まさかの結末
前回が長かったので、今回は短めです。
今週はちょっと予定が空いているので、更新速度を上げたいと思ってます。
「いやあ、まさかこうなるとは思ってなかったわ」
トレインが呆れた声でつぶやく。
トレインの目の前には首を斬り飛ばされたガルフビーストの死体が転がっている。
さらには大部屋一杯に展開されていた雑魚モンスターたちも一匹残らず倒れている。
「すごいです、ご主人様! ボスを一撃だなんて」
「あぁ~~……、うん。なんだろうな」
ルヴィエラの賞賛に、トレインはなんともいえない顔で返す。
素直に喜べないというか、どうしてこうなった? というか。
事の経緯を一度思い出してみる。
まず、二人は迂闊にもモンスターハウスに入ってしまい包囲されてしまった。
なので、まずは通路へと逃げ込み迎撃の態勢を整えようとした。
すると、出口を塞ぐようにボスが現れた。
さすがにこれにはトレインも死を覚悟した。モンスターハウスってだけでも脅威なのに、そこにボスまで加わるとか無理ゲーにも程がある。
こうなったら逃げながら一匹ずつ地道に倒していくしかない。
とりあえずは通路まで逃げる。まずはそれからだ。
覚悟を決めてトレインは突っ込む。
トレインの意図を察したわけではないのだろうが、ボスは出口を死守するのではなくトレインに向かって突っ込んできた。
(――早ッ!)
巨体とは思えぬ速度で一気に距離を詰めてくる。
その速度は『軽身』を発動させたトレインに匹敵する。
スピードは互角、パワーは見た目からして負けている。おまけにリーチも負けているとなれば正面からぶち当たればまず勝ち目はない。
トレインは早々に戦うことを放棄し、回避に専念する。
ボスが上半身を捻り、攻撃の態勢を取る。食らえば間違いなくお陀仏確定の攻撃。トレインは即座に『極集中』を発動させる。
スローモーションで流れる世界。ガルフビーストの放つ渾身の一撃がゆるゆると自分に向かって迫ってくる。
反時計周りに体を捻り、スレスレで攻撃を回避する。
かすった頬からピっと血が弾けた。
腕をすり抜けて背後に抜ける。
回避に全力をかけたせいで、体勢が崩れて体が流れる。まるでコマのように体が回る。回転する視界に映ったのは無防備なボスの背中。
――いけるか?
大概こういうときにこういうことを言うと失敗のフラグなのだが、トレインはテンパっているので気付かない。
ダメージを与えられるとは思わないが、ひとまずどれくらいタフなのか知るためにも一発攻撃を当てておこう。
そう考えてトレインは遠心力を込めて横薙ぎに刀を振るう。
刃は防がれることなくガルフビーストの首へと到着し………………なんの抵抗もないままにそのまま振り抜かれた。
「え?」
空を切った感触に、回避されたと戦慄したトレインだが、直後に血を撒き散らしながら宙を舞う頭部を見て呆気にとられる。
ドチャっと水音を立てて落下する首と、低い音を響かせて崩れ落ちる身体。
あまりのあっけなさに死んだふりなのか? とかバカなことを疑ったが、しばし観察してもガルフビーストはピクリとも動かない。
――ガルフビースト を倒した
どうやら本当に一発で終わったらしい。
ボス……弱すぎないか?
いや、確かにスピードに関してはすごかったし攻撃力も当たりはしなかったがかすっただけで頬の肉を少し削られたくらいだ。直撃すれば一発昇天間違いなしだっただろう。
攻撃と速度重視で、防御面は紙同然というピーキーなモンスターだったのか?
そう思わないと辻褄の合わないあっけなさだ。
ボスについてあれこれ考察していると、背後でドサっとなにかが倒れる音がした。
そこで、自分が魔物に包囲されていたことを思い出しトレインは慌てて戦闘態勢を取って周囲を確認すると、さっきまで威勢よく襲い掛かってきたモンスターたちが糸の切れた人形のようにドサドサ倒れていく。
またも呆気に取られている内に、百近くはいたと思われるモンスターが一匹残らず死体へと変わっていた。
~を倒した、というメッセージが乱舞する。
全部流れ終わったところで、レベルが10に上がったというメッセージが流れる。
一気に4レベルアップか…………。ボス倒したことを含めてもいくらなんでもうますぎだろ。
昨日の努力は一体なんだったのか?
