしまうものなので人間の感覚とズレがあるのは致し方ないことだ。

 ルヴィエラの回答がいかにも軽いものであったことはトレインもすぐに察し、旅慣れてない自分があれこれ考えたところで答えなんて出ないだろうと早々と諦め、ギルドの売店に向かい金貨の入った袋を放り投げた上で、


「旅に必要なものを一通りください」


 丸投げすることにした。

 トレインのあまりな態度に店員は苦笑いだったが、向こうの言いなりになるまま金を払ってやった後は終始にこやかな笑顔を浮かべていた。



4000PV達成しました。本当にありがとうございます!


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