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プロローグ 暗雲は立ち込める



 傍観者 第三者


「七十二万分の一…これが何の数字かは養成施設で習って来たか?」

 金髪とは言えない薄黄色の髪をした青年は町中のベンチに腰掛け、隣に座る銀髪の美女に声を掛ける。暦ではゴールデンウィークも過ぎ、少しずつ過ごし易い気候になって来て街の人々にも活気が見えているが、二人は互いに黒いコートを着込んでいて春を感じられない。

「悪魔の比率ですね。」

 難しい顔をして淡々と答えたる銀髪の女性。二人が仕事上の関係だと誰が見ても一目瞭然だが、女性には他の感情もあるように見て取れた。

「正解。世界人口、約七十二億人に対して約一万の悪魔憑きという話だ。人類は日々少しずつ悪魔の侵略を受けている。それが始まったのが…」

「一九九九年、バルセロナ。」

「そう、サグラダ・ファミリアでの事件だ。少し長くなるが悪魔の起源を僕の俯瞰と共に聞かせよう…」

 街を行き交う人が人に見えなくなって、人が怖くなる話を聞かせるよ。と男は勿体ぶっていた。

「……大丈夫です。私はもう恐怖なんてありませんから…」

 過去を思い出し、銀髪の女性は体を抱いていた。男は語り始める。

「…これはどうにもならない人間の話だ……


 ―スペイン バルセロナ サグラダ・ファミリア

 建設まで300年はかかるとされているサグラダ・ファミリアだが、建設途中でありながらユネスコ世界遺産に登録されるほど価値のある文化財だ。カトリック精神に則り、主イエスについて彫刻されているその光景はカトリック信者には感じるものがあるのかもしれない。


 イエスの栄光を表すメインファサードに聳える柱、十二使徒、四福音記者、マリア、イエスの十八本で形成されるが突然現れたその存在はイエスの柱を薙ぎ倒し、協会内に混沌と静寂を齎した。原因不明の出現にも関わらずある男により存在は沈黙させることはできたのだが、何百人もの犠牲を出した挙句、分散して逃げた否定存在を捉えることは叶わなかった。無論世間には衝撃的過ぎて公開できるような内容ではなかったため、そのことを知る者はその瞬間サグラダ・ファミリア周辺に居た者の極僅か。知りえた者は黒くどこまでも深い闇を纏ったその存在をNOTと呼んだ。」

「悪魔の起源ですね。施設で何度も聞きました。そこに居た男については多く語られず、ラルフ・アルランデルという名と一緒にいたとされるフローラという女性。今から十年以上も前の話ですが、安否は不明と聞いています。」

 開始一分で耐えられなくなったのか、口を挟んでくる銀髪の女性。しかし男は苛立ちを覚える事もなく、彼女の博学さに感心していた。

「よく覚えているね。じゃあここからも覚えているかもしれないが、続きと行こう。

 現在解っているNOTの特徴は体からドス黒いケムリが溢れ出し、人間を食し成長する。行動原理は自分たちの成長、つまり人間の捕食と、歯止めを知らない破壊衝動。知能に関しては捕食と比例し、人間を喰らう程に知識が豊富になるとされ、重要視されている。

NOTにとっての食すとは、人体に取り憑き、人間の体から成長に必要なエネルギーを食らい、人間の体を操るというモノ。NOTが取り憑いている最中も媒体となった人間の意識や理性は正常に保たれるため、最初のうち我々は気付くことができなかった。食事を終え、媒体となった人間を食い尽くすとその皮を被ったまま、次の餌を探しに行く。NOTはいつでも我々の近くにいるかもしれないのだ。

NOTについて我々は無知であり、それゆえに恐怖する。奴らは悪魔と罵られ、人類を脅かす異星人と考える仲間も少なくない、その考えが正しいのかもしれないが、我々はこのことについてもっと議論していく必要がある。NOTに関して一般公開することはまだない、この先がどうなるか解らないが公開しないままに事なきを得て解決することを各国首脳は願っている。イエスの柱を薙ぎ倒し現れた否定存在は勢力を強め現在に至り、国家権力によりこれからも国家機密となるだろう。秘匿が裏目に出ないことを祈るばかりだ。 


 かのサグラダ・ファミリアでの一件から十年が経つと当時のことを知る人間は少なくなった。夜な夜な悪夢に魘され自害した者、不自然な事故で亡くなる者。不可解な事件は日が経つ毎に減っていきいつの間にか日常に戻っていた。今やあの一件を知るのは十三委員会の我々と国連に属する先進国の上層部だけになる。割と周知の事実になっているとはいえ、その情報を迷信だと信じていないものも多い。だが、NOTに関係する事件はここ最近多発し我々の組織を国連に知らしめる形になっている。現段階ではNOTに対抗しうる武力を持っているのは十三委員会のみ。軍の兵器は効かず、核弾頭すらも影響はないが、十三委員会に属するNOTの遺伝子を組み込んだ兵士は、直接NOTにダメージを与えることが可能になった。」