いや、昨日の狩りのおかげで刀は買えたし雑魚モンスター相手ならやっていけると確認できたのだから無駄ではなかったのだが……。
なんとなく納得できないものを感じるものの、効率よくレベル上げができたのだから結果オーライとしようとトレインは開き直ることにした。
そして、冒頭へと戻る。
「雑魚が一気に倒れたのはやっぱりボスを倒したからなのか?」
答えが返ってくるとは思ってないが、試しにルヴィエラに問いかける。
「申し訳ありません、ご主人様。ボクもそんなにダンジョン詳しいわけじゃないので」
「ああ、そうか。そりゃそうだよな。なんでも知ってるわけじゃないし。悪いな、なんでもかんでも聞いて」
「いえ! ボクは奴隷なんですからご主人様の望むがままに扱ってください! できればもっとぞんざいに、ゴミでも見るかのように!」
はあはあ、息を荒げるルヴィエラ。
こいつ少しでも隙を見せるとすぐに変態に走るな。
「そういうのはまた今度な。さて、ひとまず素材だけでも剥いどくか」
ルヴィエラをさくっと無視してトレインはガルフビーストの素材を剥ぎ取る。
どこが売れるのか分からないのでひとまず解体を優先する。
肋骨を剥がして心臓付近を解体していると、タバコの箱サイズの結晶のようなものがあった。剥がして光に当ててみると、薄く紫色に光っている。
多分、これが魔石なんだろう。
『神眼』で鑑定してみると、
■
魔石 ランク:C
と出た。
ランクというのはどういうもんかよく分からんが、多分そんなに質の良い物じゃないだろう。とりあえずガルフビーストの素材と一緒にインベントリに放り込んでおく。
他にも、ツインテイルの素材を高く売れる部分だけ剥いでおく。
残った死体はどうするかと悩んでいると、
「ダンジョン内なら死体は放っておけば勝手にダンジョンが片付けるので問題ないですよ」
ルヴィエラが教えてくれたので、素材を剥いだ後の死体はひとまとめにして放っておくことにした。
「それじゃあ、ボスも倒したし一端ダンジョンから出るか。来た道戻るだけだし、一時間あればいけるだろ」
「ご主人様。ダンジョンの一番奥まで行けば、外に出られる魔方陣があるはずですよ」
「え、マジで? すっげえ便利じゃん」
行きは面倒だけど、帰りは一瞬なのか。
楽でいいな。…………いや、一番奥ってことはその魔方陣を利用するには必然的にボスを倒さなくてはいけないわけだから、それほど便利ってわけでもないのか。
ボスを倒さずに雑魚だけ狩るようなスタイルなら一々出口まで戻らなくちゃいけないわけだし。
「それじゃあ、奥に行ってみるか」
「はいっ」
大部屋を抜けて、奥へと進んでいく。
最奥の部屋はまるで神殿のような祭壇があり、その前にはルヴィエラが言うように大きな魔方陣が地面に書き込まれている。
魔方陣からは淡い紫色の光が浮かんでいる。
「あれに乗ればいいのか?」
「はい。魔方陣は発動してるみたいなんで乗れば勝手に移動しちゃうはずです」
「あれが罠ってことはないのか? 例えば、地図には載ってない別のダンジョンに飛ばされるとか」
「う~ん、そういうのは聞いたことがないです。それに、こんな低級ダンジョンでそこまで凶悪な罠が設置されているとは思えないですね」
「そりゃそうか」
あまりにボスがあっけなかったのでまだなにかあるんじゃないかとつい疑ってしまった。
ルヴィエラが言うようにここは低級ダンジョンなのだし、きっとこういうもんなんだろう。
魔方陣に乗ると、白い光に包まれ、光が消えると森だった。
後ろを振り返ると、ダンジョンの入り口がある。
「おお、本当に一瞬だな。空間魔法もレベルが上がればこういうのできるようになるのかね?」
空間魔法は現在レベル2。使用できる魔法はインベントリだけだ。
レベル3以上からワープやポータルなどの役立つ魔法が増えていくので、さっさとレベルを上げてしまいたいところだ。
「ダンジョンから出ればボスって復活するんだっけか?」
「そうです。地図もありますし、まだお昼を過ぎたくらいですからもう一回くらい行っておきます?」
「そうだな……。レベルも上がったし、次はもっと楽にやれそうだしな」
一周で二時間掛からないし、もう一回やっても夜までには街に戻れるだろう。
それにボスが本当に一発で倒せるのかの確認もしておきたい。さっきのはなにかの間違いで特別弱い奴だったという可能性もないわけではない。
トレインは、少し休憩してからもう一度ダンジョンに入ることにした。
結果から言うと、ボスは一発で倒せた。
トレインはレベル11になった!
PVが3000を越えました。本当にありがとうございます。
トレインのちょっとぬるめな俺TUEEをこれからもよろしくお願い致します。