 彼女は男の語りを黙って聞いていたが、またしても口を挟みたくなったらしく、アワアワと身体を動かしている。動くたびに揺れる彼女の胸が非常に気になるが、男は眼を閉じて冷静を保とうとする。

「そういえば十三委員会の歴史…創立については語られませんでしたが…何か裏があるようですけれど…」

「……十三委員会のことについてはこれから分かって行くさ。僕だって本当の創立については知らないし、推測の域を出ないからここで語ることは出来ない。

さて…続きと行こうか。

なぜ、そんなことができるのか。それは十三委員会には一つ、どの国にも負けない力を持っているからだ。それがNOTの『眼』。彼らはどこから持ってきたのか、NOTの『眼』を所持し、そこから細胞核を取り出しては兵士たちへ組み込む。勿論、NOTに対抗しうる兵士になれるかどうかというのは兵士個人の先天的な才能に委ねられている。適合できなければそこで爆死、ギャンブルにしても賭け金の高すぎる賭けを良くやるものだと我々は思うのだが、兵士は皆が皆、親や家族、友をNOTに殺されていると来ているので恨み、憎しみの矛先が向けられる場所として今、密かに勢力を伸ばしているそうで。といっても両刃の剣、各国の官僚たちは危険度の高い我々に好感を抱いてはいない。いつ裏切るか、人間なのかNOTなのか判別のつかない奴らには任せられないと強く批判されることが殆どだ。どれだけ罵られようと我々には果たさなければならない目的がある。それは『この世に存在するNOTを全て始末する』こと。

 カトリックとギリシアは宗教的にあまりいい関係ではないと聞くが、ここにも宗教的な対立があるのかもしれない。サグラダ・ファミリア、イエスの柱を倒し現れた否定存在NOTはこの世に再誕した絶対神イエス。そこから十二体の使徒とマリアを復活させ、各地へと分散していった。これを十三委員会のギリシア神話を信仰する我々は十二神を模し、信仰する神を殺す『神殺し』の汚名と共に世界を救うと誓う。敵の眼を利用し、キリスト教の力を借りて戦うことは自分たちの宗教への反逆行為と言えるだろう。

 我々はオリンポス十二神から除外された冥界の神。十三番目の存在。ギリシアに居ながらして敵と同義の忌み嫌われた存在。

『悪魔の我々は敵を殺すことを主目的とし、人助けを目的としない。』


最後には我々兵士も全員抹殺される。

それはNOTという言葉を後世に残さないため、

生殖の可能性をなくしたいからだ。

自分の宗教を裏切った者の行き着く先が死だと解っていて我らは戦う。

 NOTの存在を知らない無垢な人々のために、魂をこの身をも犠牲に対価として力を得る。



 それが―――悪魔との約束。」


 長話を聞き終えた銀髪の女性は閉じていた眼を開けると口を開く。

「我々兵士には意志が無い…?」

「下っ端はせっせと働けと言うことだな。大きな組織にはよくあることだ。一々気にしていられない。自分の意志を通したいのなら、のし上がるしかない。」

「ご最もですね。それで今回の遠征は日本ということでしたが、教官の故郷じゃないですか?何か名所があれば教えて頂きたいです。」

 薄黄色の髪をした男は困った顔を作るとベンチに深く凭れ掛かる。伸びをして空を仰ぐと眼を女性に向けた。

「……僕たち遊びに行くんじゃないよ。名所なんて言ってる余裕はないと思うけど。何が楽しみでそんなことを聞くんだい?」

「それは、生きて楽しみたいからです。いつ朽ちるのかもわからないこの身体じゃ今見ておかないと後悔すると思うので……私たちみたいな存在だと特に。……あ、教官。あのバスじゃないですか?」

 先に見えるバス停に市民バスが入ってくるのが見えた。他にも利用客が居て乗り降りには時間がかかりそうだった。

「そうだな。行こうか。」

「Yes, my God.」

 黒コートの二人は市民バスへ乗り何処かへ向かった。




▼十三委員会 依頼書 最終試験通達


 受講者 ヴィルマ・ガソット ギリシア人女性 

 引率者 神戸四季 日本人男性 


 目的地 日本 陽正高校

 達成目標 ヴィルマ・ガソットがNOT討伐

 追記 合否の判断は引率者に委任する


